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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
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しおりを挟む「その梨、すごく甘いですよ!」
社長が私に向かってニコニコと笑いかけた。
「あっ! そ、そうですか。じゃ、じゃあ、私、これ買いますっ!」
焦って店員に渡そうとしたので、手が滑って梨が宙を舞った。
「おっと!」
社長がすかさずそれを両手でキャッチした。
「はい、どうぞ! 鈴原部長!」
「…え?」
聞き間違えたのかと思った。或いは、もしかすると私の体はまた菜々子の体と入れ替わったのかと思った。バッグからコンパクトを取り出して自分の顔を見てみた。そこに映っているのは、紛れもなく本物の私、夏子の顔だった。
どうして…?
「あぁ…今は、夏子さん…でしたよね?」
茫然と立ち尽くす私に社長はニコニコして続けた。
「ゆっくり休めましたか? そろそろ現場に復帰してもらえると助かるんだけど…。君がいないと何も進まなくて…」
社長は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ど、どうして私が菜々子にだったって…わかったの?」
「それは…」
菜々子の体の夏子が最後に去って行った駐車場。一人残された社長は、自分の車に戻った。エンジンをかけると、突然ナビが話し出した。
「社長サン! オ疲レ様デス!」
「え? 何? 誰かいるのっ?」
「ワタクシ、最新鋭ノAIヲ搭載シタ ナビゲーション デ ゴザイマス! イイエ、オ礼ニハ 及ビマセン。ドウゾ ゴ利用下サイ マセ。」
「…何、勝手にしゃべってんの?」
「ソンナ事ヨリ 社長! 大事ナ 話ガ アルノデス!」
自分の事、最新鋭のナビって勝手に自慢し始めたり、こっちは感謝もしてないのにお礼には及びませんって言ったり、何なのこのナビ!
それにナビが僕に大事な話って…大事な話をされるほど、僕はナビと親交なんて深めて無いんだど…。
「アナタ…ズバリ菜々子サン ノ 事ガ 好キデショウ?」
「…え?」
「照レ ナクテモ ケッコウ。私ニハ 全テ オ見通シデス!」
「何なの、もうっ!」
「シカシ、コレカラ ガ 大事ナ 事! 実ハ、アナタノ 大好キナ 菜々子サンハ 菜々子サン デハ 無イノデス!」
「は? 何言ってんの? そんな筈ないでしょう! 鈴原さんは以前からずっとうちの会社で働いてくれていて、最近では大きな仕事を任せているんだよ!」
「菜々子サン、何カ 変ワッタト 思イマセンカ?」
「…そう言われてみると、事故の後から人格変わったような…」
「ソノ事故ノ時、菜々子サンハ 夏子サント 入レ替ワッタノデス!」
「入れ替わった? どういうこと? 夏子さんって?」
「デハ、ゴ説明イタシマショウ…」
ナビは今までのいきさつを丁寧に話した。初めは疑っていた社長も、いろんな点で合点がいくと、ナビの話は真実なのだと思うようになった。
「…って、訳なんだ。」
「…ナビは全部話したんですね…。私が離婚してこっちに戻って来たことまで…」
「うん。助かったよ~! 探しに行く手間が省けたしね!」
「社長、私の事探しに行こうと思ってたんですか?」
「当たり前でしょ! でも…」
社長は急に俯いた。
「…でも何なんですか?」
「俺…びっくりしちゃって…その…」
「その…? 何? じれったい! ハッキリ言いなさいよ!」
「あぁ、いつもの鈴原さんだ…あ、いや、今は違うか、ハハハ」
社長は照れながら笑った。
「君の顔も知らなかったからさ、会ったらすぐに分かるように、ナビに君の顔を見せてくれってお願いしたんだよ。そしたら…まさかこんな美人だなんて…なんかもうビビっちゃって…うちみたいに地方の小さな会社に来てもらうのが申し訳ない気分になったり、ましてや僕みたいな冴えない社長の元で働いてもらうなんてとんでもないって思ったり…」
「何言ってんのよ、社長! 私はここでしか働きたくないのよ! だからこんなド田舎に戻って来たんでしょ!」
気が付くと私は涙でボロボロになっていた。社長も目に涙を浮かべていた。
「…うん、うん。そうだね。戻っておいで、夏子さん!」
私たちは抱き合って再開を喜んだ。スーパーの社長と訳の分からない派手な女が抱き合って泣いているのを見て、まわりのお客さんたちから変な目でジロジロ見られた。客の通行の妨げにもなっていた。
「…社長、私たち、思いっきり営業妨害ですよ!」
「そ、そうみたいだね…。」
状況を判断し、私たちはベンチへ行って腰を下ろした。
「あの…、私がこんな姿でいきなり現れたら、みんな驚きませんか?」
「そのことについて…いろいろ考えたんだけど…やっぱり夏子さんには部長の席についてもらいたいんだ。だから、表向きには外部からヘッドハンティングしてきたって説明するけど、企画広報のメンバーや若村君には本当の事を打ち明けようと思ってる。」
「そんな事、信じられるわけありませんよ!」
「まともに考えるとそうかもしれない…。でも…彼らならきっと分かってもらえるんじゃないかって…僕は思うんだ。だって、君の性格、他に探したってどこにもいないし、たとえ外見が変わっても絶対わかると思う! みんな…君にも戻ってもらいたいって思ってる。」
「…あいつら…」
私は鼻の先がツンとなった。
「でも! 私が部長についたら、菜々子が困るんじゃない?」
「それは心配いらない。いや、最初は僕もどうしたらいいか悩んでいたんだけど…でもね…」
…なるほどね。
社長はある事実を私に伝えた。それを聞くと、心配など無用なのだと納得した。
「じゃ、いつから出社できる? 明日? いや、それはいきなりすぎるかな…。来週あたりとかどう?」
「今から行くに決まってるでしょ! バリバリ働くわよ~!」
私はニヤリ笑って社長に行った。
「じゃあ、さっそく向かおう!」
「社長! その前にっ!」
「何?」
ベンチから立ち上がった社長が私を振り向いた。
「またズボンからシャツはみ出してるわよ!」
社長は恥ずかしそうに頭を掻いた。
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