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しおりを挟む「バー・きさらぎカクテル」
扉を開けると、中は賑わっていた。
朋美と絵梨は奥のテーブル席に案内された。
奥へ向かっていると、
「あれ? 朋美さん!」
カウンターに座っている人からいきなり声を掛けられた。
見ると横田だった。
横田はカウンターの一番端の席に一人で座っていた。
朋美に気付く前はずっとマスターと楽しそうに話していた。
「横田さん! 偶然ですね!」
―バイト休みと思ったら…ここで飲んでいたのね。
「偶然…重なりますね! もはやこれは…必然と言った方がいいのでは?」
横田はニヤリと笑った。
「何言ってんですか!」
朋美はクスっと笑った。
「今日はお友達と一緒ですか?」
「えぇ、そうなの。幼馴染なんです。」
朋美がそう言うと、後ろで絵梨が横田に軽く会釈した。
「凄いなぁ~。美人の友達はやっぱり美人なんだ~。」
「お褒めいただき光栄です!」
朋美も少し酔っぱらっていて、ふざけるようなノリで言った。
「僕もこんないかついマスターと男同士で話すより、そっちに合流したいなぁ~。」
横田がそう言うとマスターが「おいっ!」と冗談めいて横田を威嚇した。
「せっかくの女子会をお邪魔したら悪いので…こっちで大人しく飲んでます…。」
横田は肩をすくめて言った。
「フフフ…そうよ! 大人しくしといて下さいよ!」
朋美は笑いながらそう言うと、絵梨と奥のテーブル席へ行った。
「モッコさん! お水どうぞ!」
輝也はモッコを後部座席に乗せると自販機で冷たい水を買ってきてモッコに渡した。
またもや眠っていたモッコは冷たい水を飲んで正気に戻った。
「…ご、ごめんなさい…。私ったら!」
モッコは恥ずかしそうに手で顔を覆った。
「ほんといい加減にしてよね! いい年してこんなに酔っぱらうなんて恥ずかしいったらありゃしない!」
沙也加は皮肉たっぶりに言った。
「おい! そんな言い方ないだろ!」
輝也は沙也加を戒めた。
「私はモッコの為を思って言ってるのよ! 一緒にいたのが私たちだったからいいものの、他の人だったら大変よ! それにモッコ、輝也におんぶされてる時、この人の背中にヨダレ垂らしてたわよ!」
「えぇぇぇぇ! 嘘でしょ! わぁ~私ったら! 輝也さん、本当にごめんなさい! クリーニング代払います!」
モッコは泣きべそをかいた。
「いいんですよ! 全然気にしないで! そんな事より大丈夫ですか?」
輝也は優しく言った。
「何よ、あんた! 自分の嫁には意地悪いくせに、他人にはいい顔するんだから…。」
沙也加は輝也をギロリと睨んだ。
「ゆっくり運転しますね! 気持ち悪くなったら言って下さいね!」
輝也は文句タラタラの妻を無視して車を走らせた。
三人を乗せた車はきさらぎガーデンヒルズ駅から真っすぐ伸びる並木道を走って行った。
「モッコの家って、きさらぎヶ丘1丁目って言ってたよね?」
沙也加が聞いた。
「うん。そこの信号左に曲がってもらえる?」
モッコは答えた。
「この辺って…やっぱりセレブな雰囲気漂ってるよね…。うちの近所とは違うわ。」
沙也加が辺りをマジマジと見ながら言った。
「そうなのかな…。うちは普通だけどね…。私なんかいつも節約してるわよ! 庭で野菜とか作って食費浮かしたりしてるし…。」
「モッコさん、さすがだな! 僕も野菜作ってみようかな、ベランダで。」
「やめときなって。どうせ枯らすだけだって!」
浮かれる輝也に沙也加が水を差した。
「あ! ここ、朋美の家よ!」
モッコは指をさした。
「…ここが…朋美の…家…」
それまでうるさい程話をしていた沙也加が無言でじっと眺めていた。
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