恩返しにきた鶴……じゃなくて君

仁星まる

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1.あのとき助けていただいた鶴です

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 ああ、昔話にあったな。
 罠にかかった鶴だか鳩だかを助けたら、後日恩返しにやってきた話。


「あのとき助けていただいた鶴です」


 ドアの目の前には超絶美形なお兄さんがキラキラしたオーラを振りまいて、そんな昔話の一節のようなことを言い出した。


「え、つるなの?」

「い、いや、人間で間違いないです。すみません、ややこしくて。隣に越してきた鶴蒼介つる そうすけっていいます。引っ越しの際に車のタイヤが溝に嵌まったところを助けていただいた……」


 鶴は名字だったのか。と少しホッとしつつ。そういえば立ち往生していた車を通りがかりの数人で手助けしたな、と数日前の記憶が蘇ってきた。

 あの時は、運転席に乗っていた彼をよく見ずに、よかったね、はやく行きなよとかなんとか言って見送った。こんなに美形だったのか。むしろ、平凡な俺の顔を忘れもせずによく覚えていたものだと感心する。


「あ、あの時お礼をしなければと思っていたのですが、後続車もつまっていてろくにお礼も言えないまま車を出してしまったので心残りで。そしたら引っ越し先のお隣さんがあの時助けていただいた方だって気づいて。どうしてもお礼がいいたくて……!でも、思ってみたら気持ち悪いですよね、いきなり……」


 早口で捲し立てる超絶美形な鶴さんを目の保養とばかりにじっくりと眺めてしまう。美形=傲慢、高飛車、怖いと思い込んでいたが、鶴さんには何故か親しみやすさを感じてしまう。

「あ、あの……」

「あ、ああ、すみません。気持ち悪いだなんて思ってないですよ。ご丁寧にありがとうございました。俺は、眞知諒太まち りょうたっていいます。お隣さんとして宜しくお願いします」

「眞知……さん……」

 ぽわんとした顔で俺を見つめる鶴さん。その顔は整いすぎているのに、どことなく実家の愛犬ジャスティスを連想させた。ジャスティスは豆柴で散歩すると側溝に落ちるような抜けたところのある可愛い奴だ。思い出したら実家に帰りたくなってしまった。ジャスを撫で回したい。


「よよ、よかったら、お礼に食事をご馳走させていただけませんかっ!一緒にランチでもっ……」

「え?そんな、悪いですよ。大したことしてないのに」

「い、いえ!本当に助かったんです。助けていただいた他の方にもお礼が言いたいくらいですが、所在がわかるのは眞知さんだけなので、代表として是非ともお礼を!」


 鶴さんの勢いにちょっと後ずさるが、きっと、お礼をしなければ鶴さんはずっと気にするんだろうなと思い、厚意に甘えることにした。


「じゃあ、近所に美味しい定食屋があるんですが、どうですか?」

「わぁ!近所のお店を開拓したかったから嬉しいです。是非お願いします」


 満面の笑みで喜ばれ、鶴さんとランチをすることになった。
 アパートから徒歩5分。庶民の味方、味よし、値段よしの定食屋『みよし』は年期を感じはするが、老夫婦が営む家庭的な店だ。

「いらっしゃい。眞知くん、今日はべっぴんさん連れてるねぇ」

「うん、恩返しなんだって」

「そうかいそうかい!よくわかんないけど、今日の日替わりは唐揚げだよ!」


 席に案内されて、水が二つ置かれる。そのうちの一つを鶴さんの前に置くと、恐縮したようにぺこりと頭を下げられた。まあ、初めての場所は誰でも緊張するか。さっき知り合ったばかりの人間と二人だしな。


「ここはメニュー、どれも美味しいですよ。俺週の半分はお世話になってます」

「そっ、そうなんですね。眞知さんの、おすすめは……」

「俺?うーん、いつも日替わりばっか頼んでるだけど、今日の日替わりの唐揚げは肉汁やばいですよ」

「じゃ、じゃあ、それ、食べてみたいです」


 二人とも日替わり定食を頼んだ。日替わり定食は、メインに大盛りのご飯と味噌汁、小鉢がついてボリューム満点、それなのに600円と良心的だ。鶴さんはもっと頼んでくださいと別メニューも勧めてくれたが、定食が来たらわかるだろう。


「わぁーー!お、大盛りですね」

「ね?」


 こんもりと盛られた千切りキャベツと、拳くらいある大きな唐揚げ。大盛りご飯。多分おかみさんのサービスも入っているんだろうけど、そのボリュームに鶴さんは目を輝かせた。


「にくじゅうぅぅぅ」

「ははっ、美味しいでしょう?俺も、ここの唐揚げが一番好き」

「はぅっ………!!」


 変な声を上げた鶴さんは、何故か真っ赤な顔になりながら、唐揚げを噛みしめている。美人なのに頬いっぱいに頬張る姿は、やっぱりジャスティスを彷彿させる。

 あいつ、食いしん坊だったもんな。


 お互いにお腹を満たして、定食屋を後にした。

「ごちそうさまでした」

「いえいえ!こちらこそ、美味しい定食屋さんを紹介していただいて。あの味にボリューム、最高でした!僕も常連になりそうです」


 それじゃあ、また定食屋で行き会うかもしれないな、と思うとなぜだかこそばゆい気持ちになった。

 頬を膨らませて、定食をかき込む鶴さんを、また見たい。それはきっと、可愛いんだろうな、と頭をよぎったところで打ち消した。

 自分の悪い癖だ。


「では、また。今後ともよろしくお願いします。眞知さん」

「こちらこそ。今日はありがとうございました」


 互いに部屋の前で別れの挨拶を交わした。

 お隣同士で、性別は男。
 顔見知りで、会えば挨拶をして、なじみの定食屋で顔を合わせれば会釈する程度の距離が丁度いい。


 ドアを閉めれば、もう途切れる。


 そっとドアノブに手を掛けると、


「ま、待ってください!」


 真っ赤な顔をした鶴さんに呼び止められた。


「好きです!ぼぼぼぼ僕と、お付き合いしていただけませんか!!」


 そう唐突に告げられたのであった。



 
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