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4. デート代は男が払うのか否か
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しおりを挟む「俺…絵美の事…好きじゃなかったわ…。」
生霊が呟いた。
「そう。むしろ大っ嫌いだった。」
繁充が言った。
「それは言い過ぎだろ。」
砂原が囁いた。
「いや、本当だよ。顔も見たくないくらい大嫌いなのに今まで貢いできた分、損を出したくないという男の執着と、自分は騙されていたと認めたくない愚かな自尊心、それがこの結果になったという訳さ。」
繁充は言った。
生霊は小さく震えながら繁充の話を聞いていた。頬から涙が伝っているのが分かった。
「…なんだか気の毒だな、この人…。」
砂原は生霊に同情した。
繁充は窓を開けた。空気の淀んだ室内に爽やかな風と暖かい光が射し込んだ。
―繁充のやつ…生霊を浄化してやるつもりだな…。きつい事ばかり言ってたけど、おまえいいやつじゃん!
「砂原! 今だ! そいつに思いっきりタックルして!」
「へ?」
―この…泣いている哀れな生霊さんに?
「何してんだ、砂原! 早く!」
「あぁぁ…もう訳わからん!」
そう思いながらも砂原はいつもの癖で生霊に思いっきりタックルした。タックルされた生霊は、思いっきり吹っ飛んで窓の外に弾き飛ばされた。
「二度とここに戻ってくんじゃねーぞ! このクソがっ!」
繁充は大声で生霊に罵声を浴びせ、窓を思いっきり閉めた。砂原は空いた口が塞がらなかった。
「一件落着!」
繁充は手をパンパンと叩いた。
「おまえ…あの生霊を可哀そうだと思わなかったの?」
砂原が聞いた。
「理由はどうであれ、こんなことしていい訳無いだろ。」
「まぁ…それはそうだな…。しっかし歪んだ愛情だったな…。」
「愛情と執着を取り違えて、お互いに相手に自分のトラウマの仕返しをしてたんだろうな…。たまにいるよ。みんなが強い訳じゃ無いから…。」
「なかなか難しいな…。てか俺、今回タックル要員だったわけ?」
砂原は繁充をジロリと見た。繁充はニッコリと笑って砂原の肩をポンポンと叩いた。
「もう大丈夫。」
繁充は絵美に声をかけた。絵美は震えながら繁充の方を見た。
「あいつ…もういないの? また戻ってこない?」
「もう来ないよ。前田さんへの執着が全部そぎ落とされちゃったから。」
絵美は意味が分からず眉間に皺を寄せた。
「これ…君の部屋で見つけたんだけど…大事な物でしょ?」
繁充は絵美に塊を渡した。それは絵美の部屋から剥がれ落ちた絵美の母親の記憶だった。塊は絵美の手の腕でキラキラと輝きながら自分の知らない過去の断片をを映し出した。
「…嘘…そんな筈無い…だってパパが…」
絵美は泣き出した。その場にしゃがみこんで、まるで幼子のように大泣きした。三人は今まで見たことが無かった絵美の姿に驚いた。
絵美の母親は絵美を生んだ後、他に男を作り、笑みを置き去りにして家を出て行った、その後、父親は男手一つで苦労して絵美を育て上げた、というのが父親から伝えられているストーリーだった。
何度も母親から絵美に連絡が来ていたそうだが、父から母の悪口しか吹き込まれていない絵美は、それを頑なに拒んで一度も会おうとしなかった。
そして絵美が高校に入学したくらいから、父親に彼女が出来て、今はその彼女の家に入り浸り、絵美は一人でこの家にいることが多くなっていった。
「それはお父さんが自分の都合のいいように書き換えたストーリーみたいだね…。」
繁充は言った。
「…私…ママに会いに行ってみる。本当の事を知りたい…。」
絵美は塊を愛おしそうに頬ずりした。塊は何も語りはしなかったけど、そこには疑いようの無いほどの愛が溢れ出ていた。
「ありがとう、繁充!」
絵美は繁充に抱き着いた。
―え、え、え!?
綾女は動揺した。
「ありがとう、砂原!」
絵美は砂原にも抱き着いてお礼を言った。それを見て、何故かほっと胸を撫でおろした綾女だった。
「綾女も!」
絵美は綾女をギュっと抱きしめた。
「じゃあ、片付けしますか?」
綾女は照れながら言った。
「そだね。」
そして四人は荒れ果てた絵美の家の片づけを始めた。
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