いとしのわが君

ナギ

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それから、の話

唯一見つけたその瞬間

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 その時のことを、ムゥは決して話さない。
 それは自分だけの、唯一の思い出。それを誰かに話すなど、したくはないと思っていたからだ。
 それがたとえ、ブランシュであっても。
「ねぇ、あなたいつ、私を見つけたの?」
「こちらの世界を見るのは戯れに毎日していた。ふっと視線を回した時に見つけただけだが」
「だから、それはいつ、何をしていた私なの?」
「覚えてない」
 覚えてないと、幸せそうに笑う。ブランシュは、嘘だわと思う。
 この幻獣がそういった事を忘れるとは思えないからだ。
 現に先程、こちらに来てから半年たったなどと、ブランシュがまるっと忘れているようなことをさらりと言ってお祝いをしようと言っていたのだから。
 そんなことを言うムゥが、決して自分を見つけたその時のことを話そうとしない。
 それは、覚えているが話したくはない。と、思っているからだろう。
 では何故、話したくないのか。話さないのか。
 それが納得できるのなら、ブランシュもこれ以上は聞かないと決めて問うた。
「覚えていないはずなんてないじゃない……だって、ムゥだもの」
「うん?」
「あなたが、私とのことを忘れるわけがないわ。何故、話してくれないの?」
 その言葉にムゥは瞬いて、笑い零して手を伸ばした。
 頬に触れて、親指で目尻を撫でる。
「お前は俺のことをよくわかっているな」
 幸せそうにその表情は綻んで、なんだか居心地が悪くなる。
「そう、俺はちゃんとお前を見つけた時のことを覚えているぞ、ブランシュ」
 けれどそれは、その時のことは俺だけのものであってほしいのだ。
 そう、ムゥは言って笑む。その笑みは、なんだか幼いものでブランシュもつられて笑ってしまった。
「私にも駄目なの?」
「ブランシュには、そのうち……話そう。けれどもうしばらく俺だけが抱えていることを許してくれ」
 まだこの心地よい気持ちに浸っていたいのだとムゥは言う。
 心地よい、自分しか知らぬという優越。
「いつになったら話してくれるのかしら」
「それは心の赴くままにだな……」
 じゃあその日を待っているわとブランシュは言う。
 ムゥは、いつになるだろうなと笑って返すのだ。
 しかし、話せばきっと。
 きっとブランシュは顔を真っ赤にして怒るだろうとムゥは思っている。そんなこと、忘れてよと。
 しかしその姿もまた、愛しいものになるのだろう。
 その未来を思い描きながら、ふと視線巡らせた瞬間、自分を捕まえたブランシュの姿を思い出す。
 気まぐれに覗いて、そして捕まった。
 ほろりと涙零れる瞬間。何を泣いているのだろうと思うと同時にそれがひどく美しいものに見えた。
 目が離せなくなったのだ。
 あの美しさを、俺は忘れないだろうとムゥは思う。自分の胸の内にとどめている絶対だ。
 しかしこれがいつ、恋になったのかはわからない。
 最初から恋だったのかも、しれないが。
「なぁブランシュよ」
 お前は俺と出会えてよかったか、と笑みかける。
 その言葉に瞬いて、そうねと花綻ぶ笑顔は幸せの限りに満ちていた。


==========
これ二人だけだと思ってるけど、傍らの世界から他の幻獣に全部みられてるっていうのだと思う。
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