わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第4章 15歳の辺境聖女

8

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クリスの待ち人たちが帰ってきたのはその翌々日のことだった。

「ヒューゴ!」

重傷者たちの手を握って励ましていたクリスの下に傷の手当の跡は見えるがしっかり自分の足で歩いてヒューゴが帰ってきた。
クリスは握っていた手を優しく離した後、なるべく音をたてずにヒューゴに駆け寄って抱き着いた。

「よかった!ヒューゴが無事でよかった…!」

「クリス…。」

ヒューゴからも驚いたような気配の後、安心したような感情が伝わってきて、ぎゅっとクリスを抱きしめ返してくれた。

「クリスが俺を守ってくれたんだ。」

そう言ってヒューゴが見せてくれたのは、8歳の時にクリスがヒューゴに渡したアミュレットだった。ヒューゴが怪我をしないように願いを込めたそれにはぴしりとヒビが入っていた。

「俺の傷はかすり傷ばかりだ。先陣を切って魔法騎士団とぶつかったのに、だ。奇跡だってみんなに言われたよ。戦闘の最終日にこれにヒビが入ったんだ。」

「ああ。もうこれにはご利益がないね…。」

クリスは自分が二つ目に作ったアミュレットを見た。当時はアミュレットにどのくらいの願いを込めればどのくらいの効果が出るのかイマイチわかっておらず、とりあえず祈り倒していたのを覚えている。
7年も経った今でもご利益が残っていたとは、相当な祈りがこめられていたようだ。


ふとそこでクリスはひらめいた。

もしかしたら、このアミュレットを黒騎士たちに配れたら、彼らの怪我を減らせるかもしれない。


「黒騎士の騎士団長が来ているんだ。クリスと話がしたいそうだから、一緒にガブリエル神官の部屋に来てくれる?」

「うん。」

病室を出ると同じく帰還していたエマが出迎えた。

「エマ!無事だったんだね!」

「ええ。私は後方支援しかしていないから。」

エマも安心したようにクリスをむぎゅっと抱きしめた。

「ひどい現場だったけれど、クリス、あなたも教会からずっと祈ってくれていたのでしょう?私たちだけだったらあのもろい祈りの結界を守り切れなかったわ。
きっと一週間攻撃し続けてもびくともしなかったから引き返していったのよ。」

「エマ、顔色が悪いわ。休んだ方がいいんじゃ…。」

「かわいい妹分のクリスを抱きしめて眠りたいわ…。」

エマがちょっと壊れかけている。ヒューゴとエマ、そして護衛していたノワールと一緒に騎士団長のいるガブリエル神官の部屋に向かうと、約三週間ぶりの筋骨隆々の騎士団長が迎えてくれた。

「クリス、久しぶりだな!三週間も経ってないが、ちょっと顔つきが変わったか?」

騎士団長の大きな手で力強く頭を撫でられると、クリスの頭がぐわんぐわんした。ヒューゴとエマには見慣れた光景だが、ノワールからはハラハラしている気配が伝わってくる。


「クリスが教会から一生懸命に結界を補強してくれたおかげで敵が撤退して行ってくれたよ。本当にありがとう。」

「私の力かどうかわからないです。」

「クリスの力に間違いないわ。中から見たら結界に色がついているのが見えたもの。そこまでできるのは大聖女級のクリスだけよ。」

エマが力強く肯定してくれる。結界に色がつくほど祈っていたとは思わなかった。もしかしたら、周りに精霊もたくさん集まってきていたので助けてくれていたのかもしれない。

「クリスには安全が確認され次第ルクレツェンの魔法騎士たちが攻撃してきそうな箇所の補強をお願いしたいんだ。ここが一番の紛争地帯だから、どこよりも優先すると神官長と国王陛下が決定された。」

「国王陛下が…。」

国王陛下に判断を仰がなければならないほど、今回の結界の不出来は問題になっている様だ。本格的にマルシャローズの大聖女としての地位が危うい。


「この後、クリスローズ様には海にでて海上の結界を補強してもらうようにと神官長から指示書が届いています。魔物の出没が増えているそうです。」

「海に!」

クリスは海に行くのは初めてだ。思わず目が輝いてしまった。その様子をガブリエル神官と黒騎士団長が微笑ましく見つめている。


「秋の人事異動でこの辺境から海へ異動する騎士たちと一緒に南の海へ向かってください。ちなみにそこにいるヒューゴはこの秋に海に異動する騎士の一人です。異動まで引き続きクリスローズ様の護衛をしてください。」

「かしこまりました。」

「ノワール、お前はここに残って鍛え直せ。自分の実力が現役の黒騎士に遠く及ばないことはよくわかっただろう?まだ見習いレベルだ。それでは海上では足手まといだ。」

「…はい。」

ノワールからは悔しい気持ちが伝わってくる。多くの黒騎士が15の年には見習いを卒業する。10以上年下の少年たちと同レベルと言われて嬉しいはずがないだろう。



ー---



辺境の教会に甲高い女性の悲鳴が響いたのはその三日後のことだった。

「クリス様!その髪は!!どうされたのです!!!誰にやられたのです!!!!」

荷物を積んだ馬車でやってきたのはクリス専属の侍女であるヤスミンである。ヤスミンはクリスを見るなり短く切りそろえられた髪に悲鳴をあげたのだ。

「ここではお手入れの時間がないのよ。ヤスミンもいなかったし、傷ませるのが嫌だったから切ってしまったわ。」

「傷ませておけばよかったのです!私がしっかりお直ししましたのに!」

「ごめんなさい、ヤスミン。でも髪は伸びるから安心して。」

ヤスミンは大きなため息をつくと荷馬車の方を振り返った。

「クリス様がろくな着替えも持たずに旅立っていかれたので、動きやすいパンツスタイルの服を数着と、聖女装束をお持ちしました。あとは簡単な身だしなみを整える道具と、手紙をたくさん書かれるクリス様のための便箋と、お勉強の道具と…いろいろです。」

「ありがとう、ヤスミン。秋には海の方に行くことになったのは聞いた?」

「はい。今回ほどの強行軍ではないそうなので、私もお供いたしますわ。戦闘がなければもう一週間早く来れたはずなんですよ?」


過酷な場所にもどこまでもついてきてくれるヤスミンにクリスの心は温かくなった。


「クリス!…あ、ヤスミン殿、到着されていたんですね。」

「ヒューゴ様、お久しぶりです。」

やってきたのは簡素な稽古着に身を包んだヒューゴだ。胸元にはクリスの渡した新しい黒と白の石のアミュレットがある。あれからコツコツと精霊たちに集めてもらった魔石でアミュレットを作りだめているクリスだが、ヒューゴには真っ先に重たいぐらいに祈りを込めたものを渡した。


「クリスが食べたがっていた魔鹿が狩られてきたんだ。今日は鹿肉でバーベキューにしよう。」

「…そんなものをクリス様に食べさせるつもりですか?」

ヤスミンの信じられないというような声に、クリスは海でも自分は大丈夫だと思えた。この国の人たちを自分が守るのだ、と決意も新たに。



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