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「あぁぁぁぁぁーーーー。」
タヌ子は声をいきなり叫び声をあげた。。

「大丈夫? タヌ子!」

 タヌ子はゼーハーゼーハー言いながら肩を上下させていた。顔面は蒼白で…、実際は毛皮に覆われているので青いかどうかは分からないけどそんな表情で、手の肉球からは脂汗が出ていた。

―こりゃ相当神経使ったんだな…。可哀そうに…。

 僕は冷たいお茶を汲んできてあげた。タヌ子はそれを一気飲みした。飲んで少し気分もマシになったようだ。

「けっこうなエナジーヴァンパイアだったわ。」
タヌ子は眉間に皴を寄せて言った。

「エナジーヴァンパイア?」

 タヌ子は、知らないのって顔で、グビグビお茶を飲みながら横目で俺を見た。

「エナジーヴァンパイアってのはね、人のエネルギーを吸い取る恐ろしいモンスターだよ。そういう時はエネルギー使うから、私だけの儀式がいるんだよね。ラグビーの試合の前に踊るハカのような物だね、私にとって。普段は衣装まで付けないんだけど、今日は完全武装した。それでもかなりエネルギー吸い取られちゃった。ヒロキ~疲れたよ~。」

「えっ!タヌ子、モンスターからお悩み相談受けてたの???」
タヌ子はクルっと振り返り、真剣な顔をして俺を見た。

「相談してきた人は普通の人だったんだけどね、エナジーヴァンパイアに憑りつかれて感染しちゃったの。人にうつるんだよ、それ!」

「怖っ!」
俺はタヌ子にしがみついた。それにしてもタヌ子の憔悴ぶりは酷かった。

「タヌ子、大丈夫か? 少し横になる?」
僕は聞いた。

「…大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって。少し前まではこの程度の事なんでも無かったんだけど、三か月くらい前かな…その頃くらいからすごく疲れるようになっちゃって…。私…体力無くなっちゃったのかな…。」
タヌ子は背中を丸めてお茶を飲んだ。


「そっか…無理しちゃダメだよ。」
僕はタヌ子の背中をさすった。

「ありがとう、ヒロキ。」
タヌ子はニッコリ微笑んだ。

「あのさ、ところで…俺…まさか憑いてないよね? エナジーバンパイア…」

「大丈夫、憑いてない。」
タヌ子は僕の体を見回して言った。

「よかったぁ~! もし憑いてたらすぐ言ってよね! って俺にも見分けつくかな…そのエナジーバンパイアって…。」
僕が聞くと、タヌ子は少し考えて答えてくれた。

「一緒にいるとすごくグッタリしたり、体調悪くなったりする人っていたりしない? そういう人ってエナジーヴァンパイアの場合が多くて、人のエネルギーを吸い取って自分だけ元気になるんだよ。よくね、バンパイアは言うの。あなたの為に言ってるんだからって…。吸い取られた人は鬱になったり、またはエネルギーを求めてヴァンパイア化することもあるの。」

「……。」

「心当たりあるの?」

「前の彼女がそうだ…。」

「そうだったんだ…。」

 タヌ子は俺の頭をポンポンとした。俺は「うわーん」と、タヌ子のモッフモフなお腹に顔を埋めた。

「大丈夫、大丈夫。」
タヌ子は俺の頭を撫でながらそう言った。

 この肉球とフサフサでポヨンポヨンお腹があれば、どんな物も怖くないような気がしてきた。

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