恩返しにきた鶴……じゃなくて君

仁星まる

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3.今度、よかったら食べに来ませんか?

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『おはようございます。今日は午後から雨が降る予報です』


 朝一番に、今日のお天気がメッセージアプリへ送られてきた。
 これはアプリの通知機能ではない。

 お試しのお付き合いが始まった鶴さんからの、おはようメールなのである。
 几帳面に毎朝送られてくるそれが日常化しつつある今日この頃。


『おはようございます。ありがとうございます。傘、持って行きます』

 少しドキドキしながら、返信を送った。


 鶴さんからの突然の告白の後、俺は『お試し』なんて超失礼などこから目線なんだバカ野郎なお返事をしたのにも関わらず。
 鶴さんからは速攻で、

『よろしくお願いしませ』

 という誤字交じりの返信が届いた。


 メッセージアプリでやりとりを始めて。
 時間が合えば定食屋でご飯を一緒に食べるという清いお付き合いが始まった。


「ゆ、夢みたいですっ。絶対に引かれたと思ったので」

「いや、俺も、その、まだ現実味がないっていうか、俺みたいな地味で平凡な奴で、鶴さんはいいのかな、とか、色々混乱中で」

「いい、いいに決まってるじゃないですか!!!僕、頑張ります。眞知さんに好きになって貰えるように!!!」


 と、顔を合わせた時に言われ。
 夢じゃなかったんだな、と、噛みしめるように実感した。


 鶴さんからは、朝、昼、夕、寝る前と、まるで一日4回の内服薬みたいにメッセージが送られてくる。

 朝はお天気から始まって、昼は時事問題。『お米の値段が50円値上りしました』なんて、どこの主婦だという情報が送られてくる。夕はその日の食事の話題になり、寝る前は『おやすみなさい』と羊のスタンプ付き。そうして一日が終了する。


 そのひとつひとつのやり取りに、心がふわふわとした妙な心地になる。
 気が付いたら口元が緩んでいて、三十路のおっさんが何してるんだと我に返ることもしばしば。

 今日も夕方の、『今日の夕食です』という題と共に、手料理だと思われるおかずの写真が送られてきた。鶴さんは料理もできるらしい。

 俺のテーブルには、しなびたレタスをちぎっただけのサラダと、インスタントラーメン具なしが並べられている。こんなの送れるわけもなく、『おいしそうですね』とだけ打ち込んだ。

 いつもは照れたような顔をしたクマのスタンプが送られてくるが、今日は違った。


『その、今度、よかったら食べに来ませんか?』


 一歩踏み込んだお誘いだった。



 ◆◆◆


 お付き合いしている相手の部屋にお呼ばれしたとき。
 手土産は何を持っていけばいいんだろうか。

【恋人 手土産 おすすめ】なんてキーワードで検索しようとして、恋人の文字にあわわとし、そのままスマホを落としてしまった。

 鶴さんの部屋に行く。
 手作りのご飯を食べに行く。

 それだけなのに、こんなに動揺している。
 眠れない夜をいくつか過ごし、当日になってしまった。

 結局は、無難にコンビニの新作スイーツを購入し手土産にした。お隣のインターフォンを押すと、すぐに扉が勢いよく開く。


「いいいい、いらっしゃいませ!!」


 どこぞの居酒屋よりも元気な挨拶で出迎えられた。
 
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