恩返しにきた鶴……じゃなくて君

仁星まる

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2.悩んで、悩んだ結果

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 あれ?
 昔話もこんな感じだっけ?

 鶴だか鳩だかが人間に化けて、告白されて、夫婦になったんだっけ?

 うろ覚えのその話をおぼろげに思い出しながら。

 目の前にある、メッセージアプリのIDが書かれた紙をじっとみつめていた。



 真っ暗なスマホの画面に映る自分の顔は平凡そのもので。
 しなびかけたサラリーマンで。
 決して、超絶美形な青年に好意を抱いて貰える人物ではないはずだ。

 告白して、IDが書かれた紙を押しつけて、あっという間に隣の部屋に逃げるように消えていった。

 恩返しにきた鶴……じゃなく、鶴さん。


 まるで嵐のような出来事に、しばらく放心状態だった。



 異性の恋人は出来たことがない。
 俺の恋愛対象は『男』だ。

 魅力的な同性を見ると、つい癖でそういう目で見てしまう。
 ノンケからしてみればかなり気持ち悪いだろうから、態度には出したことはない。

 実際は、自分と同じような、そんな相手を探して。
 平凡同士、普通に付き合って。
 最後には、「面白みがない」と振られる。

 そうだよな、自分でも普通すぎると思っているから納得だ。
 だからこそ、この状況がわからない。


 いや、鶴さん、超絶美形だし、中身は可愛らしいし、いいな、と思ったことは白状しよう。でも、それは、自分とどうこうなって欲しいという欲望ではなく、たとえば、格好いいモデルを見て一般人が、いいな、と思うような感覚と似たようなものであって。

 決して邪な気持ちを持っていたわけじゃ……。

 なのに、好きだと、付き合って欲しいと言われてしまった。

 青天の霹靂だ。


 イケメン星の最上級な女王様にいきなり交際を申し込まれる平凡なただの村人Aの気持ちだ。みんなが「え?」と首を傾げ、女王様のご乱心に皆が心配して、医者やらお偉い様方が殺到する。そのとき、村人Aはどんな顔をしているのだろうか。


 暗いスマホの画面に映る俺は、チベットスナギツネのように、スンとした表情だった。

 現実逃避。

 無の境地。

 思考回路は爆発寸前。


「…………どうしよう」



 三十路のおっさんの空しい声が、一人暮らしのわびしい部屋に響いただけだった。



 ◆◆◆


 悩んで。
 悩んで、悩んだ結果。

 ドラッグストアでボディクリームやら美容液やらを物色していた。

 結局、毎日顔に貼るだけ美容パックと、良い香りのボディクリームを購入。とぼとぼとアパートに帰り、半身浴をしたところでハッとした。

 なにやってるんだ自分。

 自分磨きを今更頑張ったからって、あの超絶美形と並べるわけがない。
 ちょっとでもおじさんくささを改善したいとか。
 平凡な顔をよく見せたいとか。

 なにやってるんだ。


 慌てて風呂を出て。
 スマホを手に取った。


「…………うーん」


 お付き合いとか。
 好きだとか。

 わからない。


『わんっ!!!』

 実家の愛犬、ジャスティスが決め顔で吠える姿が浮かんだ。


「……送信……」





『眞知です。とりあえず、お試しで、いかがでしょうか』





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