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第二章 Side B
7 エリーと異国からの王太子妃
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なんとかエリーのドレスは舞踏会の前に完成した。舞踏会用のドレスはフリルをたくさん使ったエスパル風のものだ。エスパルの色となると赤なのだが、エリーは赤が絶望的に似合わないので自分の瞳とあわせてエメラルドグリーンだ。
ブラッドリーはエリーのドレス姿を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不愛想な顔に戻ってしまった。
この日に向けてエリーの準備は万端だ。貴族の作法を復習し、舞踏会のルールを確認し、当日に向けて侍女たちに全身を磨き上げてもらった。
社交界の評判が悪いのが不安材料だが、今回だけの社交になるだろうし、我慢しよう。
「今日は主要な高位貴族に挨拶を済ませたら帰る。その間、そばを離れるな。」
城に向かう馬車の中で出された指示に、エリーは驚いた。
「…なぜ驚く。」
「顔に出ていましたか?」
「はっきりと。」
「てっきり、俺の邪魔をするなと言われると思っていましたので。」
「……リチャードにお前を一人にするなと言われた。」
ブラッドリーはプライドが高そうだが、リチャードの助言は聞くらしい。やはり彼がベテラン家令だからだろうか。
城に到着するとブラッドリーのエスコートを受けて、会場に入場した。
到着がアナウンスされると、すでに入場していた貴族たちがぐるりとこちらを向いた。…今日の主役以上の注目度なんじゃないかしら。
「あれがブラッドリー様のお飾りの妻?」
「随分と貧相な方ね。お胸が小さい方が好きというのは本当だったのかしら?」
「あの男女と比べると小さいわ。やっぱり白い結婚というのは間違いないわね。」
あの、男女…?噂そしているのはエリーと同じ年頃の令嬢たちだ。悪口がエリーに聞こえるということはブラッドリーにも聞こえているはずだが、それは構わないのだろうか。
令嬢たちはそろってベルラインのドレスを着ている。あれが今の社交界の流行りだというのはヘンリーが仕入れてきてくれた情報だ。
しかし、あのラインではエスパル風のフリルが映えない。マーメイドラインは小柄で凹凸の乏しいエリーには似合わないため、今回は裾までフリルがきれいに広がるAラインのドレスを着ている。
「あのドレス…。今の王都の流行りを知らないのかしら?これまでに一度も王都に出てこられたことがないんでしょう?」
「なぜあんな方をダンフォード公爵令嬢の代わりに選ばれたのかしら?ダンフォード公爵令嬢はあんなにも華のある美しい方なのに。」
ダンフォード公爵令嬢、ブラッドリーが婚約から逃げた令嬢だ。エリーよりも一つ年上の令嬢で、来年の今頃に海軍の大将であるアーチボルト侯爵の後妻に入る予定だとヘンリーが教えてくれた。
国王陛下としては、エスパルから王女が来る前に嫁入りしてほしかっただろうが、そこはブラッドリーの反逆でうまく運ばなかったそうだ。
アーチボルト侯爵もすでに五人も成人した子供がいるし、跡取りである長子にも第一子が誕生したのに、ここで高位貴族の令嬢を娶ることに難色を示したが、彼以外の高位貴族の後妻となると隠居済みのおじいさんしかいないということで、断れなかったようだ。
ダンフォード嬢とエリーに面識はない。ブラッドリーに負けず劣らずプライドの高い令嬢だと聞くからできれば会いたくはないが、会場にはいるだろう。
そして、早速会った。
「アーチボルト侯爵。」
「ブラッドリー殿、久しぶりだな!」
真っ赤な髪に真っ赤な髭の筋骨隆々とした明朗快活な大男にブラッドリーに話しかけに行った。年はエリーの父よりも一回りほど上といったところだ。
左腕には華やかなくるくるとした金髪の美女をエスコートしている。彼女の金髪は王家の色であり、数代前に王家から分かれたダンフォード公爵家の出だろう。
つまりは、彼女がエリーの悪い噂を流しているらしい、ダンフォード公爵令嬢だろう。
「……エリーは元気ですか?」
ん?
「ああ!見習いを卒業して辺境に配属されたよ!」
アーチボルト侯爵は快活に答える。エリーとは誰のことだろう?侯爵の口ぶりから海軍の兵なのだろうが。
「……馴染めていますか?」
「ああ!大活躍だよ!さすが俺の娘だ!…そうだ、紹介しよう。こちらは婚約者のキャサリン・ダンフォード嬢だ。」
「お久しぶりですね、ブラッドリー殿。」
「お久しぶりです。ダンフォード嬢。」
キャサリンは流行りのベルラインの美しい青いドレスを着て、高価な青い宝石のついた髪飾りとネックレスをつけていた。
「ぜひ、お連れの方をご紹介ください。結婚されてから一度も社交の場でお会いできませんでしたもの、ご挨拶したかったですわ。」
キャサリンは穏やかな口調で話しかけてきてくれた。プライドは高そうだが、そこまで敵視されている感じはしない。
「妻のエリザベスだ。」
「ご無沙汰しております。エリザベスです。」
キャサリンは品定めするように上から下までエリーを見た。
「独特なドレスですね。よくお似合いですわ。」
「ありがとうございます。キャサリン様もとても素敵ですわ。」
エリーは喧嘩する気も仲良くする気もないのでありきたりな答えを返す。完璧な淑女であるキャサリンの顔は変わらなかったのでどう思ったのかはエリーには想像もつかない。
「ぜひ夫人も我がダンフォード家のお茶会にいらしてください。何度も招待状をだしているのですよ?そのたびにお断りでしょう?」
招待状が来ていることすら知らなかった。きっとブラッドリーの指示ですべて欠席の返事が出されているのだろう。
「旦那様に外に出ないように言われておりますので。申し訳ございません。」
「あら…まあ……。」
ブラッドリーがぎょっとしたようにエリーを見た。アーチボルト侯爵は快活に笑った。
「なるほど!ブラッドリー殿は夫人を外に出したくないのだな!中がよろしいようだ!よかったよかった!」
ブラッドリー侯爵の声は大きく響く。
「でも、社交をされないのは夫人の評判にかかわりますのよ?将来公爵夫人になられるなら社交は必須ですわ。今は…ねえ?」
「私は旦那様のご意向に従いますわ。」
周囲からは「なんであの人、あんなに飄々としていられるの?悪口を言われているのに?」という声がしてえっとなった。高位貴族の悪口は遠回しすぎてよくわからない。
「旦那様が間違ったときに正しいことを指摘するのも高位貴族の夫人の務めですわ。」
「まあ、そうなのですね。勉強させていただきましたわ。」
キャサリンは淑女の笑顔を崩さないが、内心は手ごたえがなさ過ぎてイライラしていることだろう。しかし、エリーはそれには気づけなかった。
そこに、注目を集めるように王族の入場門が開く音がした。
現れたのは王太子殿下にエスコートされた、ブルテン人と比べると色の濃い肌色に濃い茶髪の美しい巻き髪の女性が現れた。
身にまとったドレスはマーメイドラインでくびれた腰がくっきりと遠目にもわかる。そして裾にはふんだんにフリルを飾っている。
そのフリルを見て、多くの人がエリーのドレスのフリルを見た。
「王太子フェイビアン殿下とエスパル国のエスメラルダ王女殿下のご入場です。」
ブラッドリーはエリーのドレス姿を見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに不愛想な顔に戻ってしまった。
この日に向けてエリーの準備は万端だ。貴族の作法を復習し、舞踏会のルールを確認し、当日に向けて侍女たちに全身を磨き上げてもらった。
社交界の評判が悪いのが不安材料だが、今回だけの社交になるだろうし、我慢しよう。
「今日は主要な高位貴族に挨拶を済ませたら帰る。その間、そばを離れるな。」
城に向かう馬車の中で出された指示に、エリーは驚いた。
「…なぜ驚く。」
「顔に出ていましたか?」
「はっきりと。」
「てっきり、俺の邪魔をするなと言われると思っていましたので。」
「……リチャードにお前を一人にするなと言われた。」
ブラッドリーはプライドが高そうだが、リチャードの助言は聞くらしい。やはり彼がベテラン家令だからだろうか。
城に到着するとブラッドリーのエスコートを受けて、会場に入場した。
到着がアナウンスされると、すでに入場していた貴族たちがぐるりとこちらを向いた。…今日の主役以上の注目度なんじゃないかしら。
「あれがブラッドリー様のお飾りの妻?」
「随分と貧相な方ね。お胸が小さい方が好きというのは本当だったのかしら?」
「あの男女と比べると小さいわ。やっぱり白い結婚というのは間違いないわね。」
あの、男女…?噂そしているのはエリーと同じ年頃の令嬢たちだ。悪口がエリーに聞こえるということはブラッドリーにも聞こえているはずだが、それは構わないのだろうか。
令嬢たちはそろってベルラインのドレスを着ている。あれが今の社交界の流行りだというのはヘンリーが仕入れてきてくれた情報だ。
しかし、あのラインではエスパル風のフリルが映えない。マーメイドラインは小柄で凹凸の乏しいエリーには似合わないため、今回は裾までフリルがきれいに広がるAラインのドレスを着ている。
「あのドレス…。今の王都の流行りを知らないのかしら?これまでに一度も王都に出てこられたことがないんでしょう?」
「なぜあんな方をダンフォード公爵令嬢の代わりに選ばれたのかしら?ダンフォード公爵令嬢はあんなにも華のある美しい方なのに。」
ダンフォード公爵令嬢、ブラッドリーが婚約から逃げた令嬢だ。エリーよりも一つ年上の令嬢で、来年の今頃に海軍の大将であるアーチボルト侯爵の後妻に入る予定だとヘンリーが教えてくれた。
国王陛下としては、エスパルから王女が来る前に嫁入りしてほしかっただろうが、そこはブラッドリーの反逆でうまく運ばなかったそうだ。
アーチボルト侯爵もすでに五人も成人した子供がいるし、跡取りである長子にも第一子が誕生したのに、ここで高位貴族の令嬢を娶ることに難色を示したが、彼以外の高位貴族の後妻となると隠居済みのおじいさんしかいないということで、断れなかったようだ。
ダンフォード嬢とエリーに面識はない。ブラッドリーに負けず劣らずプライドの高い令嬢だと聞くからできれば会いたくはないが、会場にはいるだろう。
そして、早速会った。
「アーチボルト侯爵。」
「ブラッドリー殿、久しぶりだな!」
真っ赤な髪に真っ赤な髭の筋骨隆々とした明朗快活な大男にブラッドリーに話しかけに行った。年はエリーの父よりも一回りほど上といったところだ。
左腕には華やかなくるくるとした金髪の美女をエスコートしている。彼女の金髪は王家の色であり、数代前に王家から分かれたダンフォード公爵家の出だろう。
つまりは、彼女がエリーの悪い噂を流しているらしい、ダンフォード公爵令嬢だろう。
「……エリーは元気ですか?」
ん?
「ああ!見習いを卒業して辺境に配属されたよ!」
アーチボルト侯爵は快活に答える。エリーとは誰のことだろう?侯爵の口ぶりから海軍の兵なのだろうが。
「……馴染めていますか?」
「ああ!大活躍だよ!さすが俺の娘だ!…そうだ、紹介しよう。こちらは婚約者のキャサリン・ダンフォード嬢だ。」
「お久しぶりですね、ブラッドリー殿。」
「お久しぶりです。ダンフォード嬢。」
キャサリンは流行りのベルラインの美しい青いドレスを着て、高価な青い宝石のついた髪飾りとネックレスをつけていた。
「ぜひ、お連れの方をご紹介ください。結婚されてから一度も社交の場でお会いできませんでしたもの、ご挨拶したかったですわ。」
キャサリンは穏やかな口調で話しかけてきてくれた。プライドは高そうだが、そこまで敵視されている感じはしない。
「妻のエリザベスだ。」
「ご無沙汰しております。エリザベスです。」
キャサリンは品定めするように上から下までエリーを見た。
「独特なドレスですね。よくお似合いですわ。」
「ありがとうございます。キャサリン様もとても素敵ですわ。」
エリーは喧嘩する気も仲良くする気もないのでありきたりな答えを返す。完璧な淑女であるキャサリンの顔は変わらなかったのでどう思ったのかはエリーには想像もつかない。
「ぜひ夫人も我がダンフォード家のお茶会にいらしてください。何度も招待状をだしているのですよ?そのたびにお断りでしょう?」
招待状が来ていることすら知らなかった。きっとブラッドリーの指示ですべて欠席の返事が出されているのだろう。
「旦那様に外に出ないように言われておりますので。申し訳ございません。」
「あら…まあ……。」
ブラッドリーがぎょっとしたようにエリーを見た。アーチボルト侯爵は快活に笑った。
「なるほど!ブラッドリー殿は夫人を外に出したくないのだな!中がよろしいようだ!よかったよかった!」
ブラッドリー侯爵の声は大きく響く。
「でも、社交をされないのは夫人の評判にかかわりますのよ?将来公爵夫人になられるなら社交は必須ですわ。今は…ねえ?」
「私は旦那様のご意向に従いますわ。」
周囲からは「なんであの人、あんなに飄々としていられるの?悪口を言われているのに?」という声がしてえっとなった。高位貴族の悪口は遠回しすぎてよくわからない。
「旦那様が間違ったときに正しいことを指摘するのも高位貴族の夫人の務めですわ。」
「まあ、そうなのですね。勉強させていただきましたわ。」
キャサリンは淑女の笑顔を崩さないが、内心は手ごたえがなさ過ぎてイライラしていることだろう。しかし、エリーはそれには気づけなかった。
そこに、注目を集めるように王族の入場門が開く音がした。
現れたのは王太子殿下にエスコートされた、ブルテン人と比べると色の濃い肌色に濃い茶髪の美しい巻き髪の女性が現れた。
身にまとったドレスはマーメイドラインでくびれた腰がくっきりと遠目にもわかる。そして裾にはふんだんにフリルを飾っている。
そのフリルを見て、多くの人がエリーのドレスのフリルを見た。
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