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ダンスパーティへの誘い
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「まったく……兄に相手にされないからと言って、今度は私に粉をかけてくるとは、貴女の厚顔無恥さもここまでくれば表彰ものですね。兄が貴女を冷たくあしらうのも、全てはこれまでの貴女の所業にあります。ここ三ヶ月で多少マトモになった演技をしているようですが、私は騙されませんよ」
「今はそんな話はしていないのですが……」
コークスのひねくれ具合も相当なものだ。
例えそうだったとしても、婚約者が同伴すべき夜会のエスコートもせずにオパールとの逢瀬を優先したり、王宮で真の婚約者である私とすれ違っても軽く礼を取るのみでそそくさと恋人のいる訓練場へ行くのは違うと思うけど。
そして何より。
真性の同性愛に目覚めてしまった婚約者に対して、いくら私一人が努力して完璧になったとしても振り向かせる事など出来はしないのだ。
自分が変わるならまだしも、他人も自分の都合よく変える事は出来ない。もしそんな事をすれば、必ず違う所に歪みが生まれてしまう。
それなのに、アダマスが私に興味がないのは“全て私の努力不足のせい”と言われ続けるのはどうにも我慢ならない。
「卿は、あくまで私に100%の過失があると思われているようですね」
「はっ?! 当然です。兄に落ち度は一切ありません。貴女様が一点の隙もない淑女であれば、兄は貴女に尽くし本妻として敬うでしょうが。残念ながら貴女にその器はないようです」
どこか恍惚とした様子で、いかに自分の兄が素晴らしいのかと説いてくるコークスは、まるでそれに縋ることで無理やり自己を確立させているようにも見えてなんだかとても息苦しそうだ。
もはや、ここまでくると怒りよりも哀れみが湧いてくる。
「本当にそうでしょうか。アダマス様は確かに高潔なお方ですが、卿は彼を神格化し過ぎているのでは?」
逆上されるのは恐ろしいが、流石に王族に直接手をあげるほど愚かではないだろう。
しかし、射殺さんばかりにこちらを睨め付けてくるコークスの氷河の瞳は燃えるような怒りを宿し、その様子は死を感じさせる程度には恐ろしい。
「いくら王族とはいえ、兄を……由緒あるジルコニア公爵家を貶めるような発言は看過できません。王族が高位貴族に明確な根拠もなく干渉する事が、どれほど危険で恐ろしい事か貴女はわかっていない」
「アダマス様が私に興味を持てないのは、決して私だけのせいではありません。──卿が望むのであれば、証明もできます」
私のこの発言を聞いたコークスは怒りよりも好奇心が勝ったような、一瞬にして興味を惹かれた顔をした。
「ほう……それは大変興味深い。ぜひ、私にもガーネット姫がおっしゃる意味を理解させて頂けると助かります」
(ついに来るべき時がきた!)
私は心の中で快哉を叫ぶ。
「わかりました。三日後の晩に、私の叔母様の降嫁先であるオブシディアン公爵家が主催するダンスパーティがあるのをご存知かしら」
「ええ……騎士のパレードの後に催されている夜会ですね。高位貴族のみ呼ばれる夜会であり、本来私などは招待されない高貴な催しですが」
その日は王宮開放日であり、昼間は市井の街を騎士が練り歩き盛大なパレードが開催され、夜は高位貴族のみが集まる夜会が催される。
一度でも教会送りとなった子息は、例え公爵家の正当な血筋であろうと高位貴族の当主のみが集う“裏の社交界”からは締め出されてしまう。
「アダマスも、弟であるデマントイドも公務で来られないということで、私のエスコート役がいつもおらず出席を見送っていましたが、将来の義弟として卿がエスコート役を務めて下さるのであれば問題ありません。夜に私達が二人でいても誰も咎めませんし、婚約者がいる身でありながら殿方と二人きりで歩いているという醜聞もつく事なく、卿の名誉にも傷はつかないでしょう。そのダンスパーティの後に、私の変化の理由をご覧いただきます」
「……いいでしょう、わかりました。では、三日後にお迎えにあがります」
私のあまりの真剣な様子に、いつもであれば嫌みの二、三個返してくるコークスはと歯切れ悪くそう言い、その日は解散となったのだった。
「今はそんな話はしていないのですが……」
コークスのひねくれ具合も相当なものだ。
例えそうだったとしても、婚約者が同伴すべき夜会のエスコートもせずにオパールとの逢瀬を優先したり、王宮で真の婚約者である私とすれ違っても軽く礼を取るのみでそそくさと恋人のいる訓練場へ行くのは違うと思うけど。
そして何より。
真性の同性愛に目覚めてしまった婚約者に対して、いくら私一人が努力して完璧になったとしても振り向かせる事など出来はしないのだ。
自分が変わるならまだしも、他人も自分の都合よく変える事は出来ない。もしそんな事をすれば、必ず違う所に歪みが生まれてしまう。
それなのに、アダマスが私に興味がないのは“全て私の努力不足のせい”と言われ続けるのはどうにも我慢ならない。
「卿は、あくまで私に100%の過失があると思われているようですね」
「はっ?! 当然です。兄に落ち度は一切ありません。貴女様が一点の隙もない淑女であれば、兄は貴女に尽くし本妻として敬うでしょうが。残念ながら貴女にその器はないようです」
どこか恍惚とした様子で、いかに自分の兄が素晴らしいのかと説いてくるコークスは、まるでそれに縋ることで無理やり自己を確立させているようにも見えてなんだかとても息苦しそうだ。
もはや、ここまでくると怒りよりも哀れみが湧いてくる。
「本当にそうでしょうか。アダマス様は確かに高潔なお方ですが、卿は彼を神格化し過ぎているのでは?」
逆上されるのは恐ろしいが、流石に王族に直接手をあげるほど愚かではないだろう。
しかし、射殺さんばかりにこちらを睨め付けてくるコークスの氷河の瞳は燃えるような怒りを宿し、その様子は死を感じさせる程度には恐ろしい。
「いくら王族とはいえ、兄を……由緒あるジルコニア公爵家を貶めるような発言は看過できません。王族が高位貴族に明確な根拠もなく干渉する事が、どれほど危険で恐ろしい事か貴女はわかっていない」
「アダマス様が私に興味を持てないのは、決して私だけのせいではありません。──卿が望むのであれば、証明もできます」
私のこの発言を聞いたコークスは怒りよりも好奇心が勝ったような、一瞬にして興味を惹かれた顔をした。
「ほう……それは大変興味深い。ぜひ、私にもガーネット姫がおっしゃる意味を理解させて頂けると助かります」
(ついに来るべき時がきた!)
私は心の中で快哉を叫ぶ。
「わかりました。三日後の晩に、私の叔母様の降嫁先であるオブシディアン公爵家が主催するダンスパーティがあるのをご存知かしら」
「ええ……騎士のパレードの後に催されている夜会ですね。高位貴族のみ呼ばれる夜会であり、本来私などは招待されない高貴な催しですが」
その日は王宮開放日であり、昼間は市井の街を騎士が練り歩き盛大なパレードが開催され、夜は高位貴族のみが集まる夜会が催される。
一度でも教会送りとなった子息は、例え公爵家の正当な血筋であろうと高位貴族の当主のみが集う“裏の社交界”からは締め出されてしまう。
「アダマスも、弟であるデマントイドも公務で来られないということで、私のエスコート役がいつもおらず出席を見送っていましたが、将来の義弟として卿がエスコート役を務めて下さるのであれば問題ありません。夜に私達が二人でいても誰も咎めませんし、婚約者がいる身でありながら殿方と二人きりで歩いているという醜聞もつく事なく、卿の名誉にも傷はつかないでしょう。そのダンスパーティの後に、私の変化の理由をご覧いただきます」
「……いいでしょう、わかりました。では、三日後にお迎えにあがります」
私のあまりの真剣な様子に、いつもであれば嫌みの二、三個返してくるコークスはと歯切れ悪くそう言い、その日は解散となったのだった。
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