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しおりを挟む流行のブティックに行って、タヌ子に似合いそうな洋服を探した。
が、さっぱりわからない。
ータヌキに似合う洋服って何だ? そもそも、このタヌキの体型で、普通の洋服が入るのか?
しかし、そんな僕の心配をよそに、タヌ子はいろんな洋服を試着している。
―入るらしい!
度々試着室のカーテンが開いて、タヌ子が洋服を着た姿を自慢げに見せてくるが、僕には全く洋服が見えない。
目を擦っても頭を振っても、僕には全く洋服が見えない!
タヌ子が洋服を着たとたん、透明になったみたいにタヌ子の毛並みと同化している。
ー本当に洋服を着ているのか? 店員さんもグルになって僕にドッキリをしかけているとか?
しかしこの店に連れてきたのは僕だ。タヌ子は店に入るまでどこの店に行くかも知らなかった筈だ。
「こちらの服などいかがですか? お客様に似合うと思うのですが…。」
店員さんが持って来たのは薄い水色のレースのワンピースだった。
もろ僕の好みだった。
店員さんにはこの服がタヌ子に似合うと思えるのだ…という事は、タヌ子はもしかして僕の好みの女の子なのか…?
でもやっぱり僕にはタヌキにしか見えず、タヌ子の本当の姿が想像すら出来なかった。
「わー、モデルみたいですねー!お似合いですー!」
店員の女性はそう言っているので、似合っているのだろう。
きっとそのワンピースを着ているのだろうけど、僕には全く見えない。
タヌ子は僕の意見を聞きたいようで、大きな目でジーっと僕を見ている。
「いいんじゃない。可愛いよ。」
そう言っておくしかない。だって見えないんだもん。
「じゃあ、これにしますー!」
タヌ子は嬉しそうだ。とりあえず、良かった良かった。
買い物が終わって、大通りのオープンテラスのカフェでお茶にした。
ここは以前タヌ子ときたレストランだ。今の時間はカフェメニューになっている。
ーそう言えば、タヌ子と初めて来た店はここだったな…。
ウェイターは僕たちを通りに面した木陰の席へ案内してくれた。
大きな街路樹の木漏れ日の下、時折心地よい風が吹いて、そこに座っているだけでとても気分が良かった。
タヌ子は必死にメニューを覗き込んでいた。何を頼むか決めかねているらしい。
「タヌ子、何にする?」
「う~ん、どうしよう…。ケーキセットもいいんだけど、限定で抹茶パフェもあるの! どうしよう…。」
タヌ子の口角はへの字に下がって涙目だ。
「いいよ。両方頼めばいいじゃん! 食べきれなかったら俺が食べるし。」
「いいの?」
悲しそうだったタヌ子の顔は一瞬でパッと明るくなった。
「ヒロキ、ありがとっ!」
タヌ子はニコニコしながらそう言った。。嬉しそうだ。嬉しそうなタヌ子を見ると僕も嬉しい。
結局タヌ子はアイスラテとモンブランのケーキセット、そしてその限定の抹茶パフェ、そして僕はアイスコーヒーを注文した。
何となく予感はしていたけど、結局大量に頼んだデザートは僕のお口に入ることは全く無く、全てタヌ子のお腹の中に流し込まれていった。
「こんなにいっぱい…タヌ子残しちゃうよ~。」なんて声が聞こえた気がしたが…空耳だったのか…。
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