26 / 33
それから、の話
唯一見つけたその瞬間
しおりを挟む
その時のことを、ムゥは決して話さない。
それは自分だけの、唯一の思い出。それを誰かに話すなど、したくはないと思っていたからだ。
それがたとえ、ブランシュであっても。
「ねぇ、あなたいつ、私を見つけたの?」
「こちらの世界を見るのは戯れに毎日していた。ふっと視線を回した時に見つけただけだが」
「だから、それはいつ、何をしていた私なの?」
「覚えてない」
覚えてないと、幸せそうに笑う。ブランシュは、嘘だわと思う。
この幻獣がそういった事を忘れるとは思えないからだ。
現に先程、こちらに来てから半年たったなどと、ブランシュがまるっと忘れているようなことをさらりと言ってお祝いをしようと言っていたのだから。
そんなことを言うムゥが、決して自分を見つけたその時のことを話そうとしない。
それは、覚えているが話したくはない。と、思っているからだろう。
では何故、話したくないのか。話さないのか。
それが納得できるのなら、ブランシュもこれ以上は聞かないと決めて問うた。
「覚えていないはずなんてないじゃない……だって、ムゥだもの」
「うん?」
「あなたが、私とのことを忘れるわけがないわ。何故、話してくれないの?」
その言葉にムゥは瞬いて、笑い零して手を伸ばした。
頬に触れて、親指で目尻を撫でる。
「お前は俺のことをよくわかっているな」
幸せそうにその表情は綻んで、なんだか居心地が悪くなる。
「そう、俺はちゃんとお前を見つけた時のことを覚えているぞ、ブランシュ」
けれどそれは、その時のことは俺だけのものであってほしいのだ。
そう、ムゥは言って笑む。その笑みは、なんだか幼いものでブランシュもつられて笑ってしまった。
「私にも駄目なの?」
「ブランシュには、そのうち……話そう。けれどもうしばらく俺だけが抱えていることを許してくれ」
まだこの心地よい気持ちに浸っていたいのだとムゥは言う。
心地よい、自分しか知らぬという優越。
「いつになったら話してくれるのかしら」
「それは心の赴くままにだな……」
じゃあその日を待っているわとブランシュは言う。
ムゥは、いつになるだろうなと笑って返すのだ。
しかし、話せばきっと。
きっとブランシュは顔を真っ赤にして怒るだろうとムゥは思っている。そんなこと、忘れてよと。
しかしその姿もまた、愛しいものになるのだろう。
その未来を思い描きながら、ふと視線巡らせた瞬間、自分を捕まえたブランシュの姿を思い出す。
気まぐれに覗いて、そして捕まった。
ほろりと涙零れる瞬間。何を泣いているのだろうと思うと同時にそれがひどく美しいものに見えた。
目が離せなくなったのだ。
あの美しさを、俺は忘れないだろうとムゥは思う。自分の胸の内にとどめている絶対だ。
しかしこれがいつ、恋になったのかはわからない。
最初から恋だったのかも、しれないが。
「なぁブランシュよ」
お前は俺と出会えてよかったか、と笑みかける。
その言葉に瞬いて、そうねと花綻ぶ笑顔は幸せの限りに満ちていた。
==========
これ二人だけだと思ってるけど、傍らの世界から他の幻獣に全部みられてるっていうのだと思う。
それは自分だけの、唯一の思い出。それを誰かに話すなど、したくはないと思っていたからだ。
それがたとえ、ブランシュであっても。
「ねぇ、あなたいつ、私を見つけたの?」
「こちらの世界を見るのは戯れに毎日していた。ふっと視線を回した時に見つけただけだが」
「だから、それはいつ、何をしていた私なの?」
「覚えてない」
覚えてないと、幸せそうに笑う。ブランシュは、嘘だわと思う。
この幻獣がそういった事を忘れるとは思えないからだ。
現に先程、こちらに来てから半年たったなどと、ブランシュがまるっと忘れているようなことをさらりと言ってお祝いをしようと言っていたのだから。
そんなことを言うムゥが、決して自分を見つけたその時のことを話そうとしない。
それは、覚えているが話したくはない。と、思っているからだろう。
では何故、話したくないのか。話さないのか。
それが納得できるのなら、ブランシュもこれ以上は聞かないと決めて問うた。
「覚えていないはずなんてないじゃない……だって、ムゥだもの」
「うん?」
「あなたが、私とのことを忘れるわけがないわ。何故、話してくれないの?」
その言葉にムゥは瞬いて、笑い零して手を伸ばした。
頬に触れて、親指で目尻を撫でる。
「お前は俺のことをよくわかっているな」
幸せそうにその表情は綻んで、なんだか居心地が悪くなる。
「そう、俺はちゃんとお前を見つけた時のことを覚えているぞ、ブランシュ」
けれどそれは、その時のことは俺だけのものであってほしいのだ。
そう、ムゥは言って笑む。その笑みは、なんだか幼いものでブランシュもつられて笑ってしまった。
「私にも駄目なの?」
「ブランシュには、そのうち……話そう。けれどもうしばらく俺だけが抱えていることを許してくれ」
まだこの心地よい気持ちに浸っていたいのだとムゥは言う。
心地よい、自分しか知らぬという優越。
「いつになったら話してくれるのかしら」
「それは心の赴くままにだな……」
じゃあその日を待っているわとブランシュは言う。
ムゥは、いつになるだろうなと笑って返すのだ。
しかし、話せばきっと。
きっとブランシュは顔を真っ赤にして怒るだろうとムゥは思っている。そんなこと、忘れてよと。
しかしその姿もまた、愛しいものになるのだろう。
その未来を思い描きながら、ふと視線巡らせた瞬間、自分を捕まえたブランシュの姿を思い出す。
気まぐれに覗いて、そして捕まった。
ほろりと涙零れる瞬間。何を泣いているのだろうと思うと同時にそれがひどく美しいものに見えた。
目が離せなくなったのだ。
あの美しさを、俺は忘れないだろうとムゥは思う。自分の胸の内にとどめている絶対だ。
しかしこれがいつ、恋になったのかはわからない。
最初から恋だったのかも、しれないが。
「なぁブランシュよ」
お前は俺と出会えてよかったか、と笑みかける。
その言葉に瞬いて、そうねと花綻ぶ笑顔は幸せの限りに満ちていた。
==========
これ二人だけだと思ってるけど、傍らの世界から他の幻獣に全部みられてるっていうのだと思う。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~
朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。
婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」
静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。
夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。
「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」
彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる