二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

文字の大きさ
59 / 75
第六章 Side B

2 エリーと異国の兵

しおりを挟む
誰も予想していないことだった。


ポートレット帝国では皇帝グレゴリーによる独裁的な統治が行われていた。好戦的な人物で、国土を広げるために次々と近隣諸国を侵略している。

皇帝の好戦的な姿勢に異を唱えた第一皇子のマクシミリアンは皇太子の座を追いやられ、代わりに好戦的な第二皇子アレクセイが皇太子となった。戦闘狂の第三皇子イヴァンもそれを支持し、ポートレット帝国はもう止められない、とどの国も思っていた。

しかし、ここにきて、イヴァン皇子がマクシミリアン皇子に接触し、そちらに寝返った。皇帝がそのことに気づく前に素早く皇帝と皇太子を暗殺し、玉座を奪い取ったのだ。

イヴァン皇子にどのような心境の変化があったのかは知らないが、マクシミリアン皇子は追いやられながらも長年準備をしていたらしい。
あっさりと反乱は成し遂げられ、新皇帝が即位することになった。


そして、花々が咲き誇る春、ポートレット帝国から皇帝マクシミリアンとイヴァン皇子が終戦協定を結ぶためにブルテンにやってくる。

「歓迎の、晩餐会ですか?」

「ああ。国王夫妻と王太子夫妻、それに公爵家が参加する。」

本当に上位の貴族のみの晩餐会の様だ。そこにブラッドリーの妻として参加しろということらしい。

「帝国の動向には目を光らせておきたいが、さすがにこれは妻帯しているのに一人で行くわけにはいかないからな。すまないが…。」

最近、ブラッドリーはエリーに素直に謝罪するようになっていた。以前の高慢な様子を思うとありえない変化だ。

「かしこまりました。用意しておきます。」



ーーーー



「妻のエリザベスです。」

「お初にお目にかかります。」

皇帝マクシミリアンとイヴァン皇子はともにプラチナブロンドに水色の目をしていた。マクシミリアンが線の細い優し気な雰囲気なのに対して、イヴァンはがっしりした体つきをしたエリーよりも年下と思われる青年だった。後に話をきいたところ、18歳らしい。

ブラッドリーの横でにこにこしながら、イヴァン皇子とフェイビアン王太子の会話に耳をそばだてる。


「イヴァン殿は捕虜の引き渡しの際に、海軍のポール・エバンズ少将と何やら話し込んでおられたが、何か失礼をしてしまっただろうか?」

終戦協定を結ぶにあたって、お互いに捕虜の交換を行った。帝国では二年前の海馬部隊を壊滅状態に追いやった戦闘の際に、海馬部隊の兵を数人捕虜にしていたらしい。
その引き渡しが今日、行われていたようだ。

「実は私も戦場に出ていたのです。」

皇子自らが戦場に?

「ブルテン軍を倒すべく、第一線の司令船に特攻をしかけ、その際の司令官がエバンズ少将だったのです。」

「…その時の帝国兵は皆戦死したか捕虜になったかだと聞きましたが?」

「確かに。自分は戦死したと思われていてもおかしくはないでしょう。深手を負ったまま遠くの海まで飛ばされてしまいましたから。
しかし、自分は昔から悪運が強いのです!幸いにも近くの帝国船に拾われて手当てを受けてなんとか回復しました!」

そう言ってイヴァン皇子は笑っているが、その直後には反乱に参加しているわけだから化け物じみた回復力だ。

「実は、私に深手を負わせたのは女性兵だったんだ。」

「ブルテンとエスパルには女性兵がいますが、”戦闘狂”とまで言われる皇子に深手を負わせるほどの手練れがいたのですね。」

エスメラルダも会話に参加する。

「いや、私も女性だと思って油断していました。その結果があのざまです。実はあの時の女性兵を探していまして。」

「…ほう。なぜですか?」

まさか、憎んでいるのだろうか。しかし、終戦協定を結んだブルテンの海軍兵に皇子が危害を加えたとなれば大問題だ。

「もちろん、求婚するのです!」

きゅうこん?球根?いや、求婚か?

「つらい治療も彼女の雄姿を思い出すことで乗り切れました!まさに彼女は私の女神なのです!」

いやいやいや、その怪我を負わせたのが彼女なんだよね?この皇子、戦闘狂でありながら実はマゾだったのかしら?

「それで、エバンズ少将に?」

「はい。あの時の女性兵について教えてほしいと。女性兵はそこそこの数がいるから誰のことかわからないと言われてしまいましたが。」

「どのような女性でいらしたの?」

もしかしたら皇子妃になるかもしれない。エスメラルダが脳内でどうするのがいいのかとぐるぐる考えているのがわかる。

「美しい女性でした。特に剣技が美しくて。」

「何か容姿の特徴は?」

「それが、色はしっかりと思い出せないのです。ですが、会えばすぐにわかります!それに左の頬に私のつけた傷があるはず!あの深さの傷なら跡が残っているでしょう!」

司令船に乗っていて、頬に傷を受けた女性兵…。その少将とやら、実は誰のことかわかっていたのではなかろうか。

「もしかしたらエスパルの兵であったかもしれませんね。」

「いや、あの船にはブルテン兵しかいなかった。」

イヴァン皇子はため息をついた。

「ブルテンと国交を結べれば見つけられるかもしれないと兄上は言っていたのに。なかなか難しく。」

…まさか、イヴァン皇子が皇帝マクシミリアンに与した理由って?いやいや、まさかそんな。

「この後はエスパルとヒューゲンを回りますが、夏にはこの海戦の立役者に褒賞を与える式典があるとか。自分は兄の代理で参加しますので、その時にまた探します。」

自国の軍をぼこぼこにした相手の顔を喜んで見に来るらしい。フェイビアン王太子は対応に困ったのかあいまいに笑っていた。



ーーーー



「皇帝は常識人という感じで安心したけれど、イヴァン皇子はちょっと私たちの物差しでは測れない人よね…。」

定例のお茶会でエスメラルダもあいまいに笑っていた。

「皇子が探している人物について把握されているのですか?」

「ええ。アーチボルト伯爵令嬢よ。」

「…あらまあ。」

「でも国防の要であるアーチボルト家の令嬢を、終戦したからと言って敵国に易々と渡すわけにはいかないでしょう?それで海軍の上官たちはのらりくらりと躱しているらしいの。」

終戦したといってもどちらかが一方的に勝ち、負けたというわけではない。つまり、明確な上下関係のないままに終戦に至っている。
また帝国が好戦的になる可能性もあるし、下手に手の内は明かせない。

アーチボルト嬢をポートレット帝国に嫁がせるというのはありえない話なのだ。


「アーチボルト伯爵令嬢にはさっさと婚約してもらう必要があるわね。」

「では、予定通りに旦那様と?」

「ええ。そうなると思うわ。」


ついにエリーの離縁するタイミングが来たようだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

『奢侈禁止令の鉄槌 ―偽の公爵令嬢が紡ぐ、着られぬ絹の鎖―』

鷹 綾
恋愛
亡き母の死後、公爵家の正統な継承者であるはずの少女は、屋敷の片隅で静かに暮らしていた。 実権を握っているのは、入り婿の父とその後妻、そして社交界で「公爵令嬢」として振る舞う義妹。 誰も疑わない。 誰も止めない。 偽りの公爵令嬢は、華やかな社交界で輝き続けていた。 だが、本来の継承者である彼女は何も言わない。 怒りも、反論も、争いも起こさない。 ただ静かに、書類を整えながら時を待っていた。 やがて王宮で大舞踏会が開かれる。 義妹は誇らしげに、亡き公爵夫人の形見である豪華な絹のドレスを身に纏って現れる。 それは誰もが息を呑むほど美しい衣装だった。 けれど―― そのドレスには、誰もが知らない「禁忌」があった。 舞踏会の夜。 華やかな音楽が流れる王宮で、ある出来事をきっかけに空気が一変する。 そして静かに現れる、本当の継承者。 その瞬間、 偽りの身分で築かれた栄光は、音もなく崩れ始める。 これは、 静かに時を待ち続けた一人の少女が、 奪われたものを正しい場所へ戻していく物語。 そして―― 偽りの公爵令嬢が辿る、あまりにも残酷な結末の物語でもある。

処理中です...