小料理 タヌキ屋 4

まんまるムーン

文字の大きさ
8 / 11

8

しおりを挟む



「ハァハァハァ…」

無我夢中で走った。沢井君が心配だった。涙で前が見えなくなってきた。

ドドドドドド………

突然けたたましい足音が後ろから聞こえてきた。すると横に巨大な人影が見えた。カスミに追いつかれたんだ。終わった。泣きながら横を見た。


 タ、タヌキ?????


私の横を大タヌキが並走していた!

また別の恐怖で私の顔は引きつった。

私は無我夢中で走った。どうやらタヌキを引き離せたようだ。

ドドドドドド…………

タヌキは怒りの形相で追い上げてきた! 

「ひぃぃぃー!」

私は泣きながら全速力で走った。

「負けへんで! こんなとこで、負けられへんのやぁ~!」

タヌキは訳の分からない事を叫びながら尻尾をブンブン振り回し加速してきた。

 何なの? このタヌキ!

私がタヌキを抜くと、タヌキは私を抜き返し、またさらに私がタヌキを抜くと、タヌキは「シャァァァァーーーーー!」と威嚇しながら私を抜きにかかってくる。

タヌキのえげつない闘争心に、私はいつの間にかカスミから逃げていることを忘れてしまっていた。

しかし、やがて私の体力も限界が来た。足がもつれて転び、その場にうずくまってしまった。

「私の圧倒的な勝利は揺るぎなきこと限りなしだけど、あなたもよくがんばったわ!」

優越感に浸りきったドヤ顔のタヌキは、地面にうずくまる私に手を差し出してきた。



見上げるとそこには大タヌキ。そのまたさらに上にはお月様。



いつの間にか、私は見たこともないような路地裏に迷い込んでいた。

路地裏には怪しげな赤い光を放つ提灯が無数に下げられていた。

「…ここ…どこ…?」

「ささ、どうぞ!」

タヌキは目の前の引き戸を開けた。



小料理 たぬき



店の前の小さな看板に、そう書いてあった。

「へぃらっしゃぁーーーーーぃ。」

突然ドスの利いた重低音が響いた。

「へぃらっしゃぁーーーーーぃ。おひとり様~カウンターへどうぞぉーーーーー!」

また別の声の重低音が轟いた。

何人もの店員さんから一斉に声をかけられているかと思いきや、周りを見回しても一緒に中に入ったこの大タヌキしかいない。

 タヌキの一人芝居なのか?

 でも何で…?

大タヌキは10人分くらいの声色を使い、一通り私への声かけを済ますと気が済んだのか、勝ち誇ったような顔をして悦に入っているようだった。そしてようやく私におしぼりとお茶と出してくれた。

 何だったんだ、あれは…。何かの儀式? もしかして仕事前のルーティン???

私は頭が混乱していた。ここはどこ? 何故私はこんな小料理屋にいるの? そしてこのタヌキは…

「あらっ! お嬢さん、そんなに見つめないで下さいな! 恥ずかしいじゃありませんか! そりゃまね、お気持ちはお察ししますよ。私はこの界隈じゃ、ちょっとした美人女将って評判だから…。」

タヌキ女将は勝手に勘違いして、クネックネッと体をよじり、恥ずかしがっている。

あっけにとられている私に、タヌキ女将は突然、さっきとは打って変わってギロリと睨んできた。

「で、お嬢さん、そろそろご注文受けたまわりましょうかっ?」

テメェ、注文しないつもりなんじゃねぇだろうな…とでも言わんばかりに、タヌキ女将は牙を剥きだして私を威嚇した。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...