皇子の憂鬱

ナギ

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2:憂鬱の本当の始まり

オウジとオウサマの一歩

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「カーティスと会ったんだって?」
「え……あ、はい」
 カーティスと、次の王様と会った次の日、朝食を食べながら。
 非常に不機嫌そうに、ベスティアはそう紡いだ。
 なんだ、会ったのダメだったのか?
「……会わせたく、なかったんだけどなぁ」
「なんで?」
「だって、年も近いし。話してて楽しいんじゃないかと思って」
 いやいや。
 会ったばっかりの相手と……いや、あるかな。
 気が合えば、そういうこともあるか。
 確かに年齢も、近い。
 つまりなんだ、これは。
「……嫉妬?」
「…………ちがうよ?」
「ああ、嫉妬な」
 にっこりと笑って否定したのがまさしく肯定だろう。
 オウサマは――俺に嫉妬しているんだろう。
 王の引き継ぎもあるだろうし、仲良くやって行きたいのはわかる。
 俺がそれを邪魔しちゃいけないよな、うん。
「心配しなくても、俺はベスティアからカーティスをとったりしないって。そっちはそっちでやることたくさんあるだろうし、邪魔しないよ」
「ん?」
「でも、時々はあいつ、息抜きさせてやらないとまずいんじゃない?」
「それは、うん。そうだね、そう言われた」
 なら、ベスティアはもっと、カーティスと関わる時間を持つべきじゃないのかと俺は言う。
 勉強じゃなくて、遊び? 他愛ない話とか、そういう時間を。
 そう言うと、笑っているような困っているような。
 微妙な表情をベスティアは浮かべた。
「何か勘違いしてるけど、まぁいいか」
「勘違い?」
「なんでもないよ。ところでララトア、街には出た?」
「あー……まだ。でもシェラとユユトラと一緒に行こうって約束はしてます」
「僕とは、いってくれないのかな?」
「オウサマは、目立つからやだ」
「……久しぶりにオウサマって呼ばれた」
 ふふ、とベスティアは楽しげに笑った。
 なんだかなぁ、と思う。最初より多少は、というより。
 俺が、ベスティアのことを色々知ったと思う。
 けど、なんか。大事なところは、ベスティアは見せてくれない。
 はぐらかされているのだと、思う。
 俺とベスティアの朝の時間は続いていた。
 この時間にはユユトラが、時々混ざるけど基本的に二人きりだ。
 そうなるように取り計らったのはヒースさんらしい、というとこまでは知ってる。
 しかし、嫉妬するなら、この時間もカーティスと一緒に過ごすべきでは?
 でも、四六時中一緒っていうのも息が詰まるか。
「そのうち、君たちの所に混ざってカーティスも勉強、すると思うんだけどね」
「そうなんだ。賑やかになるな」
「……それだけ?」
「え、うん」
 そっか、とベスティアは笑う。
 カーティスとは顔見知りだけど、ベスティアよりもどんなやつかわからない。
 感情的なところはあるかな、って思ったけど。
「……ララトア、最初に僕と、とは言わないけど。やっぱり一緒に街に遊びに行きたいな」
「えー」
「……街にも、一般の人は知らない遺跡がある」
「えっ」
「僕はその場所を、知っている」
「…………べ、べすてぃあ」
「どうする?」
 にっこりと、笑う。
 いつもこうやって、ベスティアに誘導されているな、とは思うんだ。
 思うんだけど!
「一緒に、遊びに行こう!」
 俺もそれに引っかかってしまう。
 ベスティアはご機嫌で頷く。俺は言わされている、という感じもするけど。
 ま、まぁ……きっとこれは俺の気のせいだ。
 ベスティアとの話は、楽しいと思う。悪くはない。嫌じゃ、ない。
 ベスティアは俺とこうして、過ごしているのは楽しいのだろうか。嫌なら誘わないよなぁとは、思う。
「……ベスティアはさ、俺の事が、本当に、まだ、好き?」
「好きだよ」
「……当たり前のように頷くよな、さらっと」
「だって当たり前の事だからね」
 ベスティアの笑みが一層深くなる。
 うう、イケメンめ! ベスティアの顔はとても整っている。優しい風貌なんだけど、キリっとしていて。
 きっともてるんだろうなぁ、と思う。
 なのに、女でもない俺を好きだという。嫁にしたいという。
 王であっても、子を残す必要がないから、そう言えるんだろうけど。でも、国の民は良き王の子なら、たとえ王が変わったとしてもその生を喜んでくれると思うんだけどな。
 そんな風に、考えているとだ。
「突然、そんな事聞かれると……なにか歩み寄ってくれるのかと思ってしまうよ、僕は」
「えっと……そういう、気持ちは……ごめん、まだない」
「まだ」
「あ」
「まだっていうことは、脈がある?」
「…………絶対にない、とは言わない」
 絶対にない、とは。
 嫌いじゃないんだ、だから困る。好きか嫌いかと言えば、好きなんだ。
 けどこの気持ちが恋情かと言えば、そうではない。
 完全に断れば、傷つけることになるのだろう。ベスティアを傷つけたくなくて、俺は逃げている。
 ベスティアもそれにきっと気付いている。けど、今を壊したくないから何も、言わないんだと思う。
 早く、と答えを求めない優しさは、残酷なものだと思う。
 お互いに、だ。
 お互い、なぁなぁで居心地の良さに浸っている。
 それはいつ、崩れてしまってもおかしくないものだろう。
「そもそもさ、なんで、俺が好きなの? 一目惚れって……本当に?」
「……一目惚れじゃ、納得できない?」
「納得できない、というか……一目惚れって本当にあるのかが信じられなくて」
「そっか……うん。実は、さ」
 ララトアと出会ったのは、あれが初めてじゃないんだよ。
 と、ベスティアはとってもいい笑顔でのたまった。
 は?
 え? 初めてが、あの時じゃない?
「君は覚えていないかもしれないけどね」
「え、いつ? どこで?」
「場所は嘆きの『花鳥の国』の……城の中庭で」
「…………そ、それは。ベスティアが王様に、なる前の話?」
「そうだね。僕はまだ、王ではなかった」
 さぁ、いつ会ったんだろうね、と楽しそうにしている。
 こ、これは俺に教えてくれないやつだ! 
 自力で思い出さないといけないやつか。
「宿題だね」
「え?」
「宿題の提出はいつになるかなぁ」
「な、なるべく早く頑張ります……」
 ベスティアが王様になる前。場所は嘆きの『花鳥の国』の、城の中庭で。
 つまりは、その頃に来た事がある?
 え、いつだろう。一体、いつの誰なんだろう。
 唸っていると、そろそろ時間だとベスティアは言う。
 ああ、朝食の時間は終わり。
 ベスティアは仕事に行くし、俺も勉強しに行く。
 あ、そうか。ユユトラに聞いてみよう。
 何か知っているかもしれないし。
 俺は一体、いつ、ベスティアと出会って。そしてどんな話を、したんだろう。
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