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2章 騎士団の見習い
2.見習い
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「次の春より、ラーシュと共に騎士団の見習いになるように」
アンナリーナと婚約しても、エヴァの生活は殆ど変化がなかった。婚約式以降、アンナリーナと個人的に会うのは控えているが、エヴァは相変わらず公爵家に住んでいるし、騎士団の稽古も続けている。
変わらない日常が続くのかと、楽観視しかけたその時、アンディシュにそう告げられた。
「……僕まだ10歳ですけど?」
ついこの間、誕生日が来たとはいえ、見習いは13歳にならないとなれないはずだ。
エヴァはアンディシュの言葉に、首をかしげる。
「見習いの入団規則が更新された。騎士団の思惑に乗せられるのは面白くは無いが、城の動向が分かる手駒が増えるのは悪いことではない。お前は王女の婚約者だからな。王城に近いところに置いておくのが良かろう」
エヴァにとって、アンディシュの説明は全く意味が分からなかったが、拒否権が無いことだけはわかった。
「……つまり決定と言うことですね」
アンディシュは頷き、片手を払うような仕草で、エヴァをさっさと部屋から出した。
アンディシュの執務室から出たエヴァは、ため息をつきながらラーシュの部屋に向かうことにした。ラーシュは一足先に入団のための準備を始めているはずだ。何をしたら良いか教えてもらおうと考えた。なにせもう、春まで二ヶ月も無いのだ。
「ラーシュ、僕も騎士団に入ることになったよ」
「はぁぁぁ?」
ラーシュの部屋に入るなりそう言ったエヴァに、ラーシュは思い切り顔をしかめた。
「見習いは13歳になってからだろ?」
「規則が変わったんだって」
ソファに座り両手で頬杖をつくエヴァの前に、額を押さえながらラーシュは腰掛けた。
「……大丈夫なのかよ、それ。体力も体格も全然違うのに」
「分かんないけど……決定だってさ。だから入団のために、どんな準備が必要か教えてもらおうと思って」
ラーシュがエヴァを心配するのも無理はない。
エヴァは、ラーシュと共に、ここ半年ほど騎士団で団長たちに稽古をつけてもらっているが、(女児なので)体力も筋力もない。だから、力で押すような技は使えない。かといって、剣の腕は本当に凡庸だったので、技術でなんとかすることもできない。
本当ならエヴァ自身は、見習いの歳になっても騎士団へ入団するのは、やめておこうと考えていたくらいだった。
エヴァの言葉にラーシュはため息をつく。エヴァは先ほど、アンディシュに呼ばれていたのだ。ラーシュも当主の決定に逆らうことはできない。
「準備って言っても……お前は騎士寮に入るのか?それとも通いにするのか?」
「それって選べるの?」
「あぁ。通いにするなら、騎士団で使う演習服を新しく誂えるくらいで良いはずだ。見習いは、適正を見極めるためにいろんな武器を試すから、最初は武器の貸出があると聞いた。寮に入るなら、普段着や日用品なんかは持っていかないといけないから荷造りする必要がある」
「ラーシュはどうするの?」
「……俺は寮に入る」
「じゃぁ、僕もそうしようかな」
エヴァは軽い気持ちで答える。それに、アンディシュはラーシュと共にと言っていた。彼は既に、エヴァを寮に入れる心積もりなのかもしれない。
「寮に入るにはどうしたら良いの?」
「申請書を書く必要がある。一枚しか貰ってこなかったから、次の稽古で副団長にもう一枚貰おう……でも、本当に良いのか?」
ラーシュが念を押すように聞いてくる。エヴァは首をかしげた。
「なんで?ラーシュも入るんでしょ?」
「……俺は、ここにいるよりましだと思ったから、寮を希望したが……お前は居づらいかもしれない」
ラーシュがそう言っても、エヴァはまだ分かっていないような顔をしていたので、ラーシュは言い難そうに言葉にする。
「……お前は、平民から公爵家の養子になり、王女の婚約者になった。騎士団長達とも入団前から顔見知り。……騎士団は、家を継げない次男以降の者が多いから、お前の境遇をやっかむ奴が出てこないとも限らない。お前、一人だけ小さくて体力も無いんだ。寄って集って攻撃されたら逃げられないぞ」
ラーシュはそこで口ごもったが、騎士団には、同性を好むものもいると言う。エヴァはとてもきれいな顔立ちをしているのだ。
――――自分はいざとなったら、相手をぶちのめすつもりだが、力で劣るこいつには無理だろう。
ラーシュの言葉に、エヴァは絶句した。
考えてもみなかったが、確かに年上に寄って集って攻撃されればなす術もない。
しかし、それは騎士団に入る以上避けられないことではないだろうか。
最近、気が引けて顔を出していなかったが、アンナリーナに相談してみた方が良いかもしれない、とエヴァは思った。
「……少し考えてみる」
先行きは中々前途多難そうで、エヴァはため息をついた。
アンナリーナと婚約しても、エヴァの生活は殆ど変化がなかった。婚約式以降、アンナリーナと個人的に会うのは控えているが、エヴァは相変わらず公爵家に住んでいるし、騎士団の稽古も続けている。
変わらない日常が続くのかと、楽観視しかけたその時、アンディシュにそう告げられた。
「……僕まだ10歳ですけど?」
ついこの間、誕生日が来たとはいえ、見習いは13歳にならないとなれないはずだ。
エヴァはアンディシュの言葉に、首をかしげる。
「見習いの入団規則が更新された。騎士団の思惑に乗せられるのは面白くは無いが、城の動向が分かる手駒が増えるのは悪いことではない。お前は王女の婚約者だからな。王城に近いところに置いておくのが良かろう」
エヴァにとって、アンディシュの説明は全く意味が分からなかったが、拒否権が無いことだけはわかった。
「……つまり決定と言うことですね」
アンディシュは頷き、片手を払うような仕草で、エヴァをさっさと部屋から出した。
アンディシュの執務室から出たエヴァは、ため息をつきながらラーシュの部屋に向かうことにした。ラーシュは一足先に入団のための準備を始めているはずだ。何をしたら良いか教えてもらおうと考えた。なにせもう、春まで二ヶ月も無いのだ。
「ラーシュ、僕も騎士団に入ることになったよ」
「はぁぁぁ?」
ラーシュの部屋に入るなりそう言ったエヴァに、ラーシュは思い切り顔をしかめた。
「見習いは13歳になってからだろ?」
「規則が変わったんだって」
ソファに座り両手で頬杖をつくエヴァの前に、額を押さえながらラーシュは腰掛けた。
「……大丈夫なのかよ、それ。体力も体格も全然違うのに」
「分かんないけど……決定だってさ。だから入団のために、どんな準備が必要か教えてもらおうと思って」
ラーシュがエヴァを心配するのも無理はない。
エヴァは、ラーシュと共に、ここ半年ほど騎士団で団長たちに稽古をつけてもらっているが、(女児なので)体力も筋力もない。だから、力で押すような技は使えない。かといって、剣の腕は本当に凡庸だったので、技術でなんとかすることもできない。
本当ならエヴァ自身は、見習いの歳になっても騎士団へ入団するのは、やめておこうと考えていたくらいだった。
エヴァの言葉にラーシュはため息をつく。エヴァは先ほど、アンディシュに呼ばれていたのだ。ラーシュも当主の決定に逆らうことはできない。
「準備って言っても……お前は騎士寮に入るのか?それとも通いにするのか?」
「それって選べるの?」
「あぁ。通いにするなら、騎士団で使う演習服を新しく誂えるくらいで良いはずだ。見習いは、適正を見極めるためにいろんな武器を試すから、最初は武器の貸出があると聞いた。寮に入るなら、普段着や日用品なんかは持っていかないといけないから荷造りする必要がある」
「ラーシュはどうするの?」
「……俺は寮に入る」
「じゃぁ、僕もそうしようかな」
エヴァは軽い気持ちで答える。それに、アンディシュはラーシュと共にと言っていた。彼は既に、エヴァを寮に入れる心積もりなのかもしれない。
「寮に入るにはどうしたら良いの?」
「申請書を書く必要がある。一枚しか貰ってこなかったから、次の稽古で副団長にもう一枚貰おう……でも、本当に良いのか?」
ラーシュが念を押すように聞いてくる。エヴァは首をかしげた。
「なんで?ラーシュも入るんでしょ?」
「……俺は、ここにいるよりましだと思ったから、寮を希望したが……お前は居づらいかもしれない」
ラーシュがそう言っても、エヴァはまだ分かっていないような顔をしていたので、ラーシュは言い難そうに言葉にする。
「……お前は、平民から公爵家の養子になり、王女の婚約者になった。騎士団長達とも入団前から顔見知り。……騎士団は、家を継げない次男以降の者が多いから、お前の境遇をやっかむ奴が出てこないとも限らない。お前、一人だけ小さくて体力も無いんだ。寄って集って攻撃されたら逃げられないぞ」
ラーシュはそこで口ごもったが、騎士団には、同性を好むものもいると言う。エヴァはとてもきれいな顔立ちをしているのだ。
――――自分はいざとなったら、相手をぶちのめすつもりだが、力で劣るこいつには無理だろう。
ラーシュの言葉に、エヴァは絶句した。
考えてもみなかったが、確かに年上に寄って集って攻撃されればなす術もない。
しかし、それは騎士団に入る以上避けられないことではないだろうか。
最近、気が引けて顔を出していなかったが、アンナリーナに相談してみた方が良いかもしれない、とエヴァは思った。
「……少し考えてみる」
先行きは中々前途多難そうで、エヴァはため息をついた。
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