記憶の破片

たくの

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第三章: 闇の中の光

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森の中を再び歩きながら、私は何度もあの草原での出来事を思い返していた。黒崎の言葉――「記憶を取り戻すことが、必ずしも幸せを意味するわけではない」という冷たく響くその言葉が、今も心に引っかかっていた。それでも、私は自分の記憶を取り戻したい。たとえそれがどんな痛みを伴うものであっても、自分がなぜ記憶を失ったのか、何を隠しているのかを知る必要がある。

木々のざわめきの中を歩いていると、不意にポケットの中で携帯が振動した。画面を見ると、優斗からのメッセージだった。

「美咲、元気?最近どう?何か思い出した?」

彼の優しいメッセージが心に沁みた。優斗は、私の記憶喪失に関していつも気遣ってくれている。彼がいなければ、私は今よりもずっと孤独だっただろう。けれど、彼もまた何かを隠している気がしてならない。彼が真実を知っているかもしれないという疑念は、私の心を重くしていた。

「まだ何も思い出せてないけど、もう少しで何か分かる気がする。ありがとう、優斗。」

メッセージを送信し、携帯をポケットに戻す。少しだけ気が軽くなった。優斗の存在が、私の心の中に灯りをともしてくれているような気がした。

再び草原にたどり着くと、昨日と変わらない風景が広がっていた。古びたベンチと、広がる草原。そして、遠くにそびえる木々。まるで時間が止まっているかのように、静けさが支配していた。

私はスケッチブックを取り出し、昨日描いた風景を見つめた。この場所には確かに何かが隠されている。それが何であれ、私はそれを見つけなければならない。私はベンチに座り、目を閉じて深呼吸をした。

「何か……思い出せる?」

自分に問いかけてみる。けれど、頭の中には相変わらず霧がかかったように何も見えてこない。ただ、この場所にいることが正しいという確信だけが私を突き動かしていた。

すると、どこからともなく、風に乗って声が聞こえたような気がした。

「美咲……」

その声はかすかで、聞き間違いかと思った。私は辺りを見回したが、誰もいない。草が風に揺れるだけで、他には何の気配も感じられない。それでも、確かに私を呼ぶ声が聞こえた。夢の中で聞いたのと同じ、あの声だ。

私は立ち上がり、声の聞こえた方向に向かって歩き出した。声はすぐに消えてしまったけれど、その残響が私を導いている気がした。

木々の奥へと進むと、突然足元に何かが引っかかった。何かに覆われた感触がして、私は立ち止まった。足元を見下ろすと、土の中に埋もれた何かが見える。

「これは……?」

私は膝をついて、それを慎重に掘り起こしてみた。土をかき分けると、出てきたのは古びた箱。鍵がかかっていない小さな木箱だ。埃まみれで、どれくらい長い間ここにあったのか見当もつかない。

「どうしてこんなところに……」

私は箱を抱え、ベンチの方へ戻ると、ゆっくりと蓋を開けた。中には、何枚かの写真と、一通の手紙が入っていた。手紙には私の名前が書かれている。手紙を手に取り、その内容を読み始めた。

「美咲へ。これを読んでいるということは、君はもう覚悟を決めたのだろう。君の記憶が消えたのは偶然ではない。君は、自らそれを選んだんだ。なぜなら、君が知ってしまったある事実が、君自身を破壊しかけたからだ。その真実は、君の中にまだ眠っている。私たちが隠したもの、君が見たくなかったもの。もしこの手紙を読んでいるなら、その記憶に再び触れる覚悟を持ってくれ。そうでなければ、この先には進めない。」

私は手紙を読んだまま、しばらく呆然としていた。自分で記憶を消した? 何か重大な事実を知ってしまい、それを忘れたかったのだろうか? でも、その「事実」とは一体何なのだろう? 心の奥に隠された、何か恐ろしいものがあるというのか?

次に写真を手に取ると、そこには私と優斗が並んで写っていた。どこかで撮られた風景――それは、今座っているこの草原の一部だ。優斗が私の肩に手を回して笑っている。その笑顔は、いつも通り優しく、懐かしい。

しかし、その次の写真には何かが写っていた。私は思わず息を飲んだ。そこには、私ともう一人の男性が写っていたのだ。

「……この人は?」

記憶の中には全くない顔。しかし、どこかで見たような気がする。顔ははっきりとしないが、その佇まいと表情に、どこかしらの既視感があった。彼は優斗とも、家族とも異なる――そして、その手紙に出てくる「真実」と何か関係があるのかもしれない。

手紙の最後の部分に目を向けると、さらに驚くべきことが書かれていた。

「その男のことを思い出してはならない。彼は君の人生にとって危険だ。だが、もしも記憶が戻ったなら、彼を再び目にすることになるだろう。」

胸が締めつけられるような感覚がした。この男が私の記憶の中で何を意味しているのかはわからないが、何か重大な秘密を握っていることは確かだ。彼が「危険」という言葉が脳裏にこびりつく。

私は写真をそっと箱に戻し、深く息を吐いた。この場所で、何が起こったのか。この男が何を象徴しているのか、知りたくないような、でも知るべきことのような、そんな複雑な気持ちが交錯している。

夜が訪れ、私は再び家に戻った。箱の中の写真と手紙が、私の心の中で渦を巻いている。どうして私はこの場所で、何を知ってしまったのだろうか? あの写真の男は誰なのか? そして、優斗や家族はこのことを知っているのか?

私はもう一度、優斗にメッセージを送ろうとしたが、指が止まった。彼にこのことを話すべきなのだろうか? もし彼も何かを知っていたなら、それを私に隠していたのだとしたら――?

その夜、眠りに落ちる直前、再び夢がやってきた。

私はあの草原に立っていた。目の前には黒い影が立ちはだかり、再び私に囁いていた。

「美咲……思い出してはいけない。」

影の声は深く、どこか切迫している。けれど、私はその声を拒むように首を振った。

「いいえ、私は知りたい。すべてを。」

私はその言葉を強く放つと、目が覚めた。朝の光が差し込む部屋で、私は決意を固めた。もう後戻りはできない。私はすべての真実を知るために、前に進まなければならないのだ。
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