わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第2章 8歳の大聖女

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大聖女マルシャローズのわがままでわずか6歳にして大好きな姉と引き離されて、一年と少しの修行を積んだクリスは7歳になり、初めて聖女として建国祭に参加した。
建国祭とあわせて街には市場ができ、聖女たちも順番に私服に着替えて街に出ることができるのだが、そんな時間があったら修行をしろとマルシャローズに言われたクリスは去年参加できなかったのだ。


「今年はクリスと参加できるのね!嬉しいわ!」

クリスの直属の先輩聖女であるエマはクリスのために街娘の服を用意して、着替えてきたクリスの髪をまとめて花を挿してくれた。

「今年は大聖女さま、なぜか修行をしろって言って来なかったの。」

「それどころじゃなかったみたいねー。」

クリスは後になって知るのだが、マルシャローズが昨年張った結界はあまり丈夫ではなく魔物を引き寄せ、辺境聖女たちや王都の聖女も補強に駆り出されていた。今年は昨年よりいいものを、と実家の父や神官長から釘をさされていたようだ。

「ふふふ、やっぱりクリスには青が似合うわね。」

青い花で飾ったクリスの髪を見て、うんうんと頷くエマも金髪に青い花を挿している。エマは今13歳で聖女歴も四年目に突入した。エマは唯一王都の聖女たちの中でクリスと表立って仲良くしてくれる聖女で、孤独に修行をさせられているクリスにとっては救いの一つだ。


「じゃあ市場まで行きましょう!」

エマが手を引いてくれて市場にやってくると、白と青の花の花びらが舞う中、にぎやかな声が聞こえてきた。立ち並ぶ市場では大聖女様の絵姿や、クッキー、タペストリーのようなものがたくさん売っていた。
可愛らしい腕輪やブローチなどのアクセサリーの店にはクリスと同じぐらいか少し大きいぐらいの女の子が集まり、楽しそうにアクセサリーを選んでお小遣いから買っていた。


「今日はクリスも聖女のお小遣いで買うのよね?」

「うん!」

結界術の基礎をマスターしたクリスは簡単な仕事に何度かエマの付き添いで出て、そこでちょっとしたお小遣いを稼いでいた。微々たる額だが自分で稼いだお金だ。
始めてのお小遣いで初めてのお買い物。心はワクワクとしていた。

「何を買いたいの?」

「一個しか買えないから、ハンカチを買うの!」

ハンカチなら、しかも市場で買った平民も持っているようなハンカチなら、マルシャローズの機嫌を損ねることもないだろう。本当はみんなにお土産も買いたかったのだが微々たるお小遣い過ぎてそれは無理そうだ。

「素敵な刺繍のハンカチがいっぱい売ってるわよ?青に染めたハンカチとかも。」

「青いハンカチがいい!買えるかな?」

「見に行ってみましょう!」

エマに案内されて市場を回っていると、同じく市場を回っていた黒騎士見習いの少年たちに会った。その中にはクリスと大好きな姉アリシラローズの秘密の手紙のやり取りを手伝ってくれているヒューゴの姿もあった。


「クリス!そちらが聖女の先輩の?」

「うん、エマだよ!」

「初めまして、黒騎士見習いの皆さん。」

同年代の女の子の登場で、ヒューゴを除く黒騎士たちはそわそわとしている。どうやら照れている。クリスが黒騎士団に通い始めた頃はクリスの前でもみんなもじもじしていたものだ。

「で、クリスは何を買うんだ?」

「ハンカチを買うの!」

クリスのお小遣いの額を知っているヒューゴは「ふむ」と顎に手をやって、自分たちがやってきた方の道をさした。

「あっちの方に手ごろな価格の草木染めのお店があったよ。」

「わあ!行ってみる!ありがとう、ヒューゴ!」


その後、無事にクリスは綺麗な青色のハンカチをゲットして教会へと帰っていった。



ー---



クリスが教会で歌を披露し、深々とお辞儀をすると大きな拍手が巻き起こった。毎年、建国祭では結界術を身に着けた聖女たちが歌を歌いながら結界術を披露する見世物がある。
最年少聖女であるクリスの出番にはたくさんの人が集まってくれていた。

舞台から降りたクリスは赤い巻き毛の美しい少女に出迎えられて、ぱっと顔を輝かせる。

「アリシラお姉さま!!」

ぱたぱたと走って、シンプルな花柄のワンピースを着た姉のアリシラローズに駆け寄って抱き着いた。

「お姉さま、会いたかった!」

「クリス、私も会いたかったわ!あなた、クリスマスにも帰ってこないんだもの!おかげでお父様とマルシャお姉さまと三人でクリスマスを過ごすことになったわ!」

どうやら大変に苦痛なクリスマスだった

「…大聖女様が帰っちゃダメだって。」

「そうよね。そうだったわよね。」

アリシラローズもクリスをぎゅっと抱きしめて「ごめんね」と呟いた。アリシラローズの背後でこほんと咳払いが聞こえ、はっとしてそちらを見ると既視感のあるさらさらの金髪をつむじでまとめた青年が立っていた。

「クリス、私の婚約者のアーチ―・ガルシア様よ。アーチ―様、妹のクリスローズです。」

お姉さまの婚約者!手紙で婚約者ができたと言っていた!大人の人だ!

「初めましてクリスローズ嬢。素敵な歌でした。」

アーチ―はにっこりとクリスに挨拶してくれた。慌ててクリスも少しはましになったカーテシーを披露する。

「はじめまして、ガルシア様。」

「アーチ―でいいですよ。」

アーチ―はアリシラよりも10歳年上らしい。代々騎士団長を輩出するガルシア公爵家の長男だそうだが、本人は文官として働いている。ちなみにもともとは白騎士であったが何かあって転身した


クリスはまだ知らない話だが、アリシラローズの婚約者候補は公爵家の嫡男だけではなく、めぼしい名家の年頃の男児が全員候補に挙がっていた。ルロワ家の女児はほとんどが大聖女資格を持って生まれてくるため、婚姻による家とのつなぎを持てないで来ていた。
そのためアリシラローズの婚姻は重要な機会なのだ。結局、武門の公爵家とつながりを持つことになったわけだが。

「アーチ―様、お姉さまとデートなの?」

「クリス!」

アリシラローズはぱっと顔を赤くしてクリスの頭を優しくたたいた。それからむにっとクリスの頬をつまんだ。

「いつの間にこんなこと言う子になったのかしら!」

えへへと笑うクリスとアリシラローズの様子をアーチ―は優しく目を細めて見守っていた。


ー---


金糸の刺繍が施された上品ながらも華やかで美しい白い大聖女の衣装に身を包んだマルシャローズが教会のバルコニーから出てきた。ちなみにこの大聖女の衣装は大聖女ごとに刺繍の色が決まっている。

市民が見守る中、マルシャローズは”大聖女の礼”と呼ばれる優雅なお辞儀の後に、両手をゆっくり上に掲げて歌い始めた。


キラキラとした光がマルシャローズの手から立ちのぼり空へと広がっていく。その光景は幻想的で、マルシャローズが紡ぐ歌とあいまって、はあというため息が各所で聞こえている。

クリスもしっかりと”祈りの結界”が張られるのを見るのは始めてだ。「うわあ!」と空を覆いつくし始めたキラキラとした光を見上げて歓声をあげる。


マルシャお姉さまはわがままだけど、こんなにすごいことができるんだ!


その次の年には自分がその大役を担うことになることをまだクリスは知らない。



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