城下のインフルエンサー永遠姫の日常

ぺきぺき

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4 永遠姫と同い年のお友達

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帝の弟の娘であり、貴族である九条くじょう家の五歳のおしゃまなお姫様は、始めてのお城で脱走して帝に直訴状を渡すという問題行動を起こしていた。

お姫様の名前は永遠とわ。誰に似たのかわからないパワフルな行動力が魅力の女の子である。



「いーやーだー!」


そして、永遠はもう一つの問題行動をお城でおこしていた。


「とわはわるくないもん!ぜったいあやまらないもん!」


それは子供たちだけで交流をと設けられた席でのこと。

永遠が元気よく『父上と母上はへいかにたのまれて戦に行ったんだよ』と言ったら、その場にいた年上の男の子たちが『母上は家を守るのが仕事なんだぞ』『戦に行くなんて母上の仕事じゃない』と騒いだ。
怒った永遠は『母上はみんなちがうから仕事がちがうのはあたりまえだもん!しやがせまいのは母上におこられるんだよ!』と一刀両断し、ついでに拳も振り下ろした。


「永遠、謝りなさい。」

「とわ、わるくないもん!」

「確かに、永遠は間違ったことは言っていない。だけど間違ったことを言っていなければ人を殴ってもいいのか?」

異変に気付いて誰よりも早く駆け寄ってきたのは母だった。

「母上が父上を怒らせて、父上が母上を殴ったら、父上は悪くないのか?母上が怪我をしても?」

「父上がわるい!…でも父上をおこらせた母上もわるい。」

「そうだな。どっちも悪いな。じゃあ永遠は?」

「………うぅぅぅぅ。」

永遠の気持ちは自分も悪かったという方に傾きつつあった。でも認めたくない。先に向こうが謝るなら謝ってもいい。
そんな考えは母にはお見通しだった。


「自分から謝る人と、ずっとむっとして謝らない人、どっちがかっこいい?」

「…あやまる人。」

母に促されて永遠はしぶしぶと謝った。

「…なぐってごめんなさい。」


後からやってきた男の子たちの親は母を見て顔を真っ青にして男の子たちに謝らせようとしたが、男の子たちは最後まで謝らなかった。何やらごねている姿は先ほどまでの永遠と同じなのだが、その姿は永遠の目にとてもかっこ悪く映った。

「かっこわるいだろう?」

「うん、かっこわるい。」

「永遠はちゃんと謝って偉かったな。」

「うん!とわ、かっこいい!」

何か考えるように永遠の顔を眺める母に、永遠は小首を傾げた。



ー---



「おともだち?」

祝いの会の二月後の夏の始めのある日、父は帰ってくると永遠を抱き上げて「明日、永遠のお友達候補が来るよ」と言った。


「そうだよ。母上が永遠と一緒に勉強してくれるお友達を探してくれたんだ。」

母は同年代の子供たちと交流する経験が永遠には大事だと考えたわけだ。また、将来的には父の秘書である鳴海や女中頭兼母の侍女の朝子になりうる存在を青田買いしようという考えもある。
男の子なら永遠の婿にもらってもいい、みたいな考えもあったりなかったり。

「母上が?とわのために?たのしみ!」


永遠は今日も父と母が大好き、通常運転である。

そうしてやってきたのが祝いの会で隣の席であった夫婦の次男坊だった。



ー---



「永遠、高遠誠二たかとおせいじだ。」

現れたのはさらりとまっすぐな黒髪の男の子だった。鈍色の着物を着て、母親の背中に隠れるようにしてこちらをうかがっていた。

「永遠ちゃん、久しぶりね。」

「ときこおばさん、こんにちは!」

「私の息子の誠二よ。」

時子は永遠の方へ男の子をぐいっと押しやる。男の子は不安そうな顔で母親を振り返る。

「とわだよ!はじめまして!」

ちなみに永遠は男の子と祝いの会で会っているが、自己紹介をする前に脱走したので全くその存在を覚えていなかった。…頭はとてもいいという前評判の姫のはずだが。

「…はじめましてじゃないよ。このまえ、おしろであったよ。」

「そうだっけ?せーじの名前はなんて書くの?とわはね…。」

永遠は腰にさしていたお気に入りの木の棒を取り出して、地面に”永遠”という字を書いた。しかし、”遠”の字が正しく書けず、横から見ていた母に直された。

「せーじは?せーじは?」

「ぼくは…。」

男の子は困ったように母親を振り返ったが、漢字を書いてくれたのは永遠の母だった。

「”誠二”と書くんだ。」

「わあ、かっこいいね!でも、とわの名前のほうがかっこいいよね!とわ、この漢字のいみわかるよ!すうじの二だよね!」

「そうだな。誠二は次男だから二なのだろう。」

「二男!父上といっしょだね!ねえねえ、せーじはとわのおともだちなんだよね?いっしょに手習いする?」

最近、永遠は手習いにハマっている。というのも、あの直訴状に大量の赤を帝にいれられてから、執念で漢字を学んでいるからだ。後から母に赤の入った直訴状を見られて、なんとも言えない顔をされたのにショックを受けたのだ。
漢字を書けなかったせいではなく、単なる照れ隠しの顔だったのだが、永遠にはまだそれがわからない。


「今日は手習いの授業はないだろう、永遠?」

「じゅぎょうはないよ!自習だよ!」

永遠はがしっと男の子こと誠二の手をつかんで引っ張っていく。後ろで母が「申し訳ない。誠二が嫌そうにしていたら断ってくれていいから。」「でも、誠二は次男だし、将来も考えてよっぽどのことがない限りは受けたいと思うわ。それに相性は悪くないと思うのよね。」と誠二の母親と話しているが永遠は興味がないので全く聞いていなかった。
誠二はひたすら不安な顔で母親を振り返っていたが、それにも永遠は全く気付かなかった。


朝子に手習いの席を隣にもう一つ用意してもらって誠二と一緒に席に着く。朝子はてきぱきと永遠にスモックのようなものを着せていく。

「誠二殿もスモックを着ますか?」

誠二はきょとんとしながら、朝子にスモックを着せてもらう。このスモック、もちろん永遠が手習いで服を汚すので、それをちょっとでも防ぐためである。

「今日はね、このお手本の27ページからだよ!母上がね、とわのために作ってくれたんだよ!」

27ページには”町”という漢字が書かれていた。

「せーじは何ページまでやったの?」

「え?」

誠二は永遠に渡された手本をぺらぺらとめくるが、そこに誠二の知っている漢字は一つもなかった。それもそのはず、この手本は永遠の母が永遠にあわせて作った唯一無二のものだ。そもそも誠二はようやく数字の漢字を習い始めたところだ。


「……これ、やったことない。」

「そうなんだ!じゃあせーじはとわと”町”を書こう!」

二人で見よう見まねで文字を真似て紙に書く。永遠は二、三枚書いたところで、「上手に書けた!」と言って立ち上がり、書いたものをつかんで誠二を置いて部屋を飛び出して、母の下に走った。


時子誠二の母とお茶を飲んでいた母の下に、書いた書を掲げながら走っていく。三歳のころと変わらない姿だが、成長したのはちゃんと墨取り紙で余分な墨をとってから書を持ってくるようになったことである。おかげで何が書いてあるのかわからないということはなくなった。

「母上!見て!」

「おう、永遠、今日は”町”か。…ところで誠二はどこにおいてきたんだ?」

永遠は首を傾げて後ろを振り返る。

「せーじ、いなくなっちゃった。」

「一緒に行こうと声をかけたのか?」

「…かけてない。母上に早く見てほしくて、おいてきちゃった。」

「誠二はとても驚いただろうな。」

母はため息をついた。永遠もしょんぼりと下を見る。そこに朝子に連れられて、自分も書いた書を持った誠二が現れた。

「誠二、悪かったな。永遠が勝手に走り出して。驚いただろう?」

「あさこさんに、じょうずにかいたしょをおくさまにみせるとほめてもらえるんだとききました。」

誠二がそわそわと自分の描いたのを永遠の母に渡すと、母は驚いたような顔をした。

「誠二はお習字が上手なんだな。」

誠二の”町”は永遠の物と比べて格段に上手だった。母は誠二の頭をぽんぽんとなでている。永遠は、自分も自分も、と母に自分の書を突きつける。

「永遠はあいかわらず元気な字だな。」

母は永遠の頭もなでてくれたが、元気と上手は違うということに気づいた永遠であった。



ー---



翌日も誠二は九条家にやってきて、また一緒に手習いをした。永遠の母が作った誠二用の手習いの手本をもらうと、朝子が永遠にスモックを着せている間に自分でスモックを着て墨をすり始めた。それを見た朝子が「まあ、誠二殿は偉いですね」とほめていたので永遠も自分でスモックを着るようになった。ボタンを掛け違えてしまうのはご愛嬌だ。
この日は父も母もおらず、3時間も手習いを永遠が続けたので、誠二はぐったりとして家に帰っていった。

別の日には畑に水やりをした。杓子をうまく使えない永遠と違って誠二は野菜たちに均等に水を撒いて料理長に褒められていた。料理長は永遠にもお手伝いありがとうと言ってくれたが、撒き方が上手だとは言ってくれなかった。それから上手に撒けるまで大量の水を野菜にかけようとして逆に朝子に怒られた。
今日も手習いかなと思っていた誠二はいきなり外に連れて行かれてぐったりしていた。

また別の日は雨だったので一緒に室内で絵本を読んだ。父がプレゼントしてくれた異国の絵本で絵がとても綺麗なのだ。「ぼく、この字よめない」という誠二に、「母上がよんでくれたのそのままよんであげる!」と覚えている物語を読み聞かせてあげた。
しかし、永遠は絵本を二冊読んだところでうとうとして眠ってしまった。誠二はそこから帰るまでの一時間ほど放置されてしまった。


そうして、誠二が7回目に九条家にやってきた日のことだった。今日の勉強を終えて母と昼食を食べた後、誠二に会った永遠は誠二が浮かない顔をしていることに気づいた。

「せーじ、今日、元気ない?」

「そんなことないよ。今日はなにするの?」

うーんと考え込む永遠。今日は久しぶりに誠二の母、時子も九条家に来ていた。

「今日はせーじのやりたいことする?せーじはおうちでいつも何してるの?」

誠二は驚いた顔で永遠を見て、次に時子を見た。時子はにっこりして誠二の頭をなでると背中を軽く押した。


「ぼく、うまがみたい…。」

「おうまさん?いいよ!あっちに六とういるよ!」

永遠は「こっちこっち!」と言いながらうまやに走っていき、入口から馬の名前を教えてあげた。


この翌週から誠二は週に四日ほど朝から九条家にやってきて永遠と一緒に勉強もするようになった。勉強が終わった後は一緒に遊び、四日の内の一日は一緒に馬を眺めている。



ー---



「あのまま誠二を振り回し続けるだけだったらどうしようかと思ったが、なんとか仲良くやっていけそうだな。」

誠二が一緒に勉強してもいい、と言ったのを機に誠二は永遠の学友として九条家に通い始めた。最初は永遠に振り回されるだけだった誠二も、永遠に主張をしても特に怒らないことに気づいてからは楽しそうに九条家に通っている。

「長男が気が強くて、誠二は押され気味だったから、高遠家から出る機会をあげられてよかったわ。」

時子も庭で一緒に毬をついて遊んでいる子供たちを見ながらほほ笑んだ。

「このまま婿に迎えてくれてもいいわよ。」

「それは気が早いぞ、時子殿。」


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