冴えない人生を送っていた孤児ですが、死神辺境伯に溺愛されました。

胡暖

文字の大きさ
11 / 13

11.案の定

しおりを挟む
 
「じゃ、私は息子の世話があるのでまたね!クレアには一通り仕事の流れは説明してあるから!」

 ソフィアは、クレアを紹介するとあっさりと帰っていった。エリンは額を押さえながら、どうしたものかと考える。気は進まないが、一度側近リアムに、強硬にクレアを排した理由を確認した方がいいだろう。

 ◆

 夕食の時間。シェラがメガネを手に入れ、意外と子守りの戦力になると分かってからは、リアムは主人の食事中のアクセルの世話をシェラに任せ、アイザックの給仕につくようになっていた。
 ずっとアイザックの後ろから、エリンを睨んでくるので鬱陶しいことこの上ないが、今日ばかりはわざわざ探しに行かなくてすんだことに感謝する。

「クレアという女を知っているか?」

 珍しく自ら口火を切ったエリンに、アイザックが食事から視線を上げる。そして、首をかしげた。その後ろからリアムが、鋭い目付きでエリンを問いただす。

「……その名前を誰から聞いた?」
「ソフィアだ。と言うか、本人クレアが来た」
「はぁ!?」

 エリンの言葉に取り乱すリアムに、アイザックがチラリと視線をやり、誰何する。一瞬迷ったリアムは、主人の問いに視線を下げて応答した。

「恐らく……ウエストンの妹です」
「ほう?」

 アイザックには思い至る人物がいたのだろう、意外そうな顔をした。しかし、エリンにはウエストンも分からない。

「いや、しかし、それよりも……!お前、さっきクレアが来たと言ったな?」
「あぁ。と言うか、今もいるな」
「どこに!?」
「アクセルのところだ」

 エリンの返答に顔面を蒼白にしたリアムは、唾を飛ばしながら捲し立てる。

「身元の怪しいものを屋敷に上げるとは何事だ!!」
「いや、それはソフィアに言ってくれよ」

 エリンは尤もな主張をしたつもりだが、リアムはギリギリと歯を噛み締めてエリンを睨み殺しそうな目で見ている。エリンは肩を竦めることで応えた。
 くそっと、口の中で呟いた後、リアムは態度を整えアイザックに向き直る。

「アイザック様、少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「あぁ」

 恐らくリアムはクレアのところに行くのだろう。エリンも食事を中断してついていくことにした。
 エリンが立ち上がると、アイザックも席を立つ。ついてきてくれるつもりだろうか、とその長身を微かに見上げると、アイザックは軽く頷いた。

 リアムは食堂から出るなり走ったのだろう。エリン達も間を置かず出てきた筈なのに、食堂の外には既に姿がなかった。
 エリンは、走ってまでリアムを追いかける気はないので、軽く肩を竦めると、アイザックの方へ視線を向ける。部屋へと向かいながら、エリンはアイザックに、ウエストンの事を聞いてみることにした。

「ウエストンは、我がブラグデン辺境伯家の傍系の伯爵家の嫡男だ。過去に辺境伯の持つ爵位の一つを譲られ興った家で、それ故に、土地を持たず、王都で王宮に出仕していたのだが……政変で、地位を追われてな。こちらを頼ってきたので、受け入れた。その縁でウエストンは、騎士団に入っていたのだが、先の戦争で戦死したのだ」

 訥々と語るアイザックの最後の言葉にエリンは目を丸くする。

「跡取りなのに、騎士団に?」

 その様子を横目で見ながら、アイザックは軽く頷きを返す。

「あぁ、俺の傘下に入ることで恭順の姿勢を示す為だろう」
「ふーん、それって……義理として騎士団に入ったとはいえ、前線に出る気はなかったんじゃないか?」
「そうかもしれぬが、戦う気もない者は養えん」
「……で、戦死した?」
「あぁ」
「…………それは恨まれるな」
「だから、リアムが警戒している」

 アイザックは肩を竦めた。
 エリンはため息をついて、走っていったであろうリアムを追う足を少し早めた。

 ◆

「あっ……エリン様!」

 部屋の前では、アクセルを抱えたシェラがオロオロと立っていた。

「お前、こんなとこでどうした?」
「リアム様が突然お部屋にいらして、すごい剣幕で……私とアクセル様に出ているように、と」

 中からは言い争うような声が聞こえる。
 シェラは「大丈夫でしょうか?」と不安そうに呟いた。しかし、エリンはどうとも答えることができない。大丈夫かと言われると、きっと大丈夫ではないからだ。

「そう……ここは冷えるから、食堂に行ってな。まだ暖炉に火が入ってるから」

 エリンから何の状況説明もなかったために、シェラは一層顔を不安そうに歪めたが、ぎゅっとアクセルを抱く腕に力を込めると、一礼して食堂の方に向かっていった。
 それを見送りながら、溜め息をついてエリンは扉に手を掛けた。

 ◆

「裏切り者の妹が何を考えて屋敷に乗り込んできた!」

 扉を開けるなり、大声で怒鳴るリアムが見える。
 クレアはいっそ不自然な程、艶然と笑って頬を手に当てている。

「あら、庇護していただいている大恩を御返しするためにお仕えすることがそんなに不自然でしょうか?」
「は、恩を仇で返した者の妹が何を!」
「あら、それが命まで取られる行いでしたか?」
「無論だ!主がやらねば俺がやっていた!!」

「リアム、俺は殺してない」

 冷静なアイザックの言葉にはっと、リアムが振り返る。まさか、主までこちらに向かってきていたとは思っていなかったようだった。

「失礼いたしました。言葉のあやです」

 リアムの気がアイザックに逸れたからだろう、クレアはエリンの方に向き直った。こうして見ると、ソフィアに連れてこられた時とはずいぶん印象が違う。何というか、視線も所作も尊大というか、傲慢な印象だった。

「ねぇ、貴女。この死神卿に娶られてどんな気分?」
「どんな気分と言われてもな。……特別奥方らしいことは何もしていないが……食うには困らない」

 エリンの言葉に唐突にクレアが弾けるように嗤う。

「ふふふふ、あははは!そうよね!所詮、辺境伯の地位を賜っても、野蛮な化け物。だから、貴女みたいに品も教養もない女がお似合いよ。傑作だわ!前の奥方が心変わりするのも当然よね!」
「何を!?」

 クレアの挑発に反応したのはリアムだった。エレンは黙り込んで言われた意味を考える。そして、ちらりとアイザックを見た。

「もしかして、前奥方はウエストンクレアの兄と?」
「あぁ、恋仲だった」

 何でもない事のように、アイザックは頷く。あんまりあっさり肯定されたのでエリンの方がぎょっとしてしまったくらいだった。視界の隅に鮮やかな赤色を捉えながら、エリンはさらに問いかける。

「もしかして、ウエストンも赤髪だった?」
「あぁ、良く分かったな」

 額を抑えながら聞くエリンに、アイザックは微かに口許に笑みを浮かべて肯定した。
 アクセルは、クレアとよく似た深紅の髪をしている。アクセルの様子を思い浮かべながら、エリンはため息を吐いた。

 (アクセルはウエストンと前奥方の子か……)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。 また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...