わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

文字の大きさ
15 / 59
第2章 8歳の大聖女

8

しおりを挟む
クリスはまだ知らないことだが、アリシラローズが嫁に行く東の島国は20年ほど前から商品が入りだし、近年はその珍しいオリエンタルな品物が高位貴族を中心に流行っている。
珍しい生き物や独特の技術があることから、関係を強化したい国でもある。そこで橋渡し役となってくれるような貴族の子女を探していたのだ。
しかし、オールディの多くの貴族は結界の外の国を見下す傾向があり、下手な貴族に任せることはできなかった。外交を担っていたロジャーズ伯爵家には年頃の子供がおらず、困っていたところにアリシラローズが立候補したのだ。


ちなみに現ロジャーズ伯爵夫人はマルシャローズとアリシラローズの母の妹であり、アリシラローズは親しく親戚づきあいをしてきた。


「そっか、クリスはこれを習う前に大聖女になってしまったものね。」

早速クリスはアリシラローズへのプレゼントについて先輩聖女であるエマに相談した。エマはうんうんと頷きながらクリスに首からかけていたペンダントをみせた。

「これが私が初めて作った”聖女のアミュレット”よ。」

”聖女のアミュレット”は建国祭で売られる、聖女の祈りをこめたお守りだ。持っていると危険な目にあいにくいとか、怪我が早く治るとか、言われている。

ペンダントには赤っぽい石がついている。クリスもアリシラローズに買ってもらって首からかけていたアミュレットを取り出した。こちらは水晶だ。

「クリスの持ってるのと石がちがうね。」

「実はその水晶は販売用の特別な物なの。私たちの練習では普通の石を使うのよ。実はこの石はどんな石でもいいの。その変に落ちている小石でもね。
練習用の石ならいくらでも持って行っていいし、聖女たちも大事な人にプレゼントするアミュレットをここから作ってるわ。結構きれいな石も多いしね。」

エマはクリスの前に練習用の石がたくさん入った箱を置いた。中には色とりどりの様々な石が入っていた。


「どんな石でもいいっていったけど、お守りの効果は石によってはすぐに切れてしまうことがあるの。販売用の水晶はその効果が最も長持ちする石よ。練習用の石の中だと…。」

エマはいくつかの石を選んでクリスの左右に分けて並べた。

「こっち側の石は全然効果が残らないと思うわ。反対側は練習用の石の中だと長持ちするかも。」

どれどれ、と両方の石を比較してみる。触ってみた感じ、長持ちすると言われた石の方が温かいような気がする。そうエマにきくと「私もそう思う」と頷いた。
足元にいた猫型のフィフィはひょいとクリスの肩に乗ってクリスの手元を覗き込む。

『今持ってるのは”魔石”ね。不思議な力を持っている石よ。その中だと真ん中の石が一番力が強いわよ。』

「ませき?フィフィはどれが長持ちするかわかるの?」

『まあね。』

そう言ってフィフィは箱に飛び乗り、石の識別をし始めた。ころんころんといくつかの石が机の上に転がる。

「…クリス、あなた猫としゃべってるの?」

「あ、フィフィは精霊なんだよ。」

「ふ、ふうん??」

エマはよくわからなかったようで困った顔をしていたが、深くはきかなかった。クリスは大聖女だし、規格外のことを言っていてもおかしくないだろう。

『この青い石と、白い石はこの箱の中でも力が強いわ。』

確かに握ってみるとちょっと温かい。青はアリシラローズがいつも選んでくれるクリスの色でもある。

「この青い石にする!」

「あ、いきなり本番の石ではしないわよ。まずはくず石で練習よ。」


休憩のはずの時間を使ってクリスに”聖女のアミュレット”の作り方を教えてくれたエマには感謝しかない。



ー---



「おはようございます。クリス様、今日はお姉さまのお見送りの日ですよね?お支度を。」

「うん!」

水色のワンピースに着替えたあとにヤスミンに髪の毛を束ねてもらい、きれいなリボンを結んでもらう。準備をしてもらいながら、プレゼントに作ったアミュレットを見る。
綺麗な青い石には紐を通してペンダントにした。お姉さまの幸せが二倍に、苦しみが半分になるように願いを込めて、その周りを結界術で覆った。
こうすることで、祈りが石にとどめられるのだとか。…正直クリスにもよくわからないが、アミュレットの効果は聖女の技量によっても大きく変わるのだとか。

だから、丁寧に丁寧に時間をかけて祈りをささげて、精霊たちにも頼んで持ち主に幸運を運ぶような祝福をかけてもらった。


「さあ!まいりましょうか!」

「うん!」



ー---



「お姉さまー!」

クリスがルロワ家に到着すると、ちょうど父とアリシラローズが二人で話し込んでいるところだった。時間は朝食もまだのまだまだ早い時間だ。今日の午後に出発する船に乗るために、朝早くに港町へ向けての出発となった。


「クリス!来てくれたの!」

教会から乗ってきた馬車から飛び降りて走ってくるクリスを、アリシラローズはしっかりと抱きしめた。

「朝早かったでしょう?」

「大丈夫、クリスは毎朝5時に起きてるから!」

「ああ、マルシャお姉さまの嫌がらせ…もうやめていいのよ?でも、そのおかげでクリスに会えてうれしいわ。」

マルシャローズは今、ルロワ公爵家にいるはずだが、お見送りには来ていないようだ。クリスの乗ってきた馬車からはヤスミンと護衛の白騎士が降りてきた。
もちろん馬車の周りでも騎乗した白騎士が護衛についている。

「クリスね、アリシラお姉さまにこれを作ってきたの!」

「これは…。」

クリスの手の中には青い石がついたペンダントがある。

「あのね、石は水晶じゃないけど、これもね、聖女のアミュレットなの。クリスが初めて作ったのをお姉さまにあげたくて。」

「クリス…、そんな貴重なものを私に?」

「うん!お姉さまの幸せが二倍になって、苦しいことが半分になるようにお願いしたの!一番強い魔石を使ったから、この先、お姉さまはずっと幸せだよ!」

アリシラローズは涙ぐみながらクリスの手からアミュレットを受け取ってくれた。

「私…、幸せになっていいのかしら…、クリスを置いて全てから逃げ出していこうとしているのに…。」

クリスはアリシラローズの苦しそうな声に目を丸くした。

「もうマルシャお姉さまのおもちゃになりたくなくて、この国から出ていくの。今回のことはね、全部、自分から望んで動いてやったことなの。
ただ、クリスのことだけが心配だわ。もうすぐ8歳になるクリスに、大聖女なんて大役を任せて、マルシャお姉さまのところにおいていくなんて…。
マルシャお姉さまはこれからもまだまだ問題を起こすわ。お父様なんて頼りにならないし。クリスが辛い目に合っている時にそばにいられないなんて…。」

横で頼りにならないと断言された父が微妙な顔をしている。

「お姉さま、クリスは大丈夫だよ?お友達もいっぱいいるし、大聖女の仕事もがんばれるよ?」

そこから周りの人たちがいかに自分に良くしてくれるのかということを、クリスは一生懸命に喋った。アリシラローズはほほ笑んでクリスをぎゅっと抱きしめた。

「そうよね。クリスは教会でもたくさんの味方を作って、マルシャお姉さまに負けないで生きてるのよね。クリスは強い子だわ。」

アリシラローズはクリスにもらったアミュレットを首からかけると立ち上がった。

「じゃあ、もう行かないと。」

「うん!到着したらお手紙書いてね?」

「もちろんよ。」

アリシラローズはクリスの額にやさしくキスをして馬車に乗り込んだ。ちなみに父にはなんの別れの挨拶もなしである。


遠ざかっていく馬車に向かって、クリスはいつまでも手を振っていた。



しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

処理中です...