ミスリード役のワガママ小物王女は、ひねくれた不憫系ラスボスを懐柔したい

いずみ

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ぶった斬り

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(それにしても、ものすごい量の帳簿の数ね……)

 帳簿名を覗けば王宮の経理はもちろん、ジルコニア領の税収と農作物の収穫量が記載されたもの、各騎士団の出兵記録や経費などの帳簿が山ほど積んであり、中には平民から寄せられた嘆願書の類まである。

(まさか、ここ数年でお父様が"平民の声を取り入れてくれる賢王"として知られるようになってきたのってコークスのおかげ……? いや、そんなバカな)

 それにしても、とてもではないが一人で抱え切れる書類の量ではない。そう思い至った時に、ふとコークスの目の周りに酷いクマがあることに気がついた。
 眼鏡で気付かない……というか、レンズ越しで見る顔色と覗き込んでようやく見える距離でレンズの向こうの顔色が全く違う事に気付いた。これではコークスがどんなに体調不良だろうといくら寝不足だろうと、誰も気づくことは無いだろう。

(は……? まさか、わざわざ認識阻害の眼鏡を掛けているの? それに、この匂い……)

 爽やかなフレグランスの匂いに混じって、コークスの口元からどこか甘ったるい匂いがしている。病弱だったお母様からよくこの匂いがしていたので、私はこの匂いを知っている。これは、強力な気付薬だ。

「間の抜けた顔をして私を見て、一体何を企んでいるんです?」

 形のいい眉根を寄せ心底不快そうに私を見るコークスの瞳には、蔑みすら滲んでいる。

「まぁ、企むだなんて。卿の素晴らしい御尊顔を至近距離から拝んでいたんですの。大変に眼福ですわ」
「──ッ、! なっ、そ、そんなはしたない事を、よくも……」

 私の予想外の返しに珍しく動揺しているのか、コークスの口は開いたり閉じたりを繰り返している。

「まぁ、それは冗談として……卿のその目の周りのクマと薬品の匂いの方が気がかりです」
「ああ……市井に私が贔屓にしてる道具屋がありましてね。体に影響が出ない程度に使っているだけです」
「少し仕事量が多過ぎなのでは? 騎士専属の文官もいるでしょうし、ジルコニア家の領地帳簿の確認や最終的な見直しなどは当主であるアダマス様の公務なのでは」
「余計な口を挟まないでいただきたい」

 コークスはまだ話の途中だった私の言葉を遮り、バッサリとぶった斬った。
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