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新たな出会いの6歳(1)
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今日は俺の誕生日で、無事に六歳になった。
五歳の、あの日。
俺はイライアスなんだけど、そこに前世のいろんなものが流れ込んで。
俺は今の俺になった。
そして始まったスパルタの日々――ウッ。
母さんとの日々は今思えば、とても平和で穏やかなスパルタだったんだと思う。
父さんとの日々は。日々は……思い出さない方が俺の心が穏やかだろう。
けど、地道な努力もあって俺は魔術の扱いが上手になったと思う。
最初はすぐへばってた魔術マラソンも長い時間、できるようになったし。
「誕生日おめでとう、イラ! 母さんからのプレゼントはー……じゃじゃーん! お守りの石ー!」
「……レティ、それ見せて」
「あっ、テオ! だ、だめ!」
「…………没収」
「えー!」
母さんがじゃーんと見せてくれた緑色の石は父さんがしばらく見つめた後に没収されてしまった。
え、なんだそれ。何かやばそうな気配を感じる。つまりあれはただの石ではないってことだろう。
母さん、何をしたんだろ……気になる。
父さんはお前にはまだ早すぎるから気にするなと笑うけど、気になる!
「まだイラには早いというか。そもそもこれが存在してるのはまずいと思うんだけどな……」
「昔よりは上手に作ってるわ!」
「信じられないね……そもそも、身重でこういう事しない」
「はーい」
そう。
母さんのおなかは今はもう大きい。
もうすぐ生まれるのは間違いないらしい。というわけで、俺はこの誕生日の祝いのあとに王都に向かうことになっている。
というのも、領地の家で出産だーなんだーってしてるとこで俺の世話ってなかなか、という事みたいだ。
うん、わかる。
王都にはじいさんたちがいる。あと伯父さんもいて、同じ年頃の子もいるのだとか。
俺は会った事ないんだけどな、まだ。
その子と会うのもちょっと楽しみだ。
それに、だ。
王都だぜ、王都!
この田舎の家よりもいろんなものがあると思う。それが何より楽しみで仕方ない。
「レティからのプレゼントはまた後日貰いなさい。俺からはこれ……」
「あ、新しい……木剣、だ、と……」
「うん。この前折れたからね。あれよりももう少し強くて重いものを作りました」
は!?
あれよりもう少し強くて重い? いやいやいや、ちょっと手に持っただけでこの前まで使ってたのより全然重いんだけど!
父さん、色々間違ってるよな!?
「それ持って、王都に行きなさい。毎日素振りすること」
「……ありがとう。でもさ、父さんも母さんもさ、俺を何にしたいわけ?」
「え?」
「何にしたいって?」
きょとーんとされる。
いや、俺は別にちょっと魔術の勉強してうまくなれたらよかったなと思うんだけど。
なんか明らかに、母さんは置いといて、父さんは俺をどう育てたいのか。
魔術も剣術も超できる感じにしたいんだろうか。
こういうの、英才教育とかじゃないのか?
「や、魔術もしっかり教えてくれるし、そのうえこんな……六歳から剣とかふって。俺、強くなっちゃうだろ?」
「ああ……」
「うーん」
父さんと母さんは顔を見合わせて、言って大丈夫かなぁショックうけないかなぁと言っている。
な、なんだよその前振り。
「イラ、まだあなたは子供よ。可能性は無限大よ! だから凹まないでね。イラは、多分魔術的な素養は普通。今からやってるから、将来ちょっと他人より上手にできるくらいになると思うわ」
「剣技も普通だよ。ただ動作は大きいかな。体力も普通の子供なみだから今から鍛えてるわけ」
「えっ」
「私、言ったじゃない。チートじゃないって。世の中、チートなんてないのよ!」
じゃあ母さんと父さんは一体なんなんだ、と俺は思うわけで。
思うわけで。
世の中ふたりみたいな人がごろごろ、いっぱいいるのか? いるのか?
「……つまり、俺は二人から見たら普通の普通、普通っ子だからちょっとでもと思って鍛えてくれてる、ってこと?」
「そうそう」
「まぁそうかな」
「……普通って、どう思う?」
「普通である事は何より難しく、ありがたい事だと思うよ」
「普通の基準がよくわからないんだけど、普通は普通で良いと思うわよ」
「じゃあ、普通で良いかなって思わなかったわけ?」
俺はふたりに引きずられるように魔術とか剣術やってたかもしれない。いややってたと思う。
嫌じゃなかったから、やってたってとこもある。
でも、別にそこまで。そう、めっちゃ突き詰めたい! ってほどでもない。人並みに、あわよくば人並よりちょっとよくできればいいなって感じなんだけど。
あっ、でもそうなるためにしてくれてたのか。俺、そこまでやらないと成長できないのか!?
俺チートじゃないって知ったあのあたりから、あたりさわりなく行けたらいいなぁって思ってたわけなんだけど。
「えー。でも今は普通ってだけで、伸びしろはあると思ったのよ、私は」
「剣は毎日振って実践を経ていればどうにでもなるよ」
「なんか、私達とイラには意思の疎通が足りなかったみたいね……」
うぅんと母さんは唸って、やめたいならやめていいけど、と言う。
あー、やめたいとかじゃないんだけど。
「今から頑張ってたら、どこかで凡人になって。俺よりすごいやつが現れて挫折するかもしれないとか思わなかった?」
「や、やだ……イラ、そんな事考えちゃうの?」
「うーん……剣術とかは確かにそういうのはあるかも。センスっていうか、天賦の才はあると思うよ」
「あ、魔術は、素地は普通でもきっとそれを上回る想像力があると思うから、大丈夫よ!」
父さんは俺の言っていることをわかってくれてるみたいだ。
でも母さんは、その根拠は一体どこから!
俺の気持ちを察したのか、母さんは空飛んだじゃないと言う。
空、飛んだけど。
「そもそもね、父さんは飛べなかったのよ。でも私が飛ぶのを見てなるほど。それはできるんだなって飛べるようになったわけ。でもこれってやっぱり魔力の扱いがそこそこ難しいんだって。私はよくわかんないけど」
「う、うん」
「まぁ、簡単に言うと……厨二してればきっと誰もあなたに追いつけないわ」
「……え? チュウ、ニ……? それって、厨二?」
「レティ、チュウニって何?」
「テオは知らなくていいのよ!」
母さんは笑って、花瓶に挿してあった花を一輪とる。そしてそれに魔力を流し込みつつ手を振るとピシィン! と高い音。
母さんの手にあった花は鞭に形を変えていた。
それは、もしや、ろーず……! うぃっぷ……!!
「ごふっ」
「つまりはこういうことよ! ほら呪文とか言いながらやっちゃうといいのよ!」
「えっ、まじ、え?」
俺、それ、漫画でみたことある。
つまりは、母さんの地力はそこか。そこからか! それなら、それなら俺も負けないものがある、ような気がする。
「魔術を扱う素地なんてみんなあんまり変わらないの」
「いや、レティは飛びぬけてたよ……」
「そう? ともかく。それは今からやったら鍛えられて扱いも上手になる。始めるのが早ければ、そりゃ他の人よりも有利よ、有利。できること、できないこともわかってくるし」
そしてその、できるできないのラインで最善を見つける事ができるでしょと母さんは言う。
なるほど。
そして、そこに過去の記憶が加わるとさらに他の人より優位なのだとか。
「そもそも私はこれがしたくて魔術をね……その、ね……」
「母さん……」
俺の視線にふふ、と少し恥ずかしそうにしながら母さんは鞭をもとの花に戻した。
ああ、見てればわかる。無駄がない魔術の感覚。つまり、そう言うの得るためにも今からやってる。
そういうことか。
そういうことなんだな。
「加減がわからなかったしイラがほいほいやっちゃうからやりすぎたかな? もうちょっと優しくやるよ」
「父さん……」
「え、テオ。そんな遠慮いらないわよ。ビシビシやったほうがいいわ。甘やかすとつけあがるから!」
「そうかな……そうなの?」
「いや、母さんはちょっと、乱暴だと思う……」
そうだよね、と父さんは笑って俺の頭を乱暴に撫でた。
おう、こういうのされるの初めてだ。ちょっと、嬉しい。
「ごめんね、イラ」
「え?」
「レティの才能を受け継いでたら良かったけど、どうやら俺みたいだから」
父さんは普通でごめんねと申し訳ないというような顔をする。
俺はそんな顔をしないでほしくて、首をぶんぶんと横に振った。
「父さん! 俺、がんばるから!」
「そう? まぁ、頑張ればちゃんと力はつくよ。魔力の扱いも、慣れみたいなものだし」
父さんは小さい頃から少しずつ力をつけていけば大丈夫だと俺を鼓舞する。
俺も力強く頷いてそれに応えていた。
だって、俺からみたら父さんすごいし。
頑張れば俺もそんな風になれるんだなと思ったんだ。
五歳の、あの日。
俺はイライアスなんだけど、そこに前世のいろんなものが流れ込んで。
俺は今の俺になった。
そして始まったスパルタの日々――ウッ。
母さんとの日々は今思えば、とても平和で穏やかなスパルタだったんだと思う。
父さんとの日々は。日々は……思い出さない方が俺の心が穏やかだろう。
けど、地道な努力もあって俺は魔術の扱いが上手になったと思う。
最初はすぐへばってた魔術マラソンも長い時間、できるようになったし。
「誕生日おめでとう、イラ! 母さんからのプレゼントはー……じゃじゃーん! お守りの石ー!」
「……レティ、それ見せて」
「あっ、テオ! だ、だめ!」
「…………没収」
「えー!」
母さんがじゃーんと見せてくれた緑色の石は父さんがしばらく見つめた後に没収されてしまった。
え、なんだそれ。何かやばそうな気配を感じる。つまりあれはただの石ではないってことだろう。
母さん、何をしたんだろ……気になる。
父さんはお前にはまだ早すぎるから気にするなと笑うけど、気になる!
「まだイラには早いというか。そもそもこれが存在してるのはまずいと思うんだけどな……」
「昔よりは上手に作ってるわ!」
「信じられないね……そもそも、身重でこういう事しない」
「はーい」
そう。
母さんのおなかは今はもう大きい。
もうすぐ生まれるのは間違いないらしい。というわけで、俺はこの誕生日の祝いのあとに王都に向かうことになっている。
というのも、領地の家で出産だーなんだーってしてるとこで俺の世話ってなかなか、という事みたいだ。
うん、わかる。
王都にはじいさんたちがいる。あと伯父さんもいて、同じ年頃の子もいるのだとか。
俺は会った事ないんだけどな、まだ。
その子と会うのもちょっと楽しみだ。
それに、だ。
王都だぜ、王都!
この田舎の家よりもいろんなものがあると思う。それが何より楽しみで仕方ない。
「レティからのプレゼントはまた後日貰いなさい。俺からはこれ……」
「あ、新しい……木剣、だ、と……」
「うん。この前折れたからね。あれよりももう少し強くて重いものを作りました」
は!?
あれよりもう少し強くて重い? いやいやいや、ちょっと手に持っただけでこの前まで使ってたのより全然重いんだけど!
父さん、色々間違ってるよな!?
「それ持って、王都に行きなさい。毎日素振りすること」
「……ありがとう。でもさ、父さんも母さんもさ、俺を何にしたいわけ?」
「え?」
「何にしたいって?」
きょとーんとされる。
いや、俺は別にちょっと魔術の勉強してうまくなれたらよかったなと思うんだけど。
なんか明らかに、母さんは置いといて、父さんは俺をどう育てたいのか。
魔術も剣術も超できる感じにしたいんだろうか。
こういうの、英才教育とかじゃないのか?
「や、魔術もしっかり教えてくれるし、そのうえこんな……六歳から剣とかふって。俺、強くなっちゃうだろ?」
「ああ……」
「うーん」
父さんと母さんは顔を見合わせて、言って大丈夫かなぁショックうけないかなぁと言っている。
な、なんだよその前振り。
「イラ、まだあなたは子供よ。可能性は無限大よ! だから凹まないでね。イラは、多分魔術的な素養は普通。今からやってるから、将来ちょっと他人より上手にできるくらいになると思うわ」
「剣技も普通だよ。ただ動作は大きいかな。体力も普通の子供なみだから今から鍛えてるわけ」
「えっ」
「私、言ったじゃない。チートじゃないって。世の中、チートなんてないのよ!」
じゃあ母さんと父さんは一体なんなんだ、と俺は思うわけで。
思うわけで。
世の中ふたりみたいな人がごろごろ、いっぱいいるのか? いるのか?
「……つまり、俺は二人から見たら普通の普通、普通っ子だからちょっとでもと思って鍛えてくれてる、ってこと?」
「そうそう」
「まぁそうかな」
「……普通って、どう思う?」
「普通である事は何より難しく、ありがたい事だと思うよ」
「普通の基準がよくわからないんだけど、普通は普通で良いと思うわよ」
「じゃあ、普通で良いかなって思わなかったわけ?」
俺はふたりに引きずられるように魔術とか剣術やってたかもしれない。いややってたと思う。
嫌じゃなかったから、やってたってとこもある。
でも、別にそこまで。そう、めっちゃ突き詰めたい! ってほどでもない。人並みに、あわよくば人並よりちょっとよくできればいいなって感じなんだけど。
あっ、でもそうなるためにしてくれてたのか。俺、そこまでやらないと成長できないのか!?
俺チートじゃないって知ったあのあたりから、あたりさわりなく行けたらいいなぁって思ってたわけなんだけど。
「えー。でも今は普通ってだけで、伸びしろはあると思ったのよ、私は」
「剣は毎日振って実践を経ていればどうにでもなるよ」
「なんか、私達とイラには意思の疎通が足りなかったみたいね……」
うぅんと母さんは唸って、やめたいならやめていいけど、と言う。
あー、やめたいとかじゃないんだけど。
「今から頑張ってたら、どこかで凡人になって。俺よりすごいやつが現れて挫折するかもしれないとか思わなかった?」
「や、やだ……イラ、そんな事考えちゃうの?」
「うーん……剣術とかは確かにそういうのはあるかも。センスっていうか、天賦の才はあると思うよ」
「あ、魔術は、素地は普通でもきっとそれを上回る想像力があると思うから、大丈夫よ!」
父さんは俺の言っていることをわかってくれてるみたいだ。
でも母さんは、その根拠は一体どこから!
俺の気持ちを察したのか、母さんは空飛んだじゃないと言う。
空、飛んだけど。
「そもそもね、父さんは飛べなかったのよ。でも私が飛ぶのを見てなるほど。それはできるんだなって飛べるようになったわけ。でもこれってやっぱり魔力の扱いがそこそこ難しいんだって。私はよくわかんないけど」
「う、うん」
「まぁ、簡単に言うと……厨二してればきっと誰もあなたに追いつけないわ」
「……え? チュウ、ニ……? それって、厨二?」
「レティ、チュウニって何?」
「テオは知らなくていいのよ!」
母さんは笑って、花瓶に挿してあった花を一輪とる。そしてそれに魔力を流し込みつつ手を振るとピシィン! と高い音。
母さんの手にあった花は鞭に形を変えていた。
それは、もしや、ろーず……! うぃっぷ……!!
「ごふっ」
「つまりはこういうことよ! ほら呪文とか言いながらやっちゃうといいのよ!」
「えっ、まじ、え?」
俺、それ、漫画でみたことある。
つまりは、母さんの地力はそこか。そこからか! それなら、それなら俺も負けないものがある、ような気がする。
「魔術を扱う素地なんてみんなあんまり変わらないの」
「いや、レティは飛びぬけてたよ……」
「そう? ともかく。それは今からやったら鍛えられて扱いも上手になる。始めるのが早ければ、そりゃ他の人よりも有利よ、有利。できること、できないこともわかってくるし」
そしてその、できるできないのラインで最善を見つける事ができるでしょと母さんは言う。
なるほど。
そして、そこに過去の記憶が加わるとさらに他の人より優位なのだとか。
「そもそも私はこれがしたくて魔術をね……その、ね……」
「母さん……」
俺の視線にふふ、と少し恥ずかしそうにしながら母さんは鞭をもとの花に戻した。
ああ、見てればわかる。無駄がない魔術の感覚。つまり、そう言うの得るためにも今からやってる。
そういうことか。
そういうことなんだな。
「加減がわからなかったしイラがほいほいやっちゃうからやりすぎたかな? もうちょっと優しくやるよ」
「父さん……」
「え、テオ。そんな遠慮いらないわよ。ビシビシやったほうがいいわ。甘やかすとつけあがるから!」
「そうかな……そうなの?」
「いや、母さんはちょっと、乱暴だと思う……」
そうだよね、と父さんは笑って俺の頭を乱暴に撫でた。
おう、こういうのされるの初めてだ。ちょっと、嬉しい。
「ごめんね、イラ」
「え?」
「レティの才能を受け継いでたら良かったけど、どうやら俺みたいだから」
父さんは普通でごめんねと申し訳ないというような顔をする。
俺はそんな顔をしないでほしくて、首をぶんぶんと横に振った。
「父さん! 俺、がんばるから!」
「そう? まぁ、頑張ればちゃんと力はつくよ。魔力の扱いも、慣れみたいなものだし」
父さんは小さい頃から少しずつ力をつけていけば大丈夫だと俺を鼓舞する。
俺も力強く頷いてそれに応えていた。
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