二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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第一章 Side A

閑話 フェイビアンの独白

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フェイビアン・ブルテンはブルテン王国の第二王子として生まれ、優秀な王太子である兄を尊敬し、将来は友人たちと兄を支えて国を守っていくのだと信じて疑ったことはなかった。

全てが変わってしまったのは、王立学園の中等部に入学して二月ほどたった時だ。

兄が突然、行方不明になり、万が一に備えて王太子教育を受けることとなった。


王太子教育は難しいことばかりだったが、フェイビアンは必死に食らいついた。もちろんそこそこに優秀だ。しかし、兄に王太子教育をした教師陣や父はこれではいけないと頭を悩ませた。

兄には劣る、と。


父である国王が兄に劣るフェイビアンに箔をつけるために、いろいろなことをし、すべてがこれまでの、そしてこれからのフェイビアンの友人関係をずたずたに壊した。


まず、婚約者候補だったエリザベス・アーチボルト侯爵令嬢との婚約話はなかったことになった。

フェイビアンはエリザベスに対して友情以上の感情は持っていなかったが、親友の一人だと思っていた。次に与えられた婚約者は王族にルーツをもつダンフォード公爵家のキャサリン・ダンフォード公爵令嬢である。

婚約者に誤解を与えてはいけないと、エリザベスとは距離を置くことになり、彼女は高等部に進学せずに軍に入隊した。フェイビアンは親友の一人を失った。


宰相の息子であるブラッドリー・オルグレンはフェイビアンを優秀に見せるために様々な我慢を強いられた。

首席の座をフェイビアンに譲り、生徒会長の座をフェイビアンに譲り、卒業生代表の座をフェイビアンに譲った。ブラッドリーは徐々に卑屈な態度を取るようになり、フェイビアンも彼には強く出られなくなった。

『自分の方が優秀なのに』と恨まれているような気がして、以前の様になんでも話せる親友だとは思えなくなっていた。


フェイビアンに成績を譲ったのはブラッドリーだけではない。平民のヘンリー・エバンズという男子生徒がブラッドリーに次ぐ成績で次席で入学していたが、三席だったフェイビアンに譲らされた。

ここは権力で上から圧力をかけてのことらしく、その学生は高等部に進学した今もフェイビアンに近づくことはない。


新しい婚約者のキャサリンとの関係も、構築する前に解消となった。国防のためにエスパル国の王女と婚約することになったのである。

婚約期間はわずか一年と少し。こちらの事情なので新しい婚約者を国王が探している。有力な候補はブラッドリーなのだが、彼は受け入れないだろう。

ブラッドリーがずっと幼馴染でフェイビアンの婚約者候補であったエリザベスに思いを寄せていたのはフェイビアンからすると明白であった。
目ざとい貴族令嬢はエリザベスに嫉妬し、くだらない悪口を言って発散していたほど明白であったが、おそらくエリザベス当人は気づいていなかっただろう。

ブラッドリーはエリザベスを諦めていないのではないかと思う。


頼りになる兄はいない。心を許していた親友もいない。新しい友人もいない。

フェイビアンは孤独だった。


エスパルからやってくる婚約者であり妻となる王女が自分に心を開いてくれることを、そしてせめて友情をはぐくめることをフェイビアンは願っていた。



ーーーー



「お初にお目にかかります。エスメラルダと申します。」

妻となるエスパル国の王女は結婚式の一か月前にブルテン入りした。エスパル特有の浅黒い肌にこげ茶のくるくるとした髪をした同い年の王女は意思の強さを感じさせるハシバミ色の瞳をしていた。

「フェイビアンだ。これからよろしくお願いします。」

二人はしばし無言で見つめあった。


「…フェイビアン様には婚約者がいらっしゃったと聞きましたが、この婚姻にご不満はありませんか?」

ずいぶんはっきりと尋ねられた。後で知るのだが、これがエスパル式らしい。

「不満はないよ。私の立太子は予定になかったことだからね。元婚約者とも最近の付き合いなんだ。私は、王女殿下が慣れ親しんだ国を離れることになってしまったことの方が気になるよ。」

エスメラルダは驚いたように瞬きをした。

「フェイビアン様はお優しいのですね。でも、一国の王女として生まれたからにはどんな縁談も覚悟しています。ただ…、夫婦となるのですから、夫となる方とは仲睦まじく過ごしたいと思っています。」

ああ、彼女なら大丈夫だ。

フェイビアンははにかんだように笑った。


「私もです。」




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