いとしのわが君

ナギ

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それから、の話

赤公、蒼公

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 蒼公が人の姿をとれるようになった。
 その姿はいつもとっていた少年よりさらに幼く、子供だ。
「赤公はあちらそのままなのに、何故小さく……なっている……」
「なじみきってないからではないか」
「そうだろうか」
「もしくは、こちらでの最適化がそれなのだろうよ」
「これが!?」
 ぎゃんぎゃんと喚く蒼公をうざったらしいというようにムゥは粗雑に扱う。
 自分はブランシュと一緒に楽しく穏やかに過ごしていたのに、突然の乱入者。
 気分が害されないわけがなかったのだ。
 しかし。
「蒼公様、かわいいと思います」
「え?」
「小さい子は、かわいいので……あっ、かわいいって失礼になります?」
「いや、別に良い。それは褒めているのだろう?」
「はい。私の膝の上に座ります? テーブルでお茶、飲みにくくありませんか?」
「ブランシュ!?」
 その、膝の上に乗ります? に、ムゥは反応した。
 そこは獣の姿の自分の特等席。そこに、人の姿の蒼公が座るなど。
 そんなの、認められるはずがないわけで。
「座って良いなら、その言葉に甘えさせてもらおうかな!」
 しかし駄目だと言う前に蒼公は返事をする。そしてぴょんと椅子から降りてブランシュの膝の上に座った。
「ほう、確かにこっちのほうが菓子にも茶にも手が届きやすいな!」
「今度までに底上げのクッション、準備しておきますね」
「そういうのはクロヴィスに言えばでてきそうだな」
 なるほど、そうしましょうと蒼公の言葉に頷く。
 蒼公は――5歳に届くか、届かまいか。
 それくらいの姿かたちなのだ。それでは大人用の椅子に座ってもテーブルの上のものに手は届きにくいし不便そうだなとブランシュが思ったから声をかけた。
「ブランシュ、そいつにそのようなことをしてやる義理はない、おろせ」
「なぜ?」
「なんでも、おろせ」
「赤公の気に入りよ。こいつは俺に妬いているのだ。そのままにしておけしておけ」
「妬く?」
「あっ、蒼公!」
 そうだ、と蒼公はふふんと言う。勝ち誇った笑みを、赤公に向けてだ。
「こいつはな、俺が気に入りの膝の上にいるのが気に入らないのだ、うらやましいのだ。はっはっは! 良いだろう良いだろう!」
「膝の上って……ムゥ、相手は子供なのよ?」
「ブランシュ、形はそれでもそやつはお前よりもずっと長生きをしておる幻獣だからな!」
「……そう言われればそうだけど」
 けど、やっぱりとブランシュは言って。
「ムゥがわがまま、言ってるのよ」
「っ……おい、蒼公」
「なんだ?」
「届けば、どちらの膝の上でも同じことよな?」
「…………いや、大違いだろう」
「俺も、不本意ではある。あるがしかし、それを認めるわけにはいかぬ」
 ブランシュ、よこせとムゥは蒼公をその膝の上から奪いとった。
 ここで良いだろうとムゥは蒼公に据わった目を向ける。
「や、やめろ! なぜ! お前の! 膝の上に! すわらねばならぬ!」
「だから、俺も不本意だと言っている」
 じたばたと暴れる蒼公。
 ブランシュは二人を仲良しねと眺めるのだが、どこがだ! と声がそろう。
 そういう所が、と思うのだがそれは言葉にせず笑みに含んだ。
「くそ、こ、こんな屈辱! もっと成長しなければならん!」
 蒼公は叫ぶ。絶対に成長し、この膝から逃れてやると。
 ムゥもはやく大きくなってどけと不機嫌あらわに零していた。
 やっぱり仲良し。ブランシュはそう思うのが、また口にすると喚きそうなのでだまっておいた。
 しかし結論として――その後、蒼公が目に見えた成長をみせることはなかった。




傍らの世界からみられててお腹抱えて笑われてるのは間違いない感じ。
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