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貧乏神、首をはねられる?

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まさに野獣王が刀を振り上げた時だ。
「待たれよ!」
突然大声がした。


貧乏神視線---

俺は貧乏神。少し前までは放浪していた。和の国の幕府が滅んだのは俺のせいって言う奴もいる。
このハレルヤ国に来た時。野原で泣いている少女を見かけた。
貧乏神が言うのもなんだが今まで見た中でこれ程可愛いガキを見たことがなかった。

「どうしたんだ」
気づいたら少年の姿になって少女に訊ねていた。
人間に語りかけるのは100年ぶりだった。

「お母様が病気なの」
涙を流しながら少女は言った。
俺はこの子を守りたいと柄にもなく思った。
いや生まれて初めて思った。

「大丈夫。必ず治るよ」
そしてこの子に憑いた。

でも貧乏神が憑いたらどうなる?
俺は貧乏神でも神だからなんとか助けられると思った。
しかし甘かった。貧乏神は所詮貧乏神だった。
俺は必死に彼女の母の病気を治そうとした。
でもどんどん悪くなっていった。
そして一年後に亡くなった。
俺は必死に心の中でその子に謝った。
なんとか助けになろうとハルの侍従になった。
でも今度はどんどんハルが太りだした。
こんなことは初めてだった。
ふつうはやせおとろえていくのに。
必死に諫言して食う量を減らさせようとしたが無駄だった。
女神のような少女はいつの間にかわがまま豚姫になった。
全ては俺のせいだ。

どんなことをしても少女を助けなければ---


ハルは野獣王が蛮刀を振り上げたのを恐怖にまみれた目で見た。

「嫌!」

まだ死にたくない。
「誰か助けて!」
心よりそう思った。

「判った。助けてやる」
どこかで聞いた声が響いた。


いつもはぼそぼそ嫌みを言うチンが大声をあげていた。
目が爛々と輝いている
「何だ。小僧」
野獣王がめねつけた。
「野蛮王。いい加減にしろ」
チンが顔を上げて言った。
「無抵抗な女の子の首をはねて何が嬉しい」

ハルは驚いてチンを見た。
恐ろしい野獣王に野蛮王と言うなど、あのいつもぼそぼそ言っているチンが大声で言うなど信じられなかった。
それも私を助けるために。

「まず小僧が死にたいらしいな」
野獣王が笑って刀をチンに向けた。
ニコッと笑って蛮刀を振り上げると力一杯振り下ろした。



 
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