九条真の事件簿「謎めいた遺言」

たくの

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九条誠の事件簿 第一章「謎めいた遺言」

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名探偵・九条真の事務所は、都会の片隅にひっそりと佇んでいる。小さな木製の看板には「九条探偵事務所」とだけ書かれ、派手さは一切ない。しかし、その看板を目にした人々は口を揃えてこう言う。

「あそこに行けば、どんな謎でも解けるらしい。ただし、説明がわかりづらいけどね」

ある雨の日、一人の女性が訪ねてきた。華奢な体を包む黒いコートは雨に濡れ、肩からは小さなバッグがかかっている。彼女の名前は浅倉美咲(あさくら みさき)。30代半ばの彼女は、名家・浅倉家の末娘だった。

「九条先生、助けてください」
彼女は深々と頭を下げた。

九条は小さく頷き、いつものようにコーヒーを入れ始める。
「お話を伺う前に、まず一杯いかがですか? 思考を巡らせるにはカフェインが重要ですから」
「え、でも急いでいるんです……!」
「急いでいても、良い解決策を導き出すには心の余裕が必要です」

九条のマイペースさに戸惑いながらも、美咲は仕方なくコーヒーを受け取った。

「実は、父が先日亡くなりまして……」
「ふむ。それはお辛いことでしたね」
「ええ。でも問題は遺産のことなんです。父が残した遺言状に『一番大切な人にすべてを譲る』としか書かれていなくて」

九条は興味深げに頷く。
「なるほど。一見、シンプルな遺言に見えますが、実は非常に曖昧ですね。その曖昧さが、人間関係を複雑にする」

「そうなんです! 兄は『自分が長男だから当然だ』と言い張るし、私は父と最後まで一緒にいたから私だと思うし……」
美咲は困り果てた表情を浮かべる。

九条はコーヒーを一口飲み、立ち上がった。
「では早速、現場を見に行きましょう」
「現場って、父の書斎ですか?」
「ええ。謎を解くには、まず現場を知ることが大切です。それと、途中でどこかに寄り道してもいいですか?」
「寄り道!? 何のためにですか?」
「おいしいケーキ屋を見つけたんですよ。甘いものを食べると、推理が捗るんです」

そう言って無邪気に微笑む九条に、美咲は早くも不安を覚えた。果たしてこの名探偵に任せて大丈夫なのだろうか――?

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