皇子の憂鬱

ナギ

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2:憂鬱の本当の始まり

オウジと晩餐会

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 王様との朝食を終えて。
 俺は城の中、図書館なんかのある場所を案内してもらった。そして昼は軽めにとって、晩餐会の準備。
 ミアさんが正装を綺麗にしわとってくれて。見たいというから、着なきゃいけない。
 別に身内だけならいいんじゃない? 普通のちょっといい服で、と思ってたんだけどそうはいかなくなった。
 どこで聞いたのか。城を案内してもらってる途中で王様とすれ違って、正装楽しみにしてると言われてしまったからだ。
 初めてあったあの日も、来てなかったような正装を!
 白いズボンに半袖のシャツ。味気ないけどいい生地使った服を着て布を巻いていく。
 この布は皇族ひとりずつ、色味が違う。
 俺の布は髪の色と似ている。
 銀糸から薄い青の糸を使って描かれた図柄。それにあわせて染められた布。
 肩にはこの図柄、背中にはこの模様と来る場所が決まっている。
 これもまた神話になぞらえた図柄だ。
 真ん中を背中の後ろに合わせる。くるっと体の前で巻いて、背中から前に、布を流す。そのときに、上手にひっぱって抑えてとめて。説明は難しいけど自分でできる。けど布はまだまだ長いからこれを運ぶのを手伝ってもらうのだ。
 前に運んだ部分を両方とも二つ折りにして返して。装具で腹の前の布を止める。
 肩で後ろに流した布を留め、そこから肘あたりで装具で留める。
 これは鳥的な、翼の表れなんだそーだ。布の端がひらひらしてる感じが。
 よし、ちゃんと着れてる。うん、体型変わってない!
 いつもは兄弟とはいはいとやるけどミアさんは初めてで時間がちょっとかかった。
 ま、もう着ることはこれが最初で最期のはず。
「特殊な正装ですね」
「俺もそう思うよ。手伝ってくれてありがとう」
 準備ができた俺は晩餐会の場所に案内してもらう。
 そこは俺がまだいった事ない場所。内装がー! 遺跡を殺さず上手に色々、調整してる感じが!
 ちょ、ここから岩の色変わってるし!!
 と、ガン見。正直壁に頬ずりする勢いでどんな感じか見たい。見たいけど我慢だ。
 我慢。
 こちらですとついた部屋の、扉が開く。
 一番最後に来たのは、どうやら俺みたいだ。三人、部屋の中にはいて。
 王様が俺を見て瞬くと、嬉しそうに笑ってくる。
 俺が。俺が女の子だったら、その笑顔にときめくんだろう。
 しかし残念ながら、そうはならないのだ。
 ときめく? ないな。ない。
 王様は俺のもとまでやってきて手を差し出す。え、これはもしかしてエスコート?
 さすがにそれは、と思って凝視していると苦笑してその手を下げてくれた。
「ララトア、こちらへ」
「ありがとうございます」
 示された席に向かう。
 丸いテーブル。王様、俺、ヒースさん、おっさんとじいさん。
 おっさんが将軍で爺さんが先代の宰相だろう。
「初めまして、嘆きの『花鳥の国』の皇子、ララトアと申します」
「遠い所をようこそ。王のわがままで丸め込まれたのでしょう。本当に申し訳ない」
「ああ、王のめずらしいわがままだな。その的になったララトア様には悪いが」
「お二人とも……困っておられます。ララトア様、こちらが将軍の、ゼル様。そして先代宰相のイース様です」
 ヒースさんが紹介してくれる。すると二人とも改めて名乗ってくれた。
 なんというか、悪い人達ではないな、という印象。
 それから食事会が始まる。
 食事は、豪勢なコースが出るかと思ってたんだけど、郷土料理を色々出してくれた。
 それは俺の為に、なんだろう。味が濃いなーと思いつつ嫌いじゃないし美味しいと思う。
 食文化の違いはでかいな、と感じざるをえない。
「ララトア様は半年ほどおられるのでしたな。でしたら、この爺にもお時間いただけますかな?」
「はい」
「やや、ありがとうございます。嘆きの『花鳥の国』の話を色々とお聞きしたいのですよ」
「わかる話ならいつでも。ただガガトア兄上のように、政治にはあまり通じていないのでご希望に添えるかは」
「いやいや! わしは神話や寝物語を聞きたいのです。孫たちがそういう話が好きで……しかし、猛き『獅子の国』には孫たちの好きそうな話があまりなくて」
 ああ、なるほどー。
 嘆きの『花鳥の国』の神話と言えば、ちょっとほっこりした感じのものが多い。泣いた鳥の話、贈物の話。仲違いしても最後には仲直りしたり。
 あと美味しい果物とか木の実の食べ過ぎてでっぷりした鳥の食べ歩きの話。この話は笑いもあるんだけど、木の実とか果物は学術的な話も入ってて勉強になる。
 対して、俺の知る限り猛き『獅子の国』の神話や寝物語は勧善懲悪。悪者を正義の味方が倒していくものが多い。
 多いというよりほとんどか。そんな話聞いちゃ、目がさえちゃうよなぁ。
「そういう話でしたら」
「寝物語か。私も聞いてみたいな」
 と、王様が笑う。それは構わないのだけど一緒に眠ってとかそういう流れのようにも俺にもとれる。
 他愛ない話ならいつでも、と俺がながすとゼル様とイース様は王はフラれているのですねと笑った。
 ヒースさんはそうですねと頷いて、王様はなかなかガードが高くてと言う。
 な、なんだろう。
 跡取りとか心配しなくていいから、こういう伴侶選びも自由なんだろうか。
 国とは違ってて、国民性? 考え? そういった違いを感じる。
 それから、食事はこの猛き『獅子の国』の色々な話を聞けて結構楽しかった。
 ゼル様は将軍なので、他国にも赴いたりするらしい。といっても戦うことなどほとんどなく、魔獣の退治だとか。
 そういう分野での活躍のようだ。
 一方、イース様は国でのこと。先代の王様も面白い方だったと話してくれた。
 その方は、旅に出てしまってどこにいるのかわからないのだとか。
 私に全部任せてふらっと消えてしまったのだよ、と王様は笑って言う。けれど、なんだろうか。
 そう紡ぐ表情とかが、おかしな話だと笑うのではなくて。
 どこか、懐かしむような優しいものだと俺は感じた。先代の王様は、きっと良い人だったんだろうと思えた。
 どんな人か、会う機会があるなら、会ってみたいとちょっと思う程度には。
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