転生息子は残念系

ナギ

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新たな出会いの6歳(2)

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 誕生日。そこで俺は、俺自身の才能が普通。一般的であることを知って。
 でも小さい頃からやってれば普通よりちょっとすごいくらいにはなれるんじゃないかな! というところで落ち着いた。
 そんでもって、あんまり厳しすぎるのやめるみたいなことを父さんと母さんは言ってたんだけど。
 はい。
 はい!
 嘘でした!!
 うーそーでーしーたー!
 父さんのは、うーそーでーしーたー!
 多いって言ったら、400回から減らしたんだけど多い? って悲しそうな顔されて何も言えなくなった。
 200回できるけどさ、できるけどさ。
 できるからいけないんだよこれ!!
「お、終わったー!!」
 木剣持って素振り200回。これ、五歳……いや、六歳児にさせる事じゃないからな、絶対。
 父さんがしろっていう素振りは一連の動きに合わせるもので、一振りが一回じゃない。
 三振りの動きを入れて一回。しんどい。
 それが終わって汗だらだらかいて、俺は芝生の上に倒れこんだ。
 ぐぇー。ぐえぇー。
 けど、こういうのも今日でしばらく終わり。
 俺は明日、王都に発つ。そして、伯父さんが迎えにきてくれるらしい。さすがに旅の途中ではできないだろう。
 さて、その伯父さん。
 伯父さんは、元お姫様がお嫁さんで。本当は家を継ぐべきだったけどその人と結婚するので家を出たとか。
 で、父さんが母さんと結婚して継いだらしい。
 伯父さんの住まいは王都で、宰相補佐かなんかをしているのだとか。あれ、なんかうちの家系、すごくね? って思う。
 母さんと父さんに伯父さんの事を聞くとどう言ったらいいのかと黙ってしまう。
 なんかヤバげな気配。
 鍛錬の後、身体綺麗にして着替えて伯父さんの到着をおとなしく待ってた。
 しばらくすると馬の嘶き声とか聞こえて、外が騒がしい。
 母さんが来たみたいと窓から外覗いて、ぎゃっと変な声あげた。
「ちょ、母さんおちついて!」
 ばたばたと走って行こうとしたのを俺は止める。
 しばらくすると父さんが、お客さんを伴ってやってきた。
 豪奢な金髪、きりっとした面立ちの人だ。え、この人が伯父さん? 似てないよね、母さんと。
「イラ、挨拶を」
「イライアスといいます。よろしくおねがいします」
 ぺこっと頭を下げると、その人は笑ってよろしくと言って、俺を抱え上げた。
「初めましてだな。私はデジレ、お前の……伯母になる」
「へ?」
「あ、イラ。お兄様の奥様よ、つまり」
 つまり。元お姫様!
 お、おう……元お姫様っていうとあれだろ、元お姫様。
 お、俺抱き上げられてていいの!?
「トリスタンが仕事詰で、私が迎えにきた。よし、今から帰ろう」
「えっ、デジレ様、もう帰っちゃうんですか?」
「ああ。私も忙しい身であわただしくてすまないな。またその子が生まれた頃に来るよ。その時はトリスタンと、フラウも一緒に」
 な、なんだろう。すごく、キラキラしている。
 あ、あれだ。あれ。あの、全員女性の歌劇団の、男役トップスターを見ているような、気が!!
「というわけで、イライアス。私と行こうか」
「あ、はい」
「テオドール、荷物は?」
「無くても大丈夫です。王都の家の方に色々準備しておいてくれとお願いしましたから」
「そうか。それでは着の身着のままになるが」
 は? え?
 なに、え? お、俺は馬車でガタゴト行くもんだと思ってたんだけど、もしかして。
 もしかして、馬! 馬!?
「時に、馬に乗ったことは?」
「多少は……長距離は無いですね」
「そうか……最悪、私の背中にくくりつけるか」
 くくりつけ!?
 ちょっと意味わかんないんですけど!!
 え、なにこのひと。このひとやばない? 母さんと父さんよりやばくないか!?
 人の子共に遠慮がねぇ!!
 で、だ。
 俺はまぁ、背中に背負われてくくりつけられることなく。どーにか伯母さんの前にのることになった。
 父さんと母さん、それから屋敷の皆に見送られて、俺は王都へ。
 ものすごく激しい馬での旅が始まった。
 やばい、父さんと母さんのスパルタが無かったら、俺はこれについていけなかったと思う。
 二人とも、ありがとう…………なんて、思う程度には激しい。
「ぎゃ、ぎゃああ!! ぎゃああああああああああああ!!!!!!」
「ははは! 元気だな! フラウもこうやると喜ぶんだが楽しいのか?」
 違う! 違っ! これはびびってんの!!
 なんで道があるのに、こっちのほうが早いって崖道すべりおりてんの!?
 何このハイスペック馬!! ぶるひひんじゃねぇよ!!
 お、お前は義経か!! 義経つってもこっちの人わかんないだろうけど!!
 しかもこれを喜ぶやつがいる!? そいつ、大丈夫か!!
 どう考えても大丈夫じゃないけど!!
 ずざざざざとすべって、馬が地を蹴る衝撃が響く。必死にしがみつく俺の体がふわっと浮くような感覚にヒェっとなるわけで。
 恐怖の斜面下りが終わって一息。もう俺、しがみつく手の力も弱くなって倒れそう。
「ああ、宿泊する街が見えたぞ。野宿でも良いが……泊まるか」
 泊まりでお願いします。
 俺はそう口にはできなかったけど、俺の様子を見て伯母さんは笑っていた。
 それから――あんな斜面下りみたいなのは無かったけど。
 馬でそのまま、流れの激しい川を横断したり。道なき道を突っ切ったり。
 ものすごーく、無茶なことをしている。
 ハイスペック馬もすげーんだけど、的確にそれを操る伯母さんもすごい。
 俺は、毎日疲れ切って飯も食わずにすぴーと寝て。そして起きてちょっとだけ食べる、みたいな感じだった。
 最初は。
 それも三日過ぎると慣れてきて普通に食べれるようになった。
 初日? 食べててリバースしたわ!!
 で、余裕がでてきてからは伯母さんと色んな話もできるようになった。
 伯母さんの旦那さん、つまり俺の伯父さんで母さんのお兄さんはトリスタンという名で。
 まぁどうしようもない男だと伯母さんは笑って言う。
 それから二人の間には俺より一歳年上のフラウという女の子がいると。
 やんちゃで私によく似ている、という伯母さん。そ、それ女の子としては……と、俺は思うんだけど。
 その子と会うのも、楽しみになってきた。
「ああ、王都だ。このまま、お二人の所に送ろう。首を長くして待っているだろうから」
 久しぶりのじいちゃんとばあちゃん。
 母さんからはおじい様とおばあ様と呼びなさいねーと言われているけど、ぺろっと忘れそうでもある。
 ま、まぁ間違えたらその時はその時だな、うん。
 俺が小さい頃は王都にいたって言うけど、それって一歳の頃でまったく覚えてない。
 だから、王都は初めてと言って良い。
 遠くに見える城は立派で、大きくて、綺麗で。
 それから人の賑わいが全然違う! 面白そうなものもいっぱいある!!
 うわああああああ都会すげえええええええ!!!!!
 と、感動しているうちにじいちゃんばあちゃんの家に到着。
 そこはまた、すごくデカイ家だった。
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