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4. デート代は男が払うのか否か

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―ちょっと繁充、そんな言い方はないんじゃない?
淡々と言う繁充に、砂原は少し生霊に同情してしまっていた。

「そんな事は無い! 俺はあいつを本当に愛していたんだ! だからこれだけ貢いできたし、大事にしてきた。」
生霊は叫んだ。

「投資すればするほど、それに見合った対価を回収したくなるのが男の本能でもある。いくら負けてもバクチを辞められないのと同じですよ。」
繁充は淡々と言った。あまりにバッサリと語るので、横にいる砂原は生霊が起こって暴れ出さないかと冷や冷やしていた。

「おまえに何が分かる? 俺の絵美への愛情が、おまえなんかに分かってたまるか!」
生霊は叫んだ。

「分かんないですよ。俺、貢がないと付き合えない相手なんて、そもそも好きになんかなんないし…もともと…前田さんはあまり好みでは無いと言うか…」

「ふざけんな! おまえなんかに絵美の良さが分かってたまるか! あいつは可哀そうな子なんだ! 小さい頃に母親が浮気して捨てられたんだ。その傷を今でも引きずっている…だから俺はあいつの悲しみを受け止めてあげたかったんだ!」

「…なるほど…。じゃあ、同情なんじゃないですか? あなたが愛情と思っている物は。」
繁充は淡々と言った。

「きさまっ!」
悪霊は怒りに震えて、今にも繁充に襲い掛かろうとした。

「おい繁充! そのくらいにしとけよ!」
砂原は繁充に耳打ちした。繁充は砂原の忠告を無視してさらに生霊を煽った。

「あなたは自分の中のトラウマを前田さんで補おうとしてたんですよ。きっとご自分も過去に辛い事があったんでしょうね?」

「…。」

「前田さんに尽くしてあげる事で本当は自分が慰められていたんですよ。そしてあなたは自分がかけたと思っていた愛情が前田さんから返ってこないのに腹を立てた。それどころか酷い態度や言葉を浴びせられて、傷ついたあなたの心は暴走を始めた。」

「…。」

 その時、また生霊の頭からベロリと剥げて塊が出来た。

「ほら! この塊を見たらよくわかる!」

 塊の中に絵美と生霊が出会った頃の映像が現れた。絵美が優しく微笑んでいたのは、ほんの最初だけで、それからは不愛想な表情ばかりだった。プレゼントされた物が気に入らないと粗末に扱ったり、レストランが気に入らないと、あからさまに嫌な顔をしたり、絵美は明らかに男をナメくさっていた。

「う~ん…なんで生霊さん、前田さんの事がそんなに好きだったんだろ? 普通、これだけ嫌な態度をされたら冷めるよなぁ?」
見ていた砂原がポロリと呟いた。

「…恋は盲目…というだろ? 当事者には本当の事は見えづらいものなんだよ、砂原!」
繁充はしたり顔で言った。

「彼女もいないおまえが言うな!」
砂原は言った。


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