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5.雨
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しおりを挟む「美味いし可愛いし、即完売でしょ!」
砂原はバザー用の焼きドーナツやマフィンをたらふく食べながら言った。
「繁充君も食べてみて!」
綾女は繁充に焼きドーナツを差し出した。繁充はそれを手に取って口に入れた。
「…美味しい。立川さん、ほんとにお菓子作るの上手いね。」
繁充の言葉に綾女の顔は一気にパアーっと明るくなった。その時、突然空がどんよりしてきて部屋が暗くなった。
「どうしたんだろ。また雨かな。天気予報じゃ降らないって言ってたのに…。」
綾女は首を傾げながら電灯のスイッチを押した。繁充は窓辺に行って、じっと空を眺めた。窓に雨粒がポツンポツンと当たって滴り落ちた。
「繁充君! マフィンも試食してくれるかな?」
綾女は繁充にマフィンを持って行った。
「ごめん、俺、行かなきゃ…」
「…え?」
―繁充君、用事無いって言ってたのに…
綾女の想いとは裏腹に、繁充はさっさとカバンを手に取ると「ごめんね」と小さく綾女に呟いて家庭科調理室を出て行った。
「あいつさ、最近付き合い悪いよな。さっさと一人で帰ること多くない?」
砂原はマフィンにかぶりつきながら言った。
「繁充君…忙しいのかな…。」
綾女は呟いた。
「アレじゃない? 女でも出来たとか。」
砂原がそう言うと、綾女は机をバタンと叩いて立ち上がった。
「わ、わ、私、ちょっと用事思い出しちゃった。ごめん、先に帰る!」
そう言うと綾女はエプロンを脱ぎ捨て家庭科調理室を出て行った。
校舎を出ると霧雨が降っていた。綾女は急いで傘をさすと、繁充の下校ルートを辿った。商店街の入り口まで来ると、遠くに繁充の姿が見えた。
―なんだ一人じゃん…。砂原君があんなこと言うから…
綾女は安堵の溜息をついた。そして繁充の後を追った。次第に雨脚は強くなった。
―繁充君、傘さしてなかった…もしかしてこれは…相合傘のチャンス?
綾女は一人で顔を赤らめた。繁充との距離あと30メートル。綾女が繁充に声をかけようと思った時、繁充は駆けだした。
―え?
綾女の前には信じられない光景が広がっていた。
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