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第四章 Side B
6 エリーと海軍の秘密兵器
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エリーは得た情報をそのまま、ありのままにエスメラルダと王太子に報告した。
「つまり、魔女たちは白い犬がいる限り、海軍に協力する気はないということだな?」
季節は秋となり、ポートレット帝国の軍が冬に備えて国へ引き返したという報告を受けたあとでの会談となった。そのためか、王太子の顔もいくらか柔らかい。
「はい…。王太子殿下はこの白い犬についてご存じですか?」
「ああ。おそらく、エリーの犬だろう。」
「…エリー?」
「エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢のことだ。」
「私も一度お会いしたことがあるけれど、その時、犬はいなかったけれど…。」
「おそらく、タウンハウスにおいてきていたんだろう。」
また、エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢が登場した。彼女はエリーの離婚騒動だけでなく、ブルテンの国防に関してもキーマンだったようだ。
王太子殿下は簡単にアーチボルト嬢について教えてくれた。
彼女の人生に思いをはせると複雑な気持ちになる。
王子殿下の婚約者候補として王立学園で学んでいたが、セオドア殿下の行方不明により白紙に戻り海軍に入隊した。
海軍では期待されていた海馬を使役できず、白い犬を相棒にしている。
高位貴族からの求婚を跳ねのけて逆境の海軍に残り、その頭脳で功績を残し始めた矢先に父である将軍の戦死。
生き残ったアーチボルト直系として兄の補佐をし、アーチボルト家のために高位貴族との縁談を迫られる。
そして、今、相棒の白い犬が海馬にも勝る海軍の秘密兵器になる可能性が出てきた。
私の人生もなかなか波乱に満ちているが、彼女には勝てないだろう。
何はともあれ、エリーは長い里帰りを終えて公爵家へと帰ってきた。
「「「奥様、おかえりなさいませ!」」」
二か月弱の里帰りだったが、公爵家はすっかり自分の家になっていたので、帰ってきたという気持ちが強い。
「みんな、ただいま。」
「奥様がおらず、屋敷からは火が消えたようでしたわ。もちろん、旦那様も。」
…これさえなければね。
「そう。」
むしろ夫であるブラッドリーは快適な一人暮らしをしていたことだろう。帰ってきてがっかりしているかもしれない。
「今日は旦那様は?」
「大旦那様とアーチボルト侯爵領に。侯爵様の葬儀が行われておりましたから。」
ポートレット帝国からの侵攻が落ち着いて、ようやく戦死者の葬儀が行われたことはエリーも王太子のところで聞いていた。おそらく国王と王太子の代わりに葬儀に参列したのだろう。
「お帰りはいつごろに?」
「一週間後に。」
「わかったわ。」
それまではひとまず自由なようだ。
「じゃあ、まず、菜園を見てもいいかしら?」
「もちろんでございます。まもなく秋の野菜が収穫できますよ。」
「楽しみだわ!」
エリーが家庭菜園に出ると、秋の野菜たちがしっかりと実っていた。二か月、他の人に世話をされていた菜園だが、確かに夏の収穫と比較すると実りが悪いかもしれない。
そして雑草も少し目立つ。特に守護神であるチャーミングな案山子の下のところは雑草が多い。まあ畑の端だから使用人たちも気にしていなかったのかもしれない。
「あら…?」
ゲロゲロ、ぴょこん。
飛び出てきたのはイボガエルだ。後ろで専属侍女であるソフィーの「ひいっ」という声がする。
「カエル…?この辺りでは見かけないわね…?どこから来たのかしら?」
そういえば、魔女のキーリーは魔女は猫やカエル、コウモリなんかを好んで飼うと言っていた。キーリーは猫以外は絶対にごめんだとも言っていたが。
「お、奥様は平気なのですか!?」
「カエル?ロンズデール領では夏にはよく見るのよ。」
「ゲロゲロ。」
ーーーー
それから一週間後、エリーが家庭菜園の横のガゼボでお茶を飲んでいた時だった。玄関のあたりが騒がしくなり、ばたばたと足早に誰かがこちらにやってくる音がする。
何事かと振り返ったエリーの目に映ったのは旅装のままのブラッドリーだった。
「おい!おまえ、無事か!?」
「は、はい。旦那様、おかえりなさいませ。」
「魔女と接触したと聞いたぞ!?」
「王太子殿下に全て報告してございますが…。」
「セオドア殿下がどうなったのか、知らないのか!?魔女と接触するだなんて!!」
「そういう依頼を王太子殿下から受けたのです。ご報告しましたでしょう?旦那様も許可してくださったはずです。」
「それはそうだが…。」
ブラッドリーは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「まあ、旦那様、奥様もお戻りになられましたし、今日のご夕食は一緒にお食べになられては?」
ブラッドリーの後ろからついてきたリチャードは嬉しそうな顔でそう提案する。旦那様と食事だなんて、春以来なかったことだ。
「いや、俺はまた城に戻らないといけないから…。今も報告の途中で抜けてきただけだから…。」
なにやってるんだ、旦那様。
「とにかく!お前は屋敷で大人しくしていろよ!」
そうしてブラッドリーはあわただしく旅装のまま城に戻って行った。
「なんだったのかしら?」
「旦那様は奥様のことを心配していらっしゃったのですわ!心配で思わず帰ってきてしまったのです。」
「愛されていますわね、奥様。」
侍女たちは口々に言うが、エリーはなんとも言えない表情になった。
愛されている?そんなわけがないだろう。実際、ブラッドリーはエリーと離縁してかつてから愛していた女性を嫁に迎えたいと思っているらしいのだから。
「そんなことないわよ。実際、行くときは全く心配していなかったし。どういった心境の変化かしら。」
「奥様…。」
しかし、帝国との戦がひと段落ついたのだから、アーチボルト嬢と旦那様の縁談の話も進むだろう。それはつまり離縁のタイミングが迫っているということでもある。
今回の報酬を王太子は約束してくれた。私、個人名義でお金が手に入るだろう。ひとまず、離縁後しばらくは生活していけるだろう。
今度は離縁後の身の立て方だ。またヘンリーを呼んで相談してみようか。
しかし、ヘンリーと会う前に、またエリーは城に呼ばれることとなった。
「つまり、魔女たちは白い犬がいる限り、海軍に協力する気はないということだな?」
季節は秋となり、ポートレット帝国の軍が冬に備えて国へ引き返したという報告を受けたあとでの会談となった。そのためか、王太子の顔もいくらか柔らかい。
「はい…。王太子殿下はこの白い犬についてご存じですか?」
「ああ。おそらく、エリーの犬だろう。」
「…エリー?」
「エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢のことだ。」
「私も一度お会いしたことがあるけれど、その時、犬はいなかったけれど…。」
「おそらく、タウンハウスにおいてきていたんだろう。」
また、エリザベス・アーチボルト侯爵令嬢が登場した。彼女はエリーの離婚騒動だけでなく、ブルテンの国防に関してもキーマンだったようだ。
王太子殿下は簡単にアーチボルト嬢について教えてくれた。
彼女の人生に思いをはせると複雑な気持ちになる。
王子殿下の婚約者候補として王立学園で学んでいたが、セオドア殿下の行方不明により白紙に戻り海軍に入隊した。
海軍では期待されていた海馬を使役できず、白い犬を相棒にしている。
高位貴族からの求婚を跳ねのけて逆境の海軍に残り、その頭脳で功績を残し始めた矢先に父である将軍の戦死。
生き残ったアーチボルト直系として兄の補佐をし、アーチボルト家のために高位貴族との縁談を迫られる。
そして、今、相棒の白い犬が海馬にも勝る海軍の秘密兵器になる可能性が出てきた。
私の人生もなかなか波乱に満ちているが、彼女には勝てないだろう。
何はともあれ、エリーは長い里帰りを終えて公爵家へと帰ってきた。
「「「奥様、おかえりなさいませ!」」」
二か月弱の里帰りだったが、公爵家はすっかり自分の家になっていたので、帰ってきたという気持ちが強い。
「みんな、ただいま。」
「奥様がおらず、屋敷からは火が消えたようでしたわ。もちろん、旦那様も。」
…これさえなければね。
「そう。」
むしろ夫であるブラッドリーは快適な一人暮らしをしていたことだろう。帰ってきてがっかりしているかもしれない。
「今日は旦那様は?」
「大旦那様とアーチボルト侯爵領に。侯爵様の葬儀が行われておりましたから。」
ポートレット帝国からの侵攻が落ち着いて、ようやく戦死者の葬儀が行われたことはエリーも王太子のところで聞いていた。おそらく国王と王太子の代わりに葬儀に参列したのだろう。
「お帰りはいつごろに?」
「一週間後に。」
「わかったわ。」
それまではひとまず自由なようだ。
「じゃあ、まず、菜園を見てもいいかしら?」
「もちろんでございます。まもなく秋の野菜が収穫できますよ。」
「楽しみだわ!」
エリーが家庭菜園に出ると、秋の野菜たちがしっかりと実っていた。二か月、他の人に世話をされていた菜園だが、確かに夏の収穫と比較すると実りが悪いかもしれない。
そして雑草も少し目立つ。特に守護神であるチャーミングな案山子の下のところは雑草が多い。まあ畑の端だから使用人たちも気にしていなかったのかもしれない。
「あら…?」
ゲロゲロ、ぴょこん。
飛び出てきたのはイボガエルだ。後ろで専属侍女であるソフィーの「ひいっ」という声がする。
「カエル…?この辺りでは見かけないわね…?どこから来たのかしら?」
そういえば、魔女のキーリーは魔女は猫やカエル、コウモリなんかを好んで飼うと言っていた。キーリーは猫以外は絶対にごめんだとも言っていたが。
「お、奥様は平気なのですか!?」
「カエル?ロンズデール領では夏にはよく見るのよ。」
「ゲロゲロ。」
ーーーー
それから一週間後、エリーが家庭菜園の横のガゼボでお茶を飲んでいた時だった。玄関のあたりが騒がしくなり、ばたばたと足早に誰かがこちらにやってくる音がする。
何事かと振り返ったエリーの目に映ったのは旅装のままのブラッドリーだった。
「おい!おまえ、無事か!?」
「は、はい。旦那様、おかえりなさいませ。」
「魔女と接触したと聞いたぞ!?」
「王太子殿下に全て報告してございますが…。」
「セオドア殿下がどうなったのか、知らないのか!?魔女と接触するだなんて!!」
「そういう依頼を王太子殿下から受けたのです。ご報告しましたでしょう?旦那様も許可してくださったはずです。」
「それはそうだが…。」
ブラッドリーは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「まあ、旦那様、奥様もお戻りになられましたし、今日のご夕食は一緒にお食べになられては?」
ブラッドリーの後ろからついてきたリチャードは嬉しそうな顔でそう提案する。旦那様と食事だなんて、春以来なかったことだ。
「いや、俺はまた城に戻らないといけないから…。今も報告の途中で抜けてきただけだから…。」
なにやってるんだ、旦那様。
「とにかく!お前は屋敷で大人しくしていろよ!」
そうしてブラッドリーはあわただしく旅装のまま城に戻って行った。
「なんだったのかしら?」
「旦那様は奥様のことを心配していらっしゃったのですわ!心配で思わず帰ってきてしまったのです。」
「愛されていますわね、奥様。」
侍女たちは口々に言うが、エリーはなんとも言えない表情になった。
愛されている?そんなわけがないだろう。実際、ブラッドリーはエリーと離縁してかつてから愛していた女性を嫁に迎えたいと思っているらしいのだから。
「そんなことないわよ。実際、行くときは全く心配していなかったし。どういった心境の変化かしら。」
「奥様…。」
しかし、帝国との戦がひと段落ついたのだから、アーチボルト嬢と旦那様の縁談の話も進むだろう。それはつまり離縁のタイミングが迫っているということでもある。
今回の報酬を王太子は約束してくれた。私、個人名義でお金が手に入るだろう。ひとまず、離縁後しばらくは生活していけるだろう。
今度は離縁後の身の立て方だ。またヘンリーを呼んで相談してみようか。
しかし、ヘンリーと会う前に、またエリーは城に呼ばれることとなった。
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