約束

まんまるムーン

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 じーちゃんの施設に着くと、入り口の職員の詰め所に石田さんがいた。
「いらっしゃい。」
石田さんは笑顔で挨拶してくれた。
「お世話になります。」
俺が挨拶すると、石田さんはニッコリ笑った。
「先に部屋に案内しようか?」
石田さんはそう言って、今晩俺の泊まる部屋に案内してくれた。

「うわー!すごいっスね!オーシャンビューだ!ホテルみたい!」
そのゲストルームは8畳くらいの広さで、大きな窓から海が見えた。シングルベッドが一つあって、窓辺には簡単な応接セットがある。部屋の入り口にはユニットバスもあった。
「ここはシングルルームなんだよね。ツインの部屋もあるんだよ。さすがにダブルルームは無いけどね…。老人介護施設だしね。ハハ。」
石田さんは一人で言って一人でウケてるので、俺もつられて笑ってしまった。
「食事どうする?俺今から一度帰るけど、今晩当直だから一緒に食べようか?」
「この辺まだあまり詳しくないんで、そうしてもらえると助かります。」
「わかった。じゃ、夜また来るから。」
石田さんはそう言うと、俺に部屋の鍵を渡して出て行った。




「で、澄子さんの消息は何かわかったか?」
「名前だけでわかるわけねーよ!何か他に情報ないの?」
じーちゃんはニヤリとしてクローゼットを開けろと指差した。
「その箱を持ってきてくれ。」
箱を取り出すとけっこう重かった。
じーちゃんは蓋を開け写真を取り出した。大黒堂という看板を掲げた店の前で写した集合写真だった。
「真ん中の右の女の人が澄子さんだ。横の眼鏡をかけた恰幅のいいおじさんは、澄子さんのお父さん。で、後ろの左端がワシだ。」
大人しい可愛い感じの女の人が写っていた。
じーちゃんは意外にも若い頃はけっこうカッコいい。
「もしやと思って探してみたら、写真が見つかったんだ。写真を見ていたらいろいろ思い出したよ。澄子さんは、大黒堂という和菓子屋さんの娘さんなんだ。ワシは近所に住んでいたから、学生の頃、繁盛記に時々小遣い稼ぎに仕事をさせてもらっていたんだ。」
「この大黒堂って、まだあるの?」
「どうだろうな…。俺の田舎に行ったらまだあるかもしれないな。澄子さんのお兄さんが店を継いでるはずだからな。」
「大黒堂って、この街じゃないの?じゃ、何でじーちゃんここに来たんだよ?」
「澄子さんの嫁ぎ先がこの街のはずなんだ…。」
じーちゃんは目を瞑って眉間に皴を寄せた。
「あ、そゆことね。」

 ふと時計を見ると、すでに12時近くになっていた。その時ドアがノックされ、職員さんがじーちゃんを迎えに来た。これから食堂へ行くようだ。
「お前はどうする?一緒に食うか?」
職員さんもよかったら是非どうぞ、と薦めてくれた。
「いや、せっかくだから街探検に行ってくるよ。どこかで食べてくる。」
「そうか。気をつけてな。」
俺はまた自転車を借りて街へと向かった。



 自転車を走らせると少し冷たい秋風が顔にあたって気持ちよかった。あらかじめ宝探しのアプリで調べておいた座標に向かった。俺は港の方に狙いを定めた。
 この街のベイエリアは、昔外国との取引が多かったせいか、その当時に建てられた洋館がたくさん残っている。市はその街並みを生かして観光地にする計画を立て、洋館を当時の姿に戻す工事を行った。道路は街路樹を植え、新しく建つ建物も街並みに合うように建築基準を設けたおかげで、その一帯はまるで外国の街並みのようになった。土産屋やカフェやレストランもたくさんあり、週末は観光客で賑わっている。
 海沿いのオープンカフェを見ると、俺と同世代くらいの高校生らしきカップルがいて楽しそうに会話をしていた。ふと、旭も自我崩壊的秀才男とこんなところでデートでもしたいのかな?なんて想像すると、思わず笑いがこみ上げてきてしまった。いかん、いかん、一人で笑いながら自転車を漕ぐなんて変態の極みだ。顔を真顔に戻してもう一度座標を確認した。座標はどうも図書館のあたりを指している。
 この図書館は外国の古い図書館をそのまま移築してあって、中に入ると漆黒に輝く柱や床板が古き良き日の異国の空気を感じさせて、まるでタイムスリップしたような気持ちになる。宝は図書館の入り口の看板が立ってある植え込みのところに隠されてあった。





プラスチックの宝箱を開けて中を見ると、俺の心臓はドクンと大きな音を立てた。

中にはあの四つ葉のクローバーのキーホルダーが入っていた。
ノートにはまたこう書いてあった。

― 22th Sep 2018  Noel Mizuhara 
I made this clover key chain.
I hope you will like it. 

9月22日、ミズハラノエル。

今日だ!
もしかして、まだその辺にいるかも!

俺はドキドキしながら図書館の辺りを探し回った。
ミズハラノエルの顔も知らないのに。

 結局ミズハラノエルらしき人はわからず、俺は宝箱のあった看板のところに戻ってノートに記帳した。キーホルダーは、同じ物をまたもらうのも悪い気がしたので、次の発見者に譲ることにした。宝箱を元あった場所に移して、ボーッと目の前に広がる海を見ていたら、こちらを背にしてベンチに座る女の子がいるのに気が付いた。長い髪が海風に吹かれてキラキラしていた。あの子がミズハラノエルだったらいいのにな…と思った。しばらく見ていると、あの子はほんとにミズハラノエルなんじゃないか?と、根拠の無い確信さえ生れてきた。勘違いだったら恥ずかしいけど、このチャンスは逃がすべきじゃないと思って、話しかけようとしたその時、向こうからその子も彼氏らしき人がやって来て、二人はどこかへ行ってしまった。

俺はなんだか変な気持ちになった。
まるで告白もしてないのに振られたような気分だ。
女の子なんて面倒臭いと思っていたはずなのに…。

 この物悲しい気持ちを慰めるが如く、たまたま入ったラーメン屋がめちゃくちゃ旨かったので、落ち込んだ気持ちも少し浮かばれたような気がした。




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