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第1章 2年時 ーショーン編ー
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その後、1組の担任であるミネルバ先生にこってり絞られて、大広間を掃除させられる罰則をみんなで受けた。ウォルターは終始ショーンを睨んでいたが、その日は何もしてこなかった。
そして、翌日には、いじめなんて絶対できない立場に追い込まれてしまった。
翌日の魔法学園新聞の一面を、『ウォルター・コールマン、立ち上げるコーヒーデー』という記事が飾った。そこには大広間でハロルドとノエルが語ったような筋書きが脚色満点で載せられていた。
曰く、ウォルター・コールマンは魔法学園の排他的な風習に異議を唱えるため、みんなでコーヒーを浴びるコーヒーデーを考案した、と。
大広間に降り注いだ茶色の液体は薄めたコーヒーだったらしい。紅茶が主流のルクレツェンの貴族間では珍しい飲み物だ。
記事はウォルター・コールマンを称える内容となっており、大変好意的だ。かねてより学園の排他的な傾向の改善を狙っていたミネルバ先生を筆頭とする教員たちも、『やり方はともかく、思考はすばらしい。』とウォルターをほめた。
あげく、話は王城まで広がり、第一王女様が国民に向けてこの話をもとに貴族の差別思想の改善を訴える声明をだした。
もし、ウォルターがショーンを今後いじめようものなら…、周囲のすべてがウォルターを非難する。そんな状況が出来上がってしまったのだ。
そして、ウォルターがそんな大した人材ではなく、ショーンにいじめを繰り返していたことは、一部の学生が知っている。ウォルターは望まずにそういった学生たちの告発を恐れる立場になってしまったのだ。
ちなみに来年以降、コーヒーデーはコーヒーを浴びる日ではなく、飲む日として存続する。
こうしてショーンは平穏を得たのだ。
そして訪れた夏の始め。ショーンは不思議な現象に悩まされるようになっていた。
「あれ…またない。」
私物の紛失である。
ーーーー
「それって…またあいつらがいじめを?」
学年末の試験に向けて一緒に勉強していたノエルが首を傾げた。ノエルの目の前ではショーンがカバンをひっくり返して自分のペンを探している。
「それはないと思うけど…。一分前まで使っていたものが突然なくなるんだ。」
「魔法か?」
ノエルの隣のザラが尋ねる。ちなみにショーンの隣にはハロルドがおり、四人で裏生徒会の秘密基地にて試験勉強をしていたのだ。
「今、なくなったんだよね?この部屋は認証したメンバーじゃないと魔法が使えなくなってるから、多分あいつらじゃないよ。」
ハロルドは懐から眼鏡を取り出して、かける。そしてふーん、という調子で考え事をする。待つこと1分。
「もしかして、時の精霊じゃないかな?」
「精霊?特殊な力をもつおとぎ話の存在じゃないの?」
ショーンは疑問に思った。精霊の話なんて生まれてこの方童話の中でしか聞いたことがない。ハロルドは自慢げに胸を張って説明を始めた。
「これは七大貴族と精霊の契約者にのみ伝えられる知識なんだけど、建国の時代に精霊はその数を大きく減らしたけど、今も存在するんだ。気に入った人に協力してくれて、たまに契約もしてくれる。
ここ一、二年たまにあるんだよね、時間の巻き戻しが。」
時間の巻き戻し?そんなの?
しかし、ショーンには覚えがあった。特に大きな違和感を感じたのは、ノエルたちと出会ったあの日。
「特に大きく巻き戻ったのは、進級時の実力試験の結果が張り出されたとき。」
「…なんでそんなのわかるの?私は何の違和感もなかったけど。」
「まあ、僕の脳みそなら、ねえ。」
「嫌味か。」
ノエル、ハロルド、ザラは何やら三人で話し込んでいるが、ショーンはそれどころではない。…時の精霊?時間の巻き戻し?私物の紛失?
ふとさきほどまでペンがあった場所に目をやると、キラキラと光って見えた。
「精霊?」
三人もショーンの視線の先を見る。
キラキラと光が集まり、形を作っていく。
『そうよ!!!!気づくのが遅いのよ!!!!!』
キラキラした金髪に金色の瞳の小さな少女、文字通り手のひらサイズの小さい少女が机の上に現れた。顔は…、え、ちょっと待って…。
『私はね!ずっと!!ショーンのこと見守ってあげてたのよ!!!大けがしたら時間を戻して、精神的に追い詰められたら時間を戻して、すごいのよ!!!!でも全然気づいてくれないんだもの!!!!!』
「え、なんで君、ノエルとそっくりな顔してるの?」
ハロルドが言うと精霊は胸をはった。
『この顔が一番ショーンが好きな顔なの。』
「ち、違う!かわいいけど!や、違う!」
ショーンは時の精霊のカミングアウトに真っ赤になり、この日からハロルドとザラに敵視されるようになる。
でも、しょうがないじゃないか。ノエルがかわいいんだから。それに、僕をクラブに誘ってくれたし、一緒にコーヒーをかぶってくれたし、この一年はノエルのおかげですごく楽しかった。
ノエルをちらりと見るとにっこりと笑顔を向けてくれた。顔がかーっと赤くなる。さらにハロルドとザラの目つきが険しくなる。
『ちょっとショーン!それよりも契約!契約しましょ!』
時の精霊がわーわーと騒ぎ出すまで、三すくみのような状態が続いた。
そして、翌日には、いじめなんて絶対できない立場に追い込まれてしまった。
翌日の魔法学園新聞の一面を、『ウォルター・コールマン、立ち上げるコーヒーデー』という記事が飾った。そこには大広間でハロルドとノエルが語ったような筋書きが脚色満点で載せられていた。
曰く、ウォルター・コールマンは魔法学園の排他的な風習に異議を唱えるため、みんなでコーヒーを浴びるコーヒーデーを考案した、と。
大広間に降り注いだ茶色の液体は薄めたコーヒーだったらしい。紅茶が主流のルクレツェンの貴族間では珍しい飲み物だ。
記事はウォルター・コールマンを称える内容となっており、大変好意的だ。かねてより学園の排他的な傾向の改善を狙っていたミネルバ先生を筆頭とする教員たちも、『やり方はともかく、思考はすばらしい。』とウォルターをほめた。
あげく、話は王城まで広がり、第一王女様が国民に向けてこの話をもとに貴族の差別思想の改善を訴える声明をだした。
もし、ウォルターがショーンを今後いじめようものなら…、周囲のすべてがウォルターを非難する。そんな状況が出来上がってしまったのだ。
そして、ウォルターがそんな大した人材ではなく、ショーンにいじめを繰り返していたことは、一部の学生が知っている。ウォルターは望まずにそういった学生たちの告発を恐れる立場になってしまったのだ。
ちなみに来年以降、コーヒーデーはコーヒーを浴びる日ではなく、飲む日として存続する。
こうしてショーンは平穏を得たのだ。
そして訪れた夏の始め。ショーンは不思議な現象に悩まされるようになっていた。
「あれ…またない。」
私物の紛失である。
ーーーー
「それって…またあいつらがいじめを?」
学年末の試験に向けて一緒に勉強していたノエルが首を傾げた。ノエルの目の前ではショーンがカバンをひっくり返して自分のペンを探している。
「それはないと思うけど…。一分前まで使っていたものが突然なくなるんだ。」
「魔法か?」
ノエルの隣のザラが尋ねる。ちなみにショーンの隣にはハロルドがおり、四人で裏生徒会の秘密基地にて試験勉強をしていたのだ。
「今、なくなったんだよね?この部屋は認証したメンバーじゃないと魔法が使えなくなってるから、多分あいつらじゃないよ。」
ハロルドは懐から眼鏡を取り出して、かける。そしてふーん、という調子で考え事をする。待つこと1分。
「もしかして、時の精霊じゃないかな?」
「精霊?特殊な力をもつおとぎ話の存在じゃないの?」
ショーンは疑問に思った。精霊の話なんて生まれてこの方童話の中でしか聞いたことがない。ハロルドは自慢げに胸を張って説明を始めた。
「これは七大貴族と精霊の契約者にのみ伝えられる知識なんだけど、建国の時代に精霊はその数を大きく減らしたけど、今も存在するんだ。気に入った人に協力してくれて、たまに契約もしてくれる。
ここ一、二年たまにあるんだよね、時間の巻き戻しが。」
時間の巻き戻し?そんなの?
しかし、ショーンには覚えがあった。特に大きな違和感を感じたのは、ノエルたちと出会ったあの日。
「特に大きく巻き戻ったのは、進級時の実力試験の結果が張り出されたとき。」
「…なんでそんなのわかるの?私は何の違和感もなかったけど。」
「まあ、僕の脳みそなら、ねえ。」
「嫌味か。」
ノエル、ハロルド、ザラは何やら三人で話し込んでいるが、ショーンはそれどころではない。…時の精霊?時間の巻き戻し?私物の紛失?
ふとさきほどまでペンがあった場所に目をやると、キラキラと光って見えた。
「精霊?」
三人もショーンの視線の先を見る。
キラキラと光が集まり、形を作っていく。
『そうよ!!!!気づくのが遅いのよ!!!!!』
キラキラした金髪に金色の瞳の小さな少女、文字通り手のひらサイズの小さい少女が机の上に現れた。顔は…、え、ちょっと待って…。
『私はね!ずっと!!ショーンのこと見守ってあげてたのよ!!!大けがしたら時間を戻して、精神的に追い詰められたら時間を戻して、すごいのよ!!!!でも全然気づいてくれないんだもの!!!!!』
「え、なんで君、ノエルとそっくりな顔してるの?」
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『この顔が一番ショーンが好きな顔なの。』
「ち、違う!かわいいけど!や、違う!」
ショーンは時の精霊のカミングアウトに真っ赤になり、この日からハロルドとザラに敵視されるようになる。
でも、しょうがないじゃないか。ノエルがかわいいんだから。それに、僕をクラブに誘ってくれたし、一緒にコーヒーをかぶってくれたし、この一年はノエルのおかげですごく楽しかった。
ノエルをちらりと見るとにっこりと笑顔を向けてくれた。顔がかーっと赤くなる。さらにハロルドとザラの目つきが険しくなる。
『ちょっとショーン!それよりも契約!契約しましょ!』
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