約束

まんまるムーン

文字の大きさ
56 / 71

56

しおりを挟む


 爆発の衝撃で俺たちは気を失っていた。意識が戻って目を開けると、校舎の中庭側の壁は吹き飛び、レストランの中もめちゃくちゃになっていた。もし建物内の席に座っていたら、俺たちは死んでいたかもしれない。実際中に座っていた人たちは血を流して倒れている。あの時旭がテラスのこの席がいいと言ってくれて、俺たちは命拾いをしたようだ。
 ノエルは息をしていた。気を失っているだけだった。
 よかった。ノエルに何かあったら生きてられない。

「おい!大丈夫か?」
俺はみんなに声をかけた。
「…う…う~ん…。」
みんな気がついた。
たいした怪我も無さそうだったので安心した。

「…なんかすっげーリアルな夢見てた。乃海とノエルと…安藤先生が出てきた…。」
類が寝ぼけた声で言った。
「私も見たよっ!乃海が戦争で死ぬんだよね!ノエルも爆弾が落ちて…吹き飛ばされて…多分死んだよね…。安藤が…!」
旭はそう言いかけて安藤の方を見た。
安藤は頭を抱えて俯いていた。
「もしかして、みんな同じ夢見てた?」
俺が聞くと、皆は頷いた。
「ノエルが働いていた軍需工場みたいなとこ…多分ここだよね?校舎は建て変わってるし、ここから見える市街地もだいぶ変わってるけど、面影残ってる!絶対ここだと思う!」
旭が言った。
「あの夢、私たちの前世なんだと思う。」
ノエルが言った。
「うん。確かにそんな感じだった。」
旭がそう言った。

 その時、安藤が立ち上がってその場を離れた。俺たちのいる場所から離れたベンチに座って頭を抱え込んでいた。旭はそんな安藤をしばらく見てから、安藤のいるベンチへ行き、横に座った。
「俯瞰して見ないと、自分の行動がどうだったかって、意外と自分じゃわからないもんだよね…。」
旭はボーっと上を見上げて言った。
「俺は…俺はそんなに酷いやつだったのか…。」
安藤は頭を抱え込んだまま俯いて言った。

「安藤さー、パンダ見たことある?」
安藤は俯いたままだったが、旭はお構いなしに一人で話した。
「私さー、あるパンダファミリーの話読んで、人生観変わったんだけどさー。パンダって絶滅危惧種じゃん。だからとりあえず数を増やさなきゃいけないから、人工授精したり、産まれた貴重なパンダを死なせちゃいけないから人口保育をするのが普通だったんだって。でもね、そうやって育ったパンダって、子作りしなくなったり、子供が生まれても育児放棄したりするようになるらしいんだよ。だけど、和歌山のある動物園は、パンダに自分の子の育児をさせるようにしたんだって。そしてある程度大きくなるまでお母さんの愛情をたっぷり受けて育つようにしたの。そうやって育ったパンダは自然に子作りしたり、育児放棄もしないで子供を育てるようになるんだって。」
旭はパンダを思い浮かべながらウットリして言った。
「…何が言いたいの?」
安藤は旭を睨んで言った。

「世界が続いていく動力は…。」

旭は安藤の目をしっかり見た。

「愛なんだ!」

旭は自信に満ちて言った。

「…と、パンダから学んだ!」

安藤は呆れたように笑った。
旭も一緒になって笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...