皇子の憂鬱

ナギ

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1:憂鬱の始まりは

まずはオトモダチから

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 その場でぶったぎった俺は、父上に呼び出しをくらった。まぁそうなるよな、うん。
 あの後、王様は苦笑していきなりでごめんねと言ってくれて。
 周囲にしゅばばばーっと俺達は引き離された。大体俺を説教するためにだと思う。
「お前、何かもうちょっと言いようはなかったのか……というかお前か、そうか、お前か……」
「俺、男なんですけど」
「別に同姓婚が駄目な国ではないからな」
「いや、そうじゃなくて」
 まぁいいかと父上は言う。よくねぇよ。
 何、もう俺が嫁に行くこと決定? 俺はいきませんー! いきませんー!!
 と、駄々をこねてもいいんだけどまだ冷製だ。一応、父上に俺はどうすればいいかと、尋ねた。
「援助の額が、これくらいなわけだ」
「…………」
 ひらりと、俺に紙一枚投げてよこす。それにはどういった援助をするか、そして金額が書いてある。
 マルが沢山あった。
 色んな事を、援助してくれているのがわかる。
 うっ、俺の理解力がもっと乏しければどういうことだよ! って言えるんだけど。
「……断るなら自分で上手に断れってこと?」
「そうだな。国同士の誓約、無碍にはできないのはわかっているんだろう?」
「はい、まぁ……」
 ならよろしいと父上は言う。
 そして、こらからあの王が帰るまでお前が相手をしなさいと命じられた。
 えー、と声零して。俺はもちろん、嫌だという。
「あと3日いるんだろ? 俺、友達と遊ぶ約束が」
「じゃあ一緒に連れて行きなさい」
「なんつー無茶を……」
「ララトア、あの方は悪い人ではないよ」
 俺の名を呼んで、言い聞かせるように父上は言う。
 優しい声に俺は――絶対絆されない!!
「父上…………そうやって俺を懐柔しようとしてますよね」
 はは、と父上は笑う。
 本当に悪い人ではないのだと重ねて。そうやって心象操作しようとしてるのがわかる。
 俺はとりあえず渋い顔してみせた。
 決定した事は変わらないのだろう。俺はしばらくあの王様に付き合わねばならないらしい。

 そんなわけで、当然。
 王様がお待ちとのことで俺は一緒に昼食をとることになった。父上に呼ばれた後のことだ。
 一対一ではかわいそうだなぁと思ってくれたのだろう。ガガ兄が先にいって色々、対応してくれているらしい。一人じゃ微妙という俺のためにリュリュスも一緒に来てくれた。
 いや、からかい半分が正しいのだろうけど。
「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、ガガトア殿が相手をしてくださったので」
 待ってなどいませんよと、王は言う。
 そして王はそこで、気付いたのだろう。
「そういえばまだ、名乗っていないか。猛き『獅子の国』の王、ベスティアと申します」
「ララトア、です」
「俺はララトアの一番近い兄のリュリュスです。ハジメマシテ、ベスティア様」
 リュリュスはにっこり笑み浮かべる。
 俺知ってる。それ気に入らないやつに向ける笑みだって。
 ガガ兄に促され、俺たちも席に着く。
 俺の席は王様の目の前だった。
 にこにこと嬉しそうな笑みを向けられて居心地が悪い。
 これはさっさと俺無理ともう一度言ってしまったほうがよさそうだ。
「……あの、先程の口付けは意味をわかって、されました?」
「はい、一目惚れです」
 一目惚れはマジだと、王様に見えない角度でガガ兄が口パクする。まじかよ。
「僕のお嫁さんになってください」
「ないわー」
「そう言わず」
 ないわー、って。俺、素で口に出してたわ。けどそれにも動じないか。
「……ララトアは初恋もまだなんで。だから嫁とか言われてもはぁ? なにそれふざけてんの? って感じですよ」
 おい。おい誰が初恋はまだだよ……リュリュスが作り話を持ちかける。
 そうですかと、王様はまだ笑顔崩さない。というかリュリュスも結構言う。
「……嫁とか正直無理なんで。すみませんが他の姉上達をあたってくれますか」
「それは無理かなぁ」
「いや、俺はその気がないんで」
「その気になってほしいなぁ」
 あ、こいつ。話通じないタイプだ。
 俺の直感は間違ってない。無理といい続けてもにこにこ、ずっと言ってくるタイプだ。
 めんどそうだな、と俺が思ったのと同じようにリュリュスも思ったんだろう。
 うわぁと声を漏らしていた。
「……好きに、なる、ならないはまず置いといていいですか」
「いいよ」
「俺が嫁に行かなければ、援助は」
「するけれど、そうだなぁ。これ以上を望まれても、これ以上は無いよってなるかもしれないね」
 笑顔を讃えて、軽く脅しかとさえ思える。
 けど、あの額を見る限り、これ以上はない援助をすでにしてもらっている。
 これ以上を望むのは、正直ないと思う。これで国の中どうにかできなかったら、それはもう政治の腕がないってことだ。
 いや、父上は本当にないからガガ兄がどうにかするとは、思うけれど。
 それをあっちも分かっているのだろう。
 俺はひとつ、長い息を吐いた。
「……俺は王様のことは名前しか知らないので、とりあえず……オトモダチからでいいですか」
 オトモダチかぁと王様は言う。
 うぅんと少し考えて、それじゃあと俺に視線向ける。
 俺はこのとき、やっと初めて、王様の顔を見た。
 きらきら輝く金糸の髪、そして濃い青の瞳。男らしい、正統派イケメン。
 体格も立派。ひょろっとした俺とは違う生き物みたいだ。
 超まぶしかった。
「まず名前呼びから初めていい? ララトア」
 超絶スマイル。それは本当にイケメンの中のイケメンのみが許される破壊力の笑顔。
 こんなの向けられたら女の子なんて一瞬で落ちるだろうなと思いながら、俺は頷いた。
 俺は落ちないけど。
「じゃあ僕のこともベスティアって呼んでほしいな。敬称も何もいらない。言葉遣いも砕けてくれていい」
「え、でも王様年上だし」
「ベスティアで」
「ベスティア……さ、ん」
「さんはいらないよ」
 付けさせろ、と思う。けれどにこにこ、力のある笑みだ。
 こわい。こいつ本気だ、こわい。
 仕方なく、俺は呼び捨てた。すると本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 それがなんだか、うさんくさい。
 しかし、歩み寄りの一歩として俺は王様と、オトモダチになってしまった。
 なって良かったのかなとちょっと思ってる。
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