犬も食わない物語

胡暖

文字の大きさ
上 下
16 / 16
犬も食わないハジメテの

押し潰されそうな… ~sideA~

しおりを挟む
 昨日、ルークの元カノと話した後、予定通りルークとの待ち合わせに向かった私は、直前の出来事を引きずっていたせいで、必要以上にルークに厳しい態度をとってしまった。いつもなら口を噤んで冷静になるまで待つけれど、どうにも止まらなかったのだ。
 それでも、ルークはきちんと家まで送ってくれた。沈み混むような気まずい沈黙を破るように、去り際ルークは「お互い頭を冷やそう」と、呟いた。一瞬意味をとりかねたが、今日は別々に帰ろうと言うことだったようだ。
 こんなこと言うと薄情だけど、その事に少しだけホッとした自分がいた。

 これまでは仕事で残業しない日なんか無いくらいだったのに、最近ルークとの時間を持つために、定時で上がるようにしていたせいか、予定が無い今日も、これまでのように終業後に仕事をする気になれなかった。不意に空いた時間を埋めるように私は、特に当てもなく町をぶらつくことにした。

 そこで、偶然見かけたのだ。ルークとキャサリンを。

 まさか二人の間に何かあるなんて疑ってはいない。
 キャサリンは親友だし、ルークは私の恋人で、二人とも私にとってとても大切な人たちだ。
 あ、やっぱりと心の奥底で呟いた自分がいたのも事実だったのだ。心の中で沸き上がる劣等感。
 キャサリンは、明るくて、可愛くて、私なんかより一緒にいて遥かに楽しい人だ。そして、実家は裕福な薬屋。こんな堅物で面白味もなく、後ろ楯になるような実家もない私とは比べるべくもない人なのだ。
 自分の頭によぎった不安を、否定しきれなかった私は、二人が入っていったカフェ――――カップルに大人気の、前を挙動不審に行ったり来たりした後、うじうじ悩むぐらいなら、と覚悟を決めて二人に直接訪ねることにした。
 案外何でもないことで、きっと二人は笑い飛ばしてくれるはず。ぎゅっと拳を握り込んだ。

(大丈夫、大丈夫…)

 そうして入った店内で、二人は角の窓際の席に座っていた。キャサリンは私に背を向けているので、表情は見えない。ルークも話に集中しているのか、こちらに気づく様子はない。
 ルークは私と二人でいる時よりよほど身振り手振りも、表情も豊かに見えて、少し足がすくんだが、ルークが顔を伏せた瞬間に思いきって二人に近づいた。

 そして、聞こえてきた言葉に、心臓が凍りついた気がした。

「こんなに好きなのに、今更他の女に目が行くわけないだろー…」

 その後こぼれた言葉は本当に無意識だった。

「ねぇ、それ、どういうこと?」

 びっくりして振り返ったキャサリンと、ルークの表情を見て、悟る。
 あぁ、不安が的中してしまったと。
 足元が崩れていくような感覚に流されてしまわないように、ゆっくりと目をつぶった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

tobi2617
2023.03.11 tobi2617

おもしろい!
オリビアの方もおもしろかったです。
がんばって続き書いてくださいね!

胡暖
2023.03.11 胡暖

感想ありがとうございます(*^^*)
オリビアの方も読んでくださってありがとうございます!
筆が止まっていてすみません…(*_*)出来るだけ早めに続きを後悔したいと思っているのですが…
また更新したらぜひ見に来てくださいね(*^^*)

解除

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。