二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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第五章 Side A

閑話 サムの独白 5

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エリーに鋭い目を向けられたのはさすがにきつかった。やはり、犬から人に化ける得体のしれないやつだと嫌われたのだろうか、と思いきやエリーの疑いは全く別のベクトルだった。

なんと、エリーはサムが敵国のスパイではないかと疑ったのだ。

サムはもう必死に誤解をといた。隠しておきたいと思っていたはずの過去も洗いざらい話、海軍のために働くと誓って、ようやくエリーは以前のように頭を撫でてくれた。

…撫でた後はバツの悪そうな顔をしていたが。


サムが海軍に残ることはあっさりと認められた。エバンズ少将が鋭い口調で念を押してきたが。

「お前が変なことをすれば、その責任はアーチボルト家がとることになる。それを忘れるなよ。」

「…わかってるよ。」

「海軍を裏切るようなことをしてみろ。お前は極刑だ。連座でアーチボルト二等も罰を受けるからな。」

サムはむっとしたような顔になってしまう。エバンズ少将はサムがあの場でエリーのためだけに動いたことに気づいていた。ブルテンに恩を売る気もなければ、ポートレット帝国に亡命する気もない。ただ、エリーが危なかったから動いただけだと。

「俺はただ、エリーと一緒にいたいだけだから、危ない目に合わせるようなことはしないよ。」

「今のままではお前はアーチボルト二等といられないということも忘れるな。」

「…どういうこと?」

「アーチボルト二等は国に戻れば伯爵令嬢だ。お前のような得体のしれない奴がそばにいることはもうできないだろう。お前は国に戻り次第隔離され、調査される。」

寝耳に水だった。人型を見せればエリーに嫌われるかも、とは心配していたが、一緒に過ごせなくなるかも、とは思っていなかった。
結果、目に見えてうろたえてしまう。

「海軍の役に立てることを示せ。そうすれば、隔離や調査は最低限で済むだろう。」

アイザックに「頼むぞ」と言ってエバンズ少将は去って行った。


「えーっと、それじゃあ、サム。」

「気安く呼ぶなよ。」

「人になっても態度悪いな、お前。じゃあ、今日のところは休もう。今日からは俺の部屋な。」

「……は?」

「は?じゃねーよ。エリーの部屋に泊まれるわけがないだろう。お前、男なんだから。」

エリーを捕まえてどんなにおねだりしてももう部屋には入れてくれなかった。


これは、まずい。このままではどんどんエリーと離されてしまう。


サムは魔法の知識を駆使して海軍を助けた。自分の価値を知らしめなければ。小さい頃から神童と呼ばれ、最近は犬として無条件に可愛がられていた。自分の力を認めてもらおうと頑張ったのはこれが初めてだ。

そして、サムはエリーをつれて伝令のためにフレデリックのいる船へと飛んだ。


エリーがいるせいなのか、サムがいるせいなのか、そこでも戦闘が発生した。


いけ好かないヒューゲンの中将と話した後、サムはエリーを連れて船を出ようとしたが、エリーは動かなかった。

「エリー、本船に戻らないのかい?帰ってくるように隊長にも言われていただろう?」

サムが腕を引くがエリーに無視される。

「エリー。」

「サム、あの船は魔石で動いているのよね?」

「う、うん。」

「魔石を壊せば、船のスピードが落ちて防御盾もなくなる?」

「そうなるはずだけれど。」

「サム、あなたの風魔法で船の上空から魔石を壊すことはできる?」

「そりゃできるけど…。そうか!」

サムはエリーの言いたいことがわかった。あの魔道具の舩の弱点は上空だ。サムの魔法で船を撃破して来いということだろう。「早速…」とエリーを抱き上げようとするのをエリーがかわした。

「あなた一人で行ってきて。」

「え?」

サムの心臓が変な音をたてた。

「私がいない方が早く飛べるし、何かあった時も逃げやすいはず。なるべく後方の船から魔石を壊して。前方の船にはこのまま突進させてこちらで迎え撃つわ。」

「でも、エリー、この船は危険だよ。一番最初に衝突される。」

「危険は承知の上よ。後方の20隻の魔石を壊してきてくれれば、展開を始めているヒューゲン軍で追いついて迎撃ができるはず。」

エリーの決意は固い。でも、サムにはエリーをこの船に残していったら、死んでしまうのではないかという嫌な予感がしてならなかった。

「海軍のために働いて、あなたがスパイじゃないことを示すチャンスでもあるの!私は大丈夫だから行ってきて!」

その言葉に息を飲む。海軍で、価値を示す。この先もエリーの側から離れないために。

「すぐに戻るから!」

魔石だけ壊してくればいい。すぐに行って、すぐに帰って来よう。そう思ってサムはエリーをその場に残して飛び上がった。



ーーーー



サムが15隻の船の魔石を壊したところで、エリーを残してきた船から煙が登っているのが目に入った。もう、戦闘が…!早く戻らなければ…!

一度にたくさんの船を上空からかまいたちで執拗に攻撃する。魔力消費も大きいし魔石の破壊は確認できなかったが、船としての機能を失わせる程度に破壊すれば十分だろうとエリーの下へと急ぐ。


サムがエリーの姿をとらえた時、ちょうど大柄な帝国兵に蹴とばされて船のへりに体をぶつけたところだった。

「まずは貴族様みたいに綺麗な顔をめちゃくちゃに切り刻んでやる!楽しく遊んでやった後に生きたまま皮を剥いでやるからな!」

帝国兵がエリーの髪を乱暴につかんで顔に刃を近づけていく。

かっと頭に血が上ったサムは高出力で魔法を放っていた。エリーをつかむ帝国兵の腕を切り落とし、剣を弾き飛ばし、ついでに周囲にいた帝国兵を吹き飛ばした。

船に降り立つと、帝国の船との間にかかっていた梯子を落とした。これで、しばらく追加の兵は来ないだろう。


気絶しているエリーに駆け寄り生きていることを確かめるとほっと息をついた。…よかった。生きてる。しかし、したたかに体を打ち付けたようで苦しそうに体をゆがめていた。

にしても、前回の司令船での戦いを考えても、展開が速いように思った。いったいヒューゲン軍は何をやっているんだ。
むくむくと怒りが湧いてきたサムはエリーを抱きしめると立ち尽くしていたヒューゲン軍の代表の男を睨みつけた。

「後はお前の軍でなんとかしろよ。」

そうしてエリーを抱えて飛び上がった。とりあえず、安全なところに。でもあまり動かすのはよくないかもしれない。

一瞬迷った後に、サムはフレデリックのいるブルテン本船に戻った。


「エリー!!」

フレデリックは一瞬、大将の顔を兄の顔に戻してこちらに駆け寄ってきた。

「体を打って気絶したみたいだ。」

「そうか…。取り合えず、救護室へ。」

エリーは担架に乗せられて、運ばれていく。フレデリックはすでに大将の顔に戻っていた。

「エリーの兄上…、いや、大将。俺も戦います。エリーの乗るこの船には敵を一人も接近させません。」

「…後方で帝国船が突然撃破されたのは確認していたよ。あれは君が?」

「はい。」

「おかげで第二線の軍が速度の落ちた敵船に追い付いて攻撃をしている。こちらにやってくるのはせいぜい3隻程度だろう。長距離砲弾を構えて準備をしているところだ。」

先ほどまで乗っていたヒューゲンの船を越えて、一隻の船がこちらへ向かってきている。

「君の力は強力だが、多用するつもりはないよ。披露しすぎて向こうに対策されても困るからね。」

フレデリックは言い聞かせるようにサムに語り掛けた。サムの熱くなっていた心も落ち着いていく。

「君は今、海軍の秘密兵器だ。しっかりと体を休めて指示を待ってくれ。…そう。俺の代わりにエリーについていてくれると嬉しいよ。」

そう言ってフレデリックはエリーの頭を撫でるようにサムの頭を撫でた。サムはかみしめるように頷くとエリーのいる救護室へと向かった。

エリーについているうちに、さすがに疲れたサムは眠りこけてしまった。


眠っている間に第二線での戦いは終結した。



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