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第四章 Side B
閑話 ブラッドリーの独白 3
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「エリザベス・アーチボルト嬢を高位貴族の家に嫁がせるというのが国王陛下の意向だ。」
宰相である父は言った。てっきりエスパルとの同盟強化や話をするのかと思えば、エリーの話でブラッドリーは少し驚いた。
しかし、おかしい話ではない。アーチボルト侯爵家は海馬部隊を失った責任を追及されている。内地で暮らす貴族たちにはアーチボルト侯爵家の重要性がわかっていないのだ。
しかし、気にしなくていいと言い切れるほどそういった貴族の数は少なくはない。国王はバランスをとるために、アーチボルト家を伯爵家に降爵させるだろう。
「アーチボルト家の後ろ盾とするためですね。」
「ちょうどエリザベス嬢は婚約者もいない。どうやら亡くなった前侯爵は海軍内での縁談をと考えていたようだ。」
ブラッドリーはピクリと反応した。
「エリザベス嬢を海軍に必要不可欠な人材だと思っていたようだ。そのような人材を海軍から引き抜く形になるのは心苦しいが、致し方ない。
エリザベス嬢の嫁ぎ先として国王陛下はうちを考えておられる。」
突然降ってきたチャンスにブラッドリーは震えた。
「そのためには、もちろんわかっているな?今いる嫁の立場をどうにかしなければならない。同格の伯爵家の出にはなるが、国防を担うアーチボルト家と国王から目の敵にされているロンズデール家、どちらを優先すべきかは明白だろう。」
「妻とは離縁してエリーを迎えます。」
「…社交ができない嫁から社交ができない嫁に代わるだけだ。公爵家としては問題ない。しかし、今の妻である方のエリザベス嬢は王太子妃殿下のお気に入りだ。無碍なこともするなよ。」
父はエリザベスのことは私に任せると言った。
ーーーー
海馬部隊に代わる戦力を求めて、フェイビアンは魔女たちと接触することを試みていた。魔女の森が位置するロンズデール伯爵領で話を聞きたいということで、魔女の血を引いていたらしいエリザベスは結婚後初めての里帰りをした。
エリザベスが不在の屋敷では使用人たちが士気を落とし、少し暗い雰囲気が漂っていた。気づけば、ブラッドリーの屋敷はエリザベスの色に染まっていたのだ。
エリザベスの里帰り期間中にブラッドリーも父とともにアーチボルト前侯爵の葬儀に参列するためにアーチボルト領へとむかった。
跡を継いだフレデリックは先日伯爵に降爵となったこともあり、内地の貴族たちはあまり葬儀に参列していなかった。
「オルグレン公爵、ブラッドリー殿、よく来てくださいました。父も喜んでいるでしょう。」
葬儀の翌日、父とともにフレデリックとエリーと面会をした。二人とも毅然とした表情をしており、多くの親族を亡くしたはずだが、その悲しみは一ミリも感じさせなかった。
頭脳派であるフレデリックが生き残り、海軍を率いることとなったのは国にとっては行幸だろう。二人はエリーの政略結婚に関しても受け入れていると聞く。
「今日は内々に話したいことがいくつかあってね。」
そう父は切り出した。
「まず、ヒューゲンと同盟を結ぶこととなった。エスパルも含めた三国同盟だ。ヒューゲンも小規模ではあるが海軍を有しているし、ポートレット帝国への危機感を持っているからね。
あちらの国王陛下は昨年代替わりをしていて、その王弟殿下にキャサリン・ダンフォード嬢が嫁ぐこととなった。ダンフォード家も元をたどれば王家だ。同盟の証として十分な縁談だろう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
兵力の増強は若き海軍大将からの要望もあってのことだった。ついでに王家のために相手がいなかったキャサリン嬢に上等な相手を用意できて国王陛下も安堵されているだろう。
「エリザベス嬢の縁談相手としては息子をと考えている。」
フレデリックはちらりとブラッドリーを見る。エリーは覚悟していたのか、父から目を離さなかった。
「確か、ブラッドリー殿は既婚であったと認識していますが、妹を第二夫人とするということでしょうか。」
「いえ、妻とは離縁する予定です。」
ブラッドリーはためらいもなく言い切った。フレデリックは眉をひそめていたが、何も問わずに「そうですか。」とだけ言った。
その後は積もる話もあるだろうからと、エリーと二人で庭を歩いた。
庭に出ると白い犬が速足でエリーのところにやってきて、守るようにエリーとブラッドリーの間に入ってきた。犬の頭を撫でるエリーを見ていると、何か言ってやらなければ気が済まない気持ちになった。
「結局、オルグレン公爵家に嫁いでくることになったな。」
「ええ。そうですね。」
エリーの言葉に友人としての近しさは、もはやなかった。
「奥方は離縁の件はご存じなのですか?」
「ああ。もともとダンフォード家との縁談を回避するために結婚した仮初の妻だ。社交もしていないし、影響もない。…エリーもこうなることになるのなら、あの日に王立学園に戻っていればよかったのに。」
やはり、どうしても、王立学園の高等部を卒業していないというのは高位貴族の夫人として下に見られる。
「確かに、私は宰相様とブラッドリー様が望むような高位貴族の夫人にはなれないのでしょう。社交をさせられない妻として公爵邸に滞在することになる。
アーチボルト家のためになるなら、私はそれでもかまいません。」
「…エリー?」
「ですが、奥様との間に遺恨を残さないように取り計らってください。奥様と話し合って、一番適切な道を選んでください。第二夫人になったとしても文句はありません。」
「俺は君を第二夫人にするつもりなんて…。」
「私はどのようになっても構いません。」
知らぬ間にエリーとの間には大きな溝ができていたことをブラッドリーは痛いほど思い知った。そして、この日も好きの二文字も言えぬまま、エリーと別れることになった。
ーーーー
少し傷心ぎみに王都へ帰ってきたブラッドリーはもう一人のエリザベスの行動にまたダメージを受けることとなる。
「…もう一度言ってくれるか?」
「だから、夫人が魔女と接触して得てくれた情報について話がしたいと。」
「あいつ、そんな危険な真似を?何を考えているんだ!セオドア殿下のことを忘れたのか!」
「お前にもちゃんと許可を取ったじゃないか?俺は確認したよ。」
何を言っているんだと呆れた顔のフェイビアンを残して、ブラッドリーは急ぎ屋敷へと戻った。
「おい!おまえ、無事か!?」
「は、はい。旦那様、おかえりなさいませ。」
エリザベスはガゼボで呑気にお茶を飲んでいた。急にやってきたブラッドリーに対してキョトンとした顔を向けていた。
「魔女と接触したと聞いたぞ!?」
「王太子殿下に全て報告してございますが…。」
「セオドア殿下がどうなったのか、知らないのか!?魔女と接触するだなんて!!」
「そういう依頼を王太子殿下から受けたのです。ご報告しましたでしょう?旦那様も許可してくださったはずです。」
「それはそうだが…。」
「まあ、旦那様、奥様もお戻りになられましたし、今日のご夕食は一緒にお食べになられては?」
ブラッドリーの後ろからついてきたリチャードがそう提案するが、仕事の途中で抜けてきてしまったから戻らないといけない。
「いや、俺はまた城に戻らないといけないから…。今も報告の途中で抜けてきただけだから…。」
なにやってるんだ、俺は。エリザベスが何をしようと、関係ないだろう。
「とにかく!お前は屋敷で大人しくしていろよ!」
自分の気持ちを整理できないまま、ブラッドリーは城へと戻った。
ーーーー
「私の大切なエリーを傷者にしようだなんて、許せないわ!」
どこからか話を聞きつけたエスメラルダ王太子妃は激怒してブラッドリーを呼びつけた。
「離縁された貴族令嬢がどうなるかご存じでしょう!特に、エリーの実家は貧しいのよ!弟妹もいるし、出戻りの令嬢を養う余裕なんてないわ!離縁なんて許さないわよ!」
「エメ、おちついて…。」
「落ち着けるわけがないでしょう!」
怒り狂う王太子妃をなだめるために、ブラッドリーはその場しのぎの答えを返した。
「妻とは離婚しません。第二夫人としてアーチボルト家に残します。」
その場しのぎで答えたが、それがいいような気がしてきた。エリザベスは貧しさ故に学園に行けなかったが、地頭の良さがある。不遇な環境の中でも努力してきたのだろう。
それが離縁されてしまえば、学歴はないうえに傷者になってしまう。まともな人生は歩めないだろう。
ならば、第二夫人であってもオルグレン公爵家で抱えておくのが彼女にとってもいいことだと思った。
しかし、そのわずか二週間後にエスメラルダは態度を翻す。
「エリーは私の侍女にすることにしたわ。私が守るから、あなたとは離縁してもいいわよ。」
「……妻のことですか?」
ブラッドリーは突然の話と、エリーという名前で混乱した。
「離縁は悪いことだと思って私も先走りすぎたわ。でも、彼女はね、あなたと離縁することを望んでいたらしいの。」
「え?」
「だから、私の方で仕事を用意してエリーを迎えるわ。」
またしてもブラッドリーは妻である方のエリザベスの下に走ることとなる。
「お前は王太子妃殿下に離縁の話をしたのか!?」
エリザベスはまたしてもガゼボでくつろいでいた。やってきたブラッドリーを驚いたように見てくる。
「え、ええ。エスメラルダ様が私が離縁されないように進言していると聞いたので、私にとっても離縁は悪いことではないのだ、と。もちろん契約の話はしていませんよ。」
「離縁されたら次の縁談は望めないぞ!?それでも離縁しようっていうのか!?」
「え?もともとそういう契約ですよね?旦那様は愛する人を迎えられる、私は契約に見合うだけのお金をもらって最終的には離縁する、という。」
そ、それはそうではあるが…。
「旦那様、お忘れになっていたのですか?契約書もあるので読み直してください。」
「た、たしかにそういう契約ではあったが…。」
「それに、私が屋敷に残っていては、旦那様の愛する方も旦那様の愛を信じられませんよ。」
「し、しかしだな…。」
「エスメラルダ様が侍女として雇ってくださると言っていますし、それならば誰の名誉にも大きすぎる傷はつかず、名案なのではないかと思います。」
エリザベスの言うことはわかる。正しい。しかし、ブラッドリーにはなぜか離縁するとは言い切れなかった。
「旦那様、働きすぎなのでは?少し休息をとられて、よく考えるのがよろしいかと思います。」
わからない…。自分がどうすればいいのかも、どうしたいのかもわからない。
過去に直面したことがない難題を前に、初めてブラッドリーは知恵熱を出した。
宰相である父は言った。てっきりエスパルとの同盟強化や話をするのかと思えば、エリーの話でブラッドリーは少し驚いた。
しかし、おかしい話ではない。アーチボルト侯爵家は海馬部隊を失った責任を追及されている。内地で暮らす貴族たちにはアーチボルト侯爵家の重要性がわかっていないのだ。
しかし、気にしなくていいと言い切れるほどそういった貴族の数は少なくはない。国王はバランスをとるために、アーチボルト家を伯爵家に降爵させるだろう。
「アーチボルト家の後ろ盾とするためですね。」
「ちょうどエリザベス嬢は婚約者もいない。どうやら亡くなった前侯爵は海軍内での縁談をと考えていたようだ。」
ブラッドリーはピクリと反応した。
「エリザベス嬢を海軍に必要不可欠な人材だと思っていたようだ。そのような人材を海軍から引き抜く形になるのは心苦しいが、致し方ない。
エリザベス嬢の嫁ぎ先として国王陛下はうちを考えておられる。」
突然降ってきたチャンスにブラッドリーは震えた。
「そのためには、もちろんわかっているな?今いる嫁の立場をどうにかしなければならない。同格の伯爵家の出にはなるが、国防を担うアーチボルト家と国王から目の敵にされているロンズデール家、どちらを優先すべきかは明白だろう。」
「妻とは離縁してエリーを迎えます。」
「…社交ができない嫁から社交ができない嫁に代わるだけだ。公爵家としては問題ない。しかし、今の妻である方のエリザベス嬢は王太子妃殿下のお気に入りだ。無碍なこともするなよ。」
父はエリザベスのことは私に任せると言った。
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海馬部隊に代わる戦力を求めて、フェイビアンは魔女たちと接触することを試みていた。魔女の森が位置するロンズデール伯爵領で話を聞きたいということで、魔女の血を引いていたらしいエリザベスは結婚後初めての里帰りをした。
エリザベスが不在の屋敷では使用人たちが士気を落とし、少し暗い雰囲気が漂っていた。気づけば、ブラッドリーの屋敷はエリザベスの色に染まっていたのだ。
エリザベスの里帰り期間中にブラッドリーも父とともにアーチボルト前侯爵の葬儀に参列するためにアーチボルト領へとむかった。
跡を継いだフレデリックは先日伯爵に降爵となったこともあり、内地の貴族たちはあまり葬儀に参列していなかった。
「オルグレン公爵、ブラッドリー殿、よく来てくださいました。父も喜んでいるでしょう。」
葬儀の翌日、父とともにフレデリックとエリーと面会をした。二人とも毅然とした表情をしており、多くの親族を亡くしたはずだが、その悲しみは一ミリも感じさせなかった。
頭脳派であるフレデリックが生き残り、海軍を率いることとなったのは国にとっては行幸だろう。二人はエリーの政略結婚に関しても受け入れていると聞く。
「今日は内々に話したいことがいくつかあってね。」
そう父は切り出した。
「まず、ヒューゲンと同盟を結ぶこととなった。エスパルも含めた三国同盟だ。ヒューゲンも小規模ではあるが海軍を有しているし、ポートレット帝国への危機感を持っているからね。
あちらの国王陛下は昨年代替わりをしていて、その王弟殿下にキャサリン・ダンフォード嬢が嫁ぐこととなった。ダンフォード家も元をたどれば王家だ。同盟の証として十分な縁談だろう。」
「わかりました。ありがとうございます。」
兵力の増強は若き海軍大将からの要望もあってのことだった。ついでに王家のために相手がいなかったキャサリン嬢に上等な相手を用意できて国王陛下も安堵されているだろう。
「エリザベス嬢の縁談相手としては息子をと考えている。」
フレデリックはちらりとブラッドリーを見る。エリーは覚悟していたのか、父から目を離さなかった。
「確か、ブラッドリー殿は既婚であったと認識していますが、妹を第二夫人とするということでしょうか。」
「いえ、妻とは離縁する予定です。」
ブラッドリーはためらいもなく言い切った。フレデリックは眉をひそめていたが、何も問わずに「そうですか。」とだけ言った。
その後は積もる話もあるだろうからと、エリーと二人で庭を歩いた。
庭に出ると白い犬が速足でエリーのところにやってきて、守るようにエリーとブラッドリーの間に入ってきた。犬の頭を撫でるエリーを見ていると、何か言ってやらなければ気が済まない気持ちになった。
「結局、オルグレン公爵家に嫁いでくることになったな。」
「ええ。そうですね。」
エリーの言葉に友人としての近しさは、もはやなかった。
「奥方は離縁の件はご存じなのですか?」
「ああ。もともとダンフォード家との縁談を回避するために結婚した仮初の妻だ。社交もしていないし、影響もない。…エリーもこうなることになるのなら、あの日に王立学園に戻っていればよかったのに。」
やはり、どうしても、王立学園の高等部を卒業していないというのは高位貴族の夫人として下に見られる。
「確かに、私は宰相様とブラッドリー様が望むような高位貴族の夫人にはなれないのでしょう。社交をさせられない妻として公爵邸に滞在することになる。
アーチボルト家のためになるなら、私はそれでもかまいません。」
「…エリー?」
「ですが、奥様との間に遺恨を残さないように取り計らってください。奥様と話し合って、一番適切な道を選んでください。第二夫人になったとしても文句はありません。」
「俺は君を第二夫人にするつもりなんて…。」
「私はどのようになっても構いません。」
知らぬ間にエリーとの間には大きな溝ができていたことをブラッドリーは痛いほど思い知った。そして、この日も好きの二文字も言えぬまま、エリーと別れることになった。
ーーーー
少し傷心ぎみに王都へ帰ってきたブラッドリーはもう一人のエリザベスの行動にまたダメージを受けることとなる。
「…もう一度言ってくれるか?」
「だから、夫人が魔女と接触して得てくれた情報について話がしたいと。」
「あいつ、そんな危険な真似を?何を考えているんだ!セオドア殿下のことを忘れたのか!」
「お前にもちゃんと許可を取ったじゃないか?俺は確認したよ。」
何を言っているんだと呆れた顔のフェイビアンを残して、ブラッドリーは急ぎ屋敷へと戻った。
「おい!おまえ、無事か!?」
「は、はい。旦那様、おかえりなさいませ。」
エリザベスはガゼボで呑気にお茶を飲んでいた。急にやってきたブラッドリーに対してキョトンとした顔を向けていた。
「魔女と接触したと聞いたぞ!?」
「王太子殿下に全て報告してございますが…。」
「セオドア殿下がどうなったのか、知らないのか!?魔女と接触するだなんて!!」
「そういう依頼を王太子殿下から受けたのです。ご報告しましたでしょう?旦那様も許可してくださったはずです。」
「それはそうだが…。」
「まあ、旦那様、奥様もお戻りになられましたし、今日のご夕食は一緒にお食べになられては?」
ブラッドリーの後ろからついてきたリチャードがそう提案するが、仕事の途中で抜けてきてしまったから戻らないといけない。
「いや、俺はまた城に戻らないといけないから…。今も報告の途中で抜けてきただけだから…。」
なにやってるんだ、俺は。エリザベスが何をしようと、関係ないだろう。
「とにかく!お前は屋敷で大人しくしていろよ!」
自分の気持ちを整理できないまま、ブラッドリーは城へと戻った。
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「私の大切なエリーを傷者にしようだなんて、許せないわ!」
どこからか話を聞きつけたエスメラルダ王太子妃は激怒してブラッドリーを呼びつけた。
「離縁された貴族令嬢がどうなるかご存じでしょう!特に、エリーの実家は貧しいのよ!弟妹もいるし、出戻りの令嬢を養う余裕なんてないわ!離縁なんて許さないわよ!」
「エメ、おちついて…。」
「落ち着けるわけがないでしょう!」
怒り狂う王太子妃をなだめるために、ブラッドリーはその場しのぎの答えを返した。
「妻とは離婚しません。第二夫人としてアーチボルト家に残します。」
その場しのぎで答えたが、それがいいような気がしてきた。エリザベスは貧しさ故に学園に行けなかったが、地頭の良さがある。不遇な環境の中でも努力してきたのだろう。
それが離縁されてしまえば、学歴はないうえに傷者になってしまう。まともな人生は歩めないだろう。
ならば、第二夫人であってもオルグレン公爵家で抱えておくのが彼女にとってもいいことだと思った。
しかし、そのわずか二週間後にエスメラルダは態度を翻す。
「エリーは私の侍女にすることにしたわ。私が守るから、あなたとは離縁してもいいわよ。」
「……妻のことですか?」
ブラッドリーは突然の話と、エリーという名前で混乱した。
「離縁は悪いことだと思って私も先走りすぎたわ。でも、彼女はね、あなたと離縁することを望んでいたらしいの。」
「え?」
「だから、私の方で仕事を用意してエリーを迎えるわ。」
またしてもブラッドリーは妻である方のエリザベスの下に走ることとなる。
「お前は王太子妃殿下に離縁の話をしたのか!?」
エリザベスはまたしてもガゼボでくつろいでいた。やってきたブラッドリーを驚いたように見てくる。
「え、ええ。エスメラルダ様が私が離縁されないように進言していると聞いたので、私にとっても離縁は悪いことではないのだ、と。もちろん契約の話はしていませんよ。」
「離縁されたら次の縁談は望めないぞ!?それでも離縁しようっていうのか!?」
「え?もともとそういう契約ですよね?旦那様は愛する人を迎えられる、私は契約に見合うだけのお金をもらって最終的には離縁する、という。」
そ、それはそうではあるが…。
「旦那様、お忘れになっていたのですか?契約書もあるので読み直してください。」
「た、たしかにそういう契約ではあったが…。」
「それに、私が屋敷に残っていては、旦那様の愛する方も旦那様の愛を信じられませんよ。」
「し、しかしだな…。」
「エスメラルダ様が侍女として雇ってくださると言っていますし、それならば誰の名誉にも大きすぎる傷はつかず、名案なのではないかと思います。」
エリザベスの言うことはわかる。正しい。しかし、ブラッドリーにはなぜか離縁するとは言い切れなかった。
「旦那様、働きすぎなのでは?少し休息をとられて、よく考えるのがよろしいかと思います。」
わからない…。自分がどうすればいいのかも、どうしたいのかもわからない。
過去に直面したことがない難題を前に、初めてブラッドリーは知恵熱を出した。
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