皇子の憂鬱

ナギ

文字の大きさ
4 / 35
1:憂鬱の始まりは

オトモダチのユウワク

しおりを挟む
「おはよう」
「おはようございます」
 今日も今日とて、朝から王様と引合される。
 王様も王様で、国同士の話をしないといけない時間もあったからそういう時間は、俺は一緒じゃなかったけど。
 そういった席に一緒になっていたガガ兄曰く、とても優秀だということらしい。
 一で十、とまでは言わないが七、八は理解してくれるから話が通しやすかったと感心していた。
 そして人柄としては、良い人なんじゃないかなとガガ兄は言う。
 いやいやガガ兄。
 あの王様、絶対面倒くさい人だって。俺はそう感じている。
 にこにこしていてうさんくさい、って言うと怒られそうなので言わないけど。
 そう、この笑顔がうさんくさい。
 にこにこと、張り付けたような笑み。それ、あんた本当に笑ってるわけじゃないだろと思う。
 いや、初対面で素をさらけ出してくれっていってるわけじゃないんだけど。
 なんていうか、そう。
 明らかに余所行きの笑みだと、わかる笑みをずっと向けられている居心地の悪さを俺を感じているんだ。
 その笑みと向かい合うために、眠いのに朝早くからたたき起こされ、身を整えさせられ。
 俺の睡眠時間を返せ、と言う感じだ。
 そしてあの王様狙いだったらしい姉上達が冷たい。もう、姉上達こそがんばって落としてくれよ! と思っているのは俺。
 王様は相変らず、オトモダチとして接してくれる。あの初対面で求婚が嘘みたいにだ。
 向けてくる視線に色めいたものがまったく無いのが逆に怖くもある。
 それは隠しているのか、元からないのか。別に恋情向けて欲しいわけじゃないんだけど、線引きのうまさを感じて怖いんだ。
 なんかつつけばぼろがでる、って感じがまったくないのが怖い。
「ララトア、今日僕は帰るんだ」
「はい」
「次はいつ、会えるかなぁ」
 さぁ、いつでしょうね。俺はそっけなく答えた。
 王様は俺のそんな返事を予想してたんだろう。まったく動じずに笑ってる。
「ところでララトア。君、とても優秀なんだってね」
「頭はいいと思うけど」
「僕の国にきたらもっと高いレベルで色んな事を学べるんだけど」
「……いきませんよ?」
「留学の枠が、国立校で空いてるみたいだよ」
 考えてみて、と言われる。
 考えるもなにも、行かない。俺はこの国でまったりのんびり、古書を読んだり遺跡の資料を読んだり。
 そういうまったり生活で良い。そのうち学者になれるならなりたい。
 学ぶ場は魅力的だな、と思うけれどそれ、王様の国にいくってことだろ?
 それは、なんかな。周りから固めようとしているようでいやだと思う。
 俺は結構ですと答えた。
 すると、ぱぁっと王様は表情輝かせる。
 あ。
 あ!?
「結構です、そうか。それでいいってことだね。わかったすぐに手配させるよ」
「え、いやその結構じゃなくて! いらないの、必要ないの結構だから」
 慌てて俺は止める。
 王様はにこーっと良い笑みを俺に向けてきた。この人、わかっててやっぱり、さっきの言ってるんだ。
「いいの?」
「は?」
「本当に、いい?」
 そういわれると、黙らざるをえない。
 この国でも勉強はできる。十分なくらいだ。
 でも、でも猛き『獅子の国』には嘆きの『花鳥の国』に無いものがある。
 それは神話時代の、大遺跡だ。俺はそういうものが、大好きだ。死ぬまでに見に行きたいな、くらいは思ってる。
「……ち、父上にも聞いてみない、と」
「ああ、それは問題ないよ。どうぞうちの息子を好きにしてくださいっておっしゃってたから」
「な!?」
 父上このやろうちくしょう。
 結局俺は、この王様にすでに与えられたも同義だ。
 これはまずい。助けてくれるやつはいないときた。
 そして俺の心も、揺れている。あああああ、遺跡、ああああああ!!!
 考えないようにしてたんだよ、本当に。
 俺は一度、弱みをつつかれたらそれについてうじうじ考えまくっちゃうタイプだから。
「もし、来るなら……僕が中まで入れるようにしてあげるけど」
「うっ」
「どうする? 一般人は入れない場所だよ」
 なんつー誘惑だ。
 これ、絶対王様はわかって、言ってるんだろう。どこからだ。どこから俺のそういう情報を得た。
 間違いなく父上だろうけど!!
 俺はうぅんと唸る。思わず両手を顔で覆ってしまうほどに悩む。
「ちょっとだけ遊びに行ったときに、そこを見にいけたり……」
「ちょっとだけで満足できる?」
 うぅ。本当に、本当に王様は!
「……留学、なんて。そ、そんな簡単には……」
「次の期が始まるのは来月だね」
「うっ……」
 一か月あれば、そりゃ準備もできる。
 俺はしばし葛藤した。その葛藤の表情さえ、この目の前の王様は楽しんでいる。
 それが、わかる。
 面白がってるのとは違う。俺がうごうごしているのを見て、愛でているような。
 そんな視線なんだ。
 うわ、こわい。
「僕が帰るまでに、返事くれれば上手にするよ」
「…………りゅ、留学…………」
 します、と。
 俺は結局、その場で言った。言ってしまった。
 そうなると思っていたというように王様は笑う。
 なんだかしてやられたというしかない。
「それじゃあ準備できたらいつでもおいで」
 猛き『獅子の国』は君をいつでも大歓迎だと王様は言う。
 国っていうか、あんたがだろって思った。そう思う事すらまた、この王様は見透かしているんだろう。
「いい性格してますよね」
「そうかな?」
「すごく、胡散臭いし」
「はは、それは時々言われるかな」
 なんにせよ、君が来るのが待ち遠しいよと王様は笑う。
 俺は嬉しいけど、なんか失敗したかな、やっちゃったかなと、思っていた。
 そしてこの後、なんで勝手に決めたとリュリュスにこっぴどく叱られる。
 だって! 遺跡が!! 遺跡をたてにされたら頷くだろ!!
 そうやって叫ぶと、ドン引きされた。まぁ遺跡に興味がないリュリュスだからな。
 誰だって遺跡をちらつかされたら頷いてしまうだろうと言うと、お前だけだと言われてしまった。
 いや絶対、皆そうだって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...