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第三章
手紙
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ばたばたしつつ過ごして。
テオが旅立ってから二か月近くがたったある日、手紙が届いた。
あっちに行くのに三週間、それから手紙が届くまでにおなじくらいの時間がかかったってことかな。手紙送ってすぐにこっちに運ばれるわけでもないだろうし。
手紙は箱の中に封書って形で届いたから、手紙は結構しっかりしてる。長旅で運ばれてもみくちゃにされてくったりするかなぁと思っていたのだけど。
箱にも防水とかいろいろ魔術かけて合って、やりすぎじゃないの? とも思った。でも長旅になって何があっても良いように、なのだと思う。
わくわくしながら開くと、元気ですかと定型から始まって、ちゃんと届くか少し心配とあり。
もし届いたなら返信は、この名前の行商に頼んでと書いてあった。それは手紙を持ってきてくれた商人。どうやらガブさんのお抱えみたいだ。ということはこの行商さんに頼むとあっちの物産も……と違う方向に走る意識を戻しつつ。
まぁ問題なく過ごしている、と近況が書かれていた。本当にあたりさわりのない内容だけ!
ええー、それだけー? と、思ったのだけど。
テオがたったこれだけの手紙を送ってくるはずはない! と、私は思う。
だって二枚目の、半分くらい真っ白だし。
あぶり出しとか? でもそういう感じはしない。
ううん、あぶり出しであってそう。
魔力での、あぶり出しだ。
私はそろりと、自分の魔力を紙の上に滑らせる。
違ってたら恥ずかしいけど! けどあってた。
ゆるゆると浮かび上がる文字。文字はもともと書いてあって、魔力で何もなかったように上書きされてたんだと思う。
けど、私の魔力でそれがはがれていったわけで。
「うっ……なにこれはずかしい……」
そこに書かれているのは、ラブレターと言っていいもの。
ひぎゃあああ……正視できない!
私はちらっ、ちらっとちょっとずつ文章を追っていく。
好き、会いたい。でも我慢してる、とか。
まだ離れて少しなのにとか。
毎晩、思い出してるとか。
やだまっすぐまっとうに、本当に読めない。
「うう、私だって……会いたいし忘れるなんてないし……どうにかこうにかよ、ばか!」
思わず手紙に八つ当たり。ぺしっと机に叩きつけて一息。
そのあと綺麗にその手紙を整える。
整えるなら投げなきゃいいんだけど、思わず。本当に思わず。
「この手紙よりわかりにくい感じで仕込んでやる……」
めらり。変な対抗心が湧いた。
私も近況を綴り、さて、と余白を見る。
「…………か、書くことが」
ない、と言うか。
恥ずかしくて、書けない!
好きって書く。私が? 私が!? 言葉にして言うより、難易度が高い気がする!
恥ずかしい!! にどうあっても一周回ってきてエンドレスしてしまう。
うう、私のこういう考えなんて、多分テオ、お見通しよね。
「うう……むり」
ぺたんと机に倒れて、手紙を見る。
ここに何を書こう。
好きとか、どうしてあんなにするっと言葉にできるんだろう。
すごいな、私できないからな。
ジゼルちゃん好き! とか。紅茶が好きとか、そういう好きは言えるのに。
テオに対しては簡単に言えない。
それは好きの種類が違うからなんだと思う。なんか使い古された言い回しだけど。
「……書けないけど描けはしそう」
ふと、思いついて私は身を起こす。
好きって書けないけど、ハートは描ける。
も、もうこれしかない!
余白に大きなハートを一つかいて、それに魔力を上掛けする。
ここには何も描いてません!! するすると幻に包まれていくハートひとつ。
そこにはなにも、ない。
えぇいついでだ! 幻影の魔術も詰め込んでる!
手紙を開いたらハート乱舞みたいな。
やだななんかもう、これ好きっていうよりどうかと思うんだけど!
やけくそよ!!
これくらいしないとテオ、びっくりしないもの!!!
ぶわっと飛び出すような魔術しこんでやる!!
開けて驚くといいのよ!!!
と、私はやけで仕込んだのだけど。封までし終えて、あれこれ人前で開けられたらアウトじゃないの? って思った。
い、いやテオはきっと人前で読むなんてしないし。
だいじょうぶだいじょうぶ……たぶん。
手紙を開けてしまえばいいだけの話だけど、折角の仕込みなのでやめるのもな、と思った。
だからそのまま。
何をしたのか記憶の端っこにおいやりつつ、私はその封書を託した。テオが届けてくれた時につかった箱を使っての送り返し。
私も頑張ってるのよ! といろいろ書き綴った手紙がテオのところに届くのは早くても一か月後だろう。
うぅん、やっぱりすぐに連絡とれないって、ちょっと不便だなと思った。
手紙が無事に届きますように。
そう祈りながら、ああ、隣にいないんだなと思う日々に私も慣れてくる。
慣れて来るけれど、寂しいと思う気持ちは風化しない。
これだけは帰ってくるまで変わらないのだなと私は思っていた。
テオが旅立ってから二か月近くがたったある日、手紙が届いた。
あっちに行くのに三週間、それから手紙が届くまでにおなじくらいの時間がかかったってことかな。手紙送ってすぐにこっちに運ばれるわけでもないだろうし。
手紙は箱の中に封書って形で届いたから、手紙は結構しっかりしてる。長旅で運ばれてもみくちゃにされてくったりするかなぁと思っていたのだけど。
箱にも防水とかいろいろ魔術かけて合って、やりすぎじゃないの? とも思った。でも長旅になって何があっても良いように、なのだと思う。
わくわくしながら開くと、元気ですかと定型から始まって、ちゃんと届くか少し心配とあり。
もし届いたなら返信は、この名前の行商に頼んでと書いてあった。それは手紙を持ってきてくれた商人。どうやらガブさんのお抱えみたいだ。ということはこの行商さんに頼むとあっちの物産も……と違う方向に走る意識を戻しつつ。
まぁ問題なく過ごしている、と近況が書かれていた。本当にあたりさわりのない内容だけ!
ええー、それだけー? と、思ったのだけど。
テオがたったこれだけの手紙を送ってくるはずはない! と、私は思う。
だって二枚目の、半分くらい真っ白だし。
あぶり出しとか? でもそういう感じはしない。
ううん、あぶり出しであってそう。
魔力での、あぶり出しだ。
私はそろりと、自分の魔力を紙の上に滑らせる。
違ってたら恥ずかしいけど! けどあってた。
ゆるゆると浮かび上がる文字。文字はもともと書いてあって、魔力で何もなかったように上書きされてたんだと思う。
けど、私の魔力でそれがはがれていったわけで。
「うっ……なにこれはずかしい……」
そこに書かれているのは、ラブレターと言っていいもの。
ひぎゃあああ……正視できない!
私はちらっ、ちらっとちょっとずつ文章を追っていく。
好き、会いたい。でも我慢してる、とか。
まだ離れて少しなのにとか。
毎晩、思い出してるとか。
やだまっすぐまっとうに、本当に読めない。
「うう、私だって……会いたいし忘れるなんてないし……どうにかこうにかよ、ばか!」
思わず手紙に八つ当たり。ぺしっと机に叩きつけて一息。
そのあと綺麗にその手紙を整える。
整えるなら投げなきゃいいんだけど、思わず。本当に思わず。
「この手紙よりわかりにくい感じで仕込んでやる……」
めらり。変な対抗心が湧いた。
私も近況を綴り、さて、と余白を見る。
「…………か、書くことが」
ない、と言うか。
恥ずかしくて、書けない!
好きって書く。私が? 私が!? 言葉にして言うより、難易度が高い気がする!
恥ずかしい!! にどうあっても一周回ってきてエンドレスしてしまう。
うう、私のこういう考えなんて、多分テオ、お見通しよね。
「うう……むり」
ぺたんと机に倒れて、手紙を見る。
ここに何を書こう。
好きとか、どうしてあんなにするっと言葉にできるんだろう。
すごいな、私できないからな。
ジゼルちゃん好き! とか。紅茶が好きとか、そういう好きは言えるのに。
テオに対しては簡単に言えない。
それは好きの種類が違うからなんだと思う。なんか使い古された言い回しだけど。
「……書けないけど描けはしそう」
ふと、思いついて私は身を起こす。
好きって書けないけど、ハートは描ける。
も、もうこれしかない!
余白に大きなハートを一つかいて、それに魔力を上掛けする。
ここには何も描いてません!! するすると幻に包まれていくハートひとつ。
そこにはなにも、ない。
えぇいついでだ! 幻影の魔術も詰め込んでる!
手紙を開いたらハート乱舞みたいな。
やだななんかもう、これ好きっていうよりどうかと思うんだけど!
やけくそよ!!
これくらいしないとテオ、びっくりしないもの!!!
ぶわっと飛び出すような魔術しこんでやる!!
開けて驚くといいのよ!!!
と、私はやけで仕込んだのだけど。封までし終えて、あれこれ人前で開けられたらアウトじゃないの? って思った。
い、いやテオはきっと人前で読むなんてしないし。
だいじょうぶだいじょうぶ……たぶん。
手紙を開けてしまえばいいだけの話だけど、折角の仕込みなのでやめるのもな、と思った。
だからそのまま。
何をしたのか記憶の端っこにおいやりつつ、私はその封書を託した。テオが届けてくれた時につかった箱を使っての送り返し。
私も頑張ってるのよ! といろいろ書き綴った手紙がテオのところに届くのは早くても一か月後だろう。
うぅん、やっぱりすぐに連絡とれないって、ちょっと不便だなと思った。
手紙が無事に届きますように。
そう祈りながら、ああ、隣にいないんだなと思う日々に私も慣れてくる。
慣れて来るけれど、寂しいと思う気持ちは風化しない。
これだけは帰ってくるまで変わらないのだなと私は思っていた。
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