二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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第五章 Side A

5 エリーと運命の神風

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”特殊部隊”とはブルテン海軍に新しくできた、肉弾戦に特化した戦闘部隊だ。海軍の中でも特に戦闘力の高い兵ばかりを集めた小規模部隊であり、乱闘に投入した際に確実に勝ちをおさめられるようにと鍛え上げられてきた。

エバンズ少将の指示で小型の快速船がここまでも聞こえそうな雄たけびをあげながら、混戦にヒューゲン軍に突入していった。


作戦がばれてしまう、読まれてしまう事態は海軍でも想定していた。その時にどうすればいいのか。圧倒的な武力でねじ伏せればいい。これまでは海馬部隊が担ってきたそれを一般兵でできないか、というのが特殊部隊の背景だ。

わずかな兵で何ができるのか、と懐疑的な声も多かったが、実際に召集されたメンバーを見て、その声はなくなった。

特殊部隊のメンバーは今は亡きエリーの父レベルの巨体の持ち主なうえに、海軍でもビビらせるほどの人相の悪い者ばかりだったのだ。


こうして、特殊部隊兵の初陣が始まった。


「隊長にご報告です!」

ヒューゲン側の戦闘状況を逐一報告していた兵が特殊部隊の出発直後に声を上げた。

「どうした?」

「ヒューゲン側の帝国軍の奥から猛スピードで進んでくる中型船があります!」

エバンズ少将も望遠鏡を受け取り、そちらを見る。

「…速いな。」

「あれは我々の快速船よりも数倍速いと思われます。あんな速さでの運航が可能だなんて…。」

「一気にヒューゲン軍を鎮めるための戦闘船でしょうか?」

「いや、速度が出せるということは、大型の大砲やあの”海馬殺し”は積んでいないだろう。」

「では…?」

エバンズ少将は望遠鏡を下した。

「襲撃に備えろ!!」

そして大声で指示を出す。

「帝国軍がこの司令船を狙っている!!!」



ーーーー



突如現れた超快速船は混戦のヒューゲン軍を無視して一直線にこちらへ向かってきた。あの速さで向かってくる船を迎撃できるのは進行線上にいる船だけだろう。

「発射用意!」

長距離弾を構え、敵船に狙いを定める。

「撃て!!」

まっすぐ敵船へと向かっていく弾を敵船は躱すことはなかった。

上がる波しぶき。

…そして、無傷の敵船がまっすぐに向かってくる。


「そんな…?」

エリーは自分が双眼鏡で見たものに息をのむ。隣のアイザックも同様だ。二人は超快速船の仕組みを探るために、監察を行っていたのだ。

「何が見えた?」

「弾はまっすぐに敵船へと飛んでいきましたが、その手前で何かにはじかれるように海へと落ちました。」

「はじかれた…だと?」

「自分にもそう見えました。」

二人からの報告にエバンズ少将は眉をひそめた。その後も砲撃を続けるがあたることはなく、敵船は速度を緩め始めた。

「敵船上に戦闘態勢の兵を多数確認しました!」

「乗り込んできて戦うつもりか…。」

こちらの砲弾が通用しない仕組みは謎だが、敵船も大砲を有してはいないらしい。となると、古典的な武器で戦うしかないわけだ。

「こちらは向こうの意向に沿ってやる必要は全くない。可能な限り逃げ続けるぞ。特殊部隊を呼び戻せ。」


そして、敵の超快速船との鬼ごっこが始まった。


「サム、よく聞いて。」

大人しくエリーの足元で待機していたサムは状況を理解しているのか、真剣な顔でエリーを見上げてきた。

「部屋に戻ってそこで待っていて。」

そう言えば、途端にサムの顔がへの字になり、不満を表現する。

「ここは、戦闘になるわ。見たところ手練れがたくさん乗り込んでくるようだし、サムがいたら危ないわ。私も助けてあげられないのよ?」

動こうとしないサムだが、エリーもせわしなく戦闘の準備をしているため部屋まで引きずっていくほどの余裕はない。

「サム!」

「エリー、放っておけ!」

アイザックが声を上げたその時に船に大きな衝撃があった。鬼ごっこにしびれを切らした敵船がある程度の勢いそのままに横腹に衝突してきたのだ。

敵の船は中型船だが、こちらも大型船ではなかった。つかの間の攻防の後に敵兵が大量に乗り込んできた。


「**隊長、敵**隊長***殺せ!」

「**女**?**女********!」

ポートレット帝国後はエリーも単語程度しかわからない。敵はやはり司令塔であるエバンズ少将を討ち取りにきたらしい。そして、船にちらほら女性兵がいることに盛り上がっている。

エリーもすぐに複数人の屈強なポートレット帝国兵に囲まれてしまった。

にじり寄ってくる敵兵たちを前に剣を構え、女だとなめくさった攻撃をいなして躊躇なく目の前の男を切り伏せて隣の兵を蹴り飛ばした。

「****女!**死ね!」

背後から切りかかってくる兵とエリーの間にはなぜか敵兵が割り込んできて代わりに切られてしまった。

「お前!*******!?」

邪魔をした兵を罵倒している兵にエリーは容赦なく切りかかりながら今起きたことを考えた。目の端では一部の兵が何故か自分から海に落ちていくのをとらえた。

何が、起きているの…?

「この、**犬**!!」

犬という言葉を聞いて振り返るとサムがエリーに切りかかろうとした敵兵の背中に飛びついて噛みついたところだった。

「おい、犬******!?」

「******!」

サムを攻撃しようとした敵兵はなぜか他の敵兵に羽交い絞めにされている。

…もしかして、このおかしな出来事はサムが?

切られそうになっていたアイザックを助けながら、エリーは周囲を見渡し、エバンズ少将の居場所を確認した。この場で守り切らなければならないのはエバンズ少将である。
そして、乗り込んできたポートレット兵はなんとか全員を倒すか、捕虜にするかしなければならない。特殊部隊の援軍を待っているが、思いのほか早く敵船に追い付かれてしまったため、まだしばらくは援軍を期待できないだろう。

敵を打ち崩すには、こちらも指揮官を狙うべきだ。


そこに敵船から新しい兵が乗り込んできた。

プラチナブロンドに水色の瞳をしたまだ若い兵だった。全身真っ黒な軍服を着て大仰なマントを羽織っており、エリーよりも年下に見える。

「*********!頭********!」

何やら大声で騒ぎ立てた後、一点を指さしてさらに声をあげた。

「あれ**隊長**!」

混戦で敵兵はその青年の指し示す人物が誰かわからなかったようだが、エリーはそちらのほうにエバンズ少将がいることを確認していた。

そのため、すぐに体が動いた。

すぐにエバンズ少将の居場所を見抜いた頭脳派、不自然に若く、服装も周りと違い、年上の兵たちが言うことに従う。こいつは、上官には見えないが、偉い兵なことには違いがない。


「*****!……!?」

エリー渾身の一撃は一寸の差で急所を交わされたが、剣先は相手をとらえて右肩から左脇腹にかけてを切り裂いて血が飛んだ。

エリーが舌打ちをして第二撃をしかける前に素早く相手も切りかかってきたが、エリーの顔を見てぎょっとしたように目を見開いた。

「…女**!?」

相手もなかなかの手練れの様でエリーでも躱しきれなかった剣戟は左頬をかすった。一方のエリーの剣は相手の腹に深々と刺さってもろとも倒れこみ、船のへりに激突した。


「***!」

「***!」

「この***女**!」

周囲の帝国兵がエリーを殺そうと襲い掛かってくるのを感じ、瞬時に立ち上がろうとしたが、下から強く腕を引かれてその場に再び倒れこむ。


「エリー!!!」


知らない声に名前を呼ばれると同時に、鋭い何かが切り裂く音と血しぶきが飛んできた。そしてドサッという人が倒れる音がして顔をあげたエリーは敵兵から守るように誰かの胸板に抱き込まれた。


誰かの、”裸の”胸板に。


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