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「林檎の里」
    あなたの新たな一面が開花するでしょう(内田)



 こんにちは、内田真斗です。真斗と書いてマナトと呼びます。皆さん、もう覚えましたか? 

 前回に引き続き、今回も僕目線でお話は進んで行きます。

 いや~、今回ばかりは参りました! まさかこんな目に遭うなんて! ヒロキさんめぇ~! 

 ここであれこれ言ってもしょうがないですので、僕の身に降りかかった災難…いや、恐怖…ともいえるこの体験、これからお話させていただこうと思います。



「ヒロキさーん、俺、林檎の里グループに営業行ってみようかと思ってるんスけど。」

「あ~、あっこね~。俺もいいなーと思ってるんだけど、社長がな~…。」
ヒロキさんは、パソコン作業をやめ、椅子にもたれかかって溜息をつきながらに僕に言った。

「株式会社 林檎の里ホールディングス」は、全国にカフェやレストラン、結婚式場や旅館、ホテルなどを経営している会社で、最近では東南アジアにも進出している。

 どの業種も女性の好みを知り尽くしているような空間とサービスを提供している。

 まぁ、とにかく女性人気が凄い。

 そんな繊細でうっとりするイメージとは裏腹に、代表取締役の藤堂社長は、現在58歳、色黒固太り、眉毛が太く鼻はどっしりとしていて、するどい眼光からはビームが出ているかの如く、目が合うとたいていの人間は、その眼圧にやられてしまう。

 店のイメージとは真逆に男性ホルモンの塊のような感じの人だ。

 経営もワンマンで、社長の意見が会社の方針になっている。

 とにかくそこの仕事を請け負うには、社長に気に入られるのが必須だが、好みが厳しくなかなか気に入ってもらえる人間はいない、とヒロキさんは説明した。


「俺もがんばったんだけど、全然ダメだったよ。入り口で社長にスコーンって蹴られる状態よ。キャンッって泣きそうだったよ。」

「そぉっスか。やっぱ無理かな~。」

 やめようかと思ったとき、いつから居たのか応接用の椅子に座っていたタヌ子さんがただならぬ気配を発しているのに気が付いた。

「ウッチー、新たな才能が開花するって占いに出てるよ!」
タヌ子さんはテーブルに並べたタロットカードをマジマジと見ながらそう言った。

「タヌ子、普通の占い方もできるの~?」
何故かヒロキさんは驚いている。

「ん~、良き協力者に身近な女性がいるね。彼女だね。」

―エマが協力者? アイツ、今度は何やらかすんだろ???

「ウッチー、やってみなよー!」
タヌ子さんは笑顔で僕をそそのかした。

「そだな、俺はダメでも内田君ならいけるかも!」
さっきまで藤堂社長の大変さを語っていたヒロキさんまで、ノンキにそう言っている。

―この雰囲気、もう行かなきゃダメでことじゃ~ん! しょうがない。ダメもとで行ってみるか。

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