約束

まんまるムーン

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「じーちゃん、この人は澄子さんのお孫さんだよ。」
じーちゃんは、ハっと我に返ったようで、涙を拭って笑顔を取り繕った。
「初めまして。水原ノエルです。」
「驚かせてすまないね。そうか、澄ちゃんのお孫さんか…。どうりで似てるはずだ!若い頃の澄ちゃんが現れたのかと思ったよ。」
じーちゃんは笑顔でノエルに言った。
ノエルもじーちゃんに微笑み返した。そしてノエルはじーちゃんに自分が告げなくてはいけない事を思い戸惑っていた。
「ノエル、俺から言おうか?」
ノエルに聞くと、ノエルは俺の目を見て頷いた。
「じーちゃん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど…、その…、澄子さんは、この間亡くなった。」
じーちゃんは表情を無くしていた。
「ごめん…。俺がもう少し早く探し出せていたら会えたかもしれないのに…。じーちゃん、ほんとにごめん!」
じーちゃんはしばらく動かなかった。
いや、動けなかったんだと思う。しばらくして、小さな声で呟いた。
「そうか…。」
俺もノエルも言葉を失っていた。
出来ることなら会わせてあげたかった。心残りを残したまま会えなくなるのって辛すぎる。俺はじーちゃんと澄子さんの事を思うと、涙が出そうになった。

「乃海、ノエルちゃん、ありがとうな。」
じーちゃんは笑顔で俺とノエルに言った。
俺はノエルから預かっていたカバンをベッドの上へ置いてノエルに目配せした。
「乃海君のおじいさん!私、祖母から預かっていた物があるんです。」
ノエルはバッグからラジオを取り出してじーちゃんに渡した。
「…このラジオは…!」
じーちゃんは、信じられないような顔でラジオを見た。
「祖母はこのラジオをとても大事にしていました。毎日磨いていて、時には嬉しそうだったり、時には悲しそうに、おばあちゃんはとにかくこのラジオをとても大切にしていたんです。私は小さい頃からそれを見ていて、このラジオはおばあちゃんにとって宝物なんだろうなって思ってたんです。まさか、こんな切ない思い出があるなんて、おばあちゃんから話を聞くまで知りませんでした。」
じーちゃんはラジオを膝に乗せたまま、大事そうに触れてじっとラジオを見つめていた。
「おばあちゃんは亡くなる前に、私に頼みがあるって言ったんです。おばあちゃんが亡くなった後、もしも和夫さんが訪ねてきたら、このラジオを渡して欲しいって。」
「…そうか…。澄ちゃんは、このラジオをずっと大事にしてくれていたんだな…。」
じーちゃんはラジオを見つめたまま俯いて言った。
「おばあちゃんは、亡くなるまでずっと乃海君のおじいさんの事を想っていました。おばあちゃんが生涯愛したのは、乃海君のおじいさんだけです。」
ノエルの目から涙がこぼれた。
「この手紙、このラジオの裏に付けてありました。きっと乃海君のおじいさん宛の手紙だと思います。」
ノエルは手紙をじーちゃんに渡した。
「ありがとう、ノエルちゃん。」
じーちゃんはノエルを見て笑顔でお礼を言った。

 そして俺は、えびす屋であったおばあさんから聞いた澄子さんの話をじーちゃんに話した。じーちゃんにはショッキングすぎる内容ではあったが、話しておかなければいけないと思った。じーちゃんは、澄子さんがあまりに過酷な人生を送った事を知り、衝撃を受けていた。生涯たった一人愛した女が自分の為に犠牲になり、まさか夫からそんな酷い仕打ちを受けていたなんて知ったら、気絶してもおかしくないよな…。俺は言うべきでは無かったんじゃないだろうかと、すでに後悔していた。しかし、じーちゃんは言った。
「乃海、ありがとう。さぞかし言いにくかったろ?でも、全てを聞けて、ワシは本当に良かったと思ってる。多分、澄ちゃんも、ワシに全てを打ち明けたかったはずだ。」
そう言うと、じーちゃんは窓の外をボーっと見た。
俺は、じーちゃんを一人にしてあげようと思った。ちょっと出かけてくるからと言って、部屋を出た。ドアを閉めると、じーちゃんの泣いている声が小さく聞こえた。


 廊下の窓からは、海に沈む真っ赤な夕日が見えた。何故だか今日は空と海がやけに赤く染まっているような気がした。俺はノエルの手を握って、真っ赤な空をずっと見ていた。

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