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第四章 Side B

5 エリーと白い犬

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三日後、ジョンの妹への手紙を託し、二週間後、得られた返事は当然のようにお断りだった。

それを見越していたエリーは魔女の森と商売をする商人に直談判して、ともに魔女の森に行けないかと考えたが…。

「すみません。我々も物々交換なのです。」

「え?」

「森の前に品物を置いて交換するのです。魔女との接触があるのは緊急の要件があるのみです。」

「こちらから接触はできないのですか?」

「そうなんだ。こちらからほしい薬の依頼がある場合は依頼書を届けるんだよ。」

「徹底して外部との接触を避けているのですね…。」

「ああ。セオドア王太子殿下の一件からすっかりだ。」

商人たちと別れたエリーは盛大なため息をついた。もう魔女の森に突撃する以外に手段を思いつかないが、それはエリーも行方不明ルートに入ってしまう。
だからといって、会えませんでしたでは帰れない。

「困ったわ…。」


「あ、あの!エリー様!」

後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはジョンの息子であるキースがいた。

「キースさん。」

「あ、あの、エリー様、魔女には会えなかったと父にききましたが…。」

「はい。そうなのです。ガードがかたくて…、森に突撃するしかないかもしれないと思っていたところです。」

エリーとしては冗談で言ったつもりだった。へらへらとしていたが、キースは慌てたようにエリーを引き留めた。

「それはいけません!!」

突然、大きな声をだしたキースをエリーはびっくりして見た。

「魔女たちは変化の術を使うことに躊躇はありません!下手に魔女の森に近づけば、エリー様も…!」

「キ、キースさん、落ち着いて…。」

「あの!僕に任せてくれませんか!!」

「…え?」

「僕…。」

ここでキースは声をひそめた。

「魔女の家を知っているんです。」



ーーーー



キースに連れられてやってきたのは村のはずれにある小川のそばの小屋だった。ツタが小屋の壁を覆い、森にとけこんだいかにもといった小屋だった。そこは魔女の森のはずれでもあるのだ。

「キーリー!いるー!?」

キースは小屋のドアをガンガンと叩いた。

「ちょ、キース様!」

エリーは慌ててキースを止めようとしたが、キースはおかまいなしにドアを開けてしまう。

「キーリー!!!」

「キース、うるさいよ。」

小屋の奥からは不機嫌そうな顔をした30代の大人の女性が出てきた。不機嫌を全く隠さず、面倒そうな顔でキースを見て、その後ろにいたエリーを見てきた。森の緑の目はエリーの目にもよく似ていた。

「キーリー、まだ寝てたのか?」

「魔女が夜に活動することはお前も知ってるだろう…。まあ、来るのはけれどね。」

どういう意味だろう?エリーは首を少し傾げた。

「キーリー、彼女はエリー様。この地を治めるロンズデール伯爵家のお方だ。」

「知ってるよ。魔女たちに面会したがっていた御人だろう?」

キーリーと呼ばれた女性は気だるそうに手にした煙草を吸っている。

「言っとくけれど、私に長たちを説得することはできないよ。私は外れ魔女だからね。」

「外れ…魔女、ですか?」

キーリーはキースに向かってふっと煙を吐き出した。

「他の魔女たちから異端だと思われているってことよ。…まあ、とりあえず、中にどうぞ。水ぐらいなら出せるわよ。」

キーリーの小屋の中は以外にも整っていた。綺麗に整理されており、机の上では黒い猫が丸くなっていた。

「キースさんはなぜ…、キーリー殿と…?」

「この子はな、男のくせに魔女の術が使いたいと言って、魔女の森の周りをうろついていたんだよ。魔女たちに攻撃されそうになっていたところを私が拾ったんだよ。」

「拾った…?」

キースは照れたように目を伏せた。

「魔女の技は母から娘へと受け継がれるものではあるけれどね、魔女の息子の中にも不思議な力の素養を持つ者が生まれる場合があるんだよ。…お嬢様にも魔女の素養があるよ。」

「え?」

「あんたのお母上にはそもそも魔女の素養があった。だから貴族だったけれど魔女たちが会うことを認めたんだよ。」

「魔女の…素養ですか?」

「あんた、植物を育てるのが好きだろう?薬草の種を育ててごらんよ。通常の倍の効果を出せる薬草を作れるだろうよ。」

確かに、エリーの育てた植物は良く育つ。弟のパトリックが育てていた家庭菜園は実りが公爵邸のものほどよくはなかった。
しかし、それだけで魔女の素養といえるのだろうか。

「魔女の素養っていうのはね、鍛えないと魔女の術を使うには至らないんだよ。」

不思議そうな顔をするエリーのために、キーリーは補足してくれた。なかなかいい人なのかもしれない。


「で、魔女たちに会いたいんだろう?」

「はい。ポートレット帝国との戦についてはどの程度ご存じですか?」

「私は予知の魔女だからね。もちろん知ってるよ。ブルテンが誇る海馬部隊が敗れたこともね。」

「帝国軍がブルテンに侵略してくる可能性があります。その危険を魔女たちはどうお考えなのでしょうか?」

キーリーはちらりとエリーを見て、また煙草の煙を吐き出した。

「危険だとは思っていないよ。ブルテンにいる限り、安全だ。」

「しかし…!」

「言っただろう?私は予知の魔女だって。ブルテンは負けないよ。魔女の助けなんてなくたってね。」

「それは…どういう…?」

エリーは困惑した。キーリーは予知の魔女、ということは未来を予知できるのか。予知した未来ではブルテンは負けていない?

「ブルテン海軍はすでに海馬部隊にも勝る力を持っているからだよ。」

「なんですって!?」

「まだ、気づいてはいないみたいだけれどね。」

キーリーは緑色の目でまっすぐこちらを見てきた。

「それは魔女よりも強い力を持っているし、その存在が海軍にいる限り私たち魔女は海軍には協力しないよ。」

「どういうことですか?」

「その者には人を操る力があるんだ。私たちは闇魔法と呼んでいるけれどね。私たちの祖国にあった魔法だよ。すべての人に作用するわけではないようだが、魔女たちには効果的だ。だから、魔女たちは海軍には近づきたがらないんだよ。」

いつの間に海軍にはそのような強力な戦士が?王太子殿下は知っていたのだろうか?知っていて、教えてくれなかったのか?


「その存在というのは?」

「令嬢のそばにいる白い犬だよ。」

「…白い、犬?」

エリーは知らず膝の上で握りしめていた自分のこぶしを見つめ、それから顔をあげた。真面目な顔のキーリーが煙草をふかしている。

「白い、犬、ですか?」

「ああ。」

エリーはこぶしを開いて膝の上に置いた。


「白い犬、ですか…。」



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