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悪役令嬢が私の身代わりに水を被せられてブチギレました

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「シルフィ、それで、教科書は大丈夫だったの?」
次の日お昼を食べながら私が昨日の顛末を話すとタチアナが心配してくれた。

「ええ、きちんと乾いたわ」
「うーん、そう言う問題じゃないと思うんだけど」
私の答えにタチアナは不満そうだ。
「私が絞めようか」
なんかタチアナが物騒なことを言うんだけど。

本来私が悪役令嬢に虐められるはずが、助けてもらっているんだけど、何故に?

「いやあ、そこまでしてもらうと大事になってもあれだし」
私が言うと
「別にうちはいつでもステファニーの侯爵家と全面戦争になっても問題ないけど。うちの母なら率先して首突っ込んできそうだし、我が家では母に逆らえるのは誰もいないから」
更にタチアナは物騒なことを言ってくれる。

「まあ、どうしようも無くなったらお願いするわ」
私はそう応えた。取り敢えず私がなんとかしなくてはいけないと思うんだよね。

「教科書が使い物にならないなら、なんだったら俺の1年生の教科書をやろうか」
アル様が言ってくれるんだけど、

「そんな事したら今度はそれをアル様のだから記念にするって取られそうです」
私が笑って言う。

「俺のだからって教科書まで取るか?」
「まあ、おそらく」
アル様は半信半疑だったけど、前世では制服の第二ボタンとか訳の分かんない物まで記念にと取られた者もいるのだ。私は蚊帳の外だったけど。

でも待てよ、アル様の教科書なら下手したら売れるかも・・・・お小遣いになりそうだと私は思わず不埒な事を考えてしまった。

駄目だ駄目だ。私は首を振る。

「でも、そんな苛めがあるなんて、どうしようも無いな! 俺から担任に言おうか」
アル様がおっしゃられた。

でも、元々の原因はアル様が高位貴族であるにも関わらず、平民の私に関わってくるからだ。
誰のせいでこうなったと思っているのよ! って私は余程そう叫びたかった。

「いえ、結構です。これ以上酷くなっても困りますから」
私は一応断ったのだ。

「担任はそんなに頼りないのか?」
「いえ、そうではなくて」
違うって、高位貴族のアル様が私に構うからだって! 先生にアル様が言いつけたら更に酷くなる可能性が大だ。
私は余程そう言いたかったが、言えなかった。

「まあ、シルフィも大変ね。」
他人事宜しく、タチアナが言ってくれる。
「他人事だと思って!」
私がムッとして言うと
「なら、いたずら防止用のペン貸してあげましょうか」
タチアナが言ってくれた。

「えっ、そんな物あるの?」
「お母様からもらったのよ。学園に入ったらいろんなことがあるから、あなたも一本持っておきなさいって」
そう言うとポケットから何の変哲もない普通のペンを見せてくれた。

「これがいたずら防止用のペンなの?」
「そうよ。また後で使い方教えて上げるわ」
「なんか面白そうだな。シルフィの件が終わったら俺にも貸してほしいんだけど」
クンラート様が横から言われた。

「ダメです。これは女子専用なので」
「ええええ! そうなのか」
クンラート様は残念そうに言われた。

「はい。母にはくれぐれも他の者には貸すなと言われているんです。貸したら、そのものの命の保証はしないと」
タチアナが物騒なことを言うんだけど。

「えっ、ちょっと待ってよ! それって公爵家の家宝みたいな感じで、私みたいな部外者が使ったらまずいものじゃ無いの?」
私が慌てて聞くが、
「あなたは絶対に大丈夫だから」
と訳の判んない太鼓判をおされたのだ。

うーん、クンラートが駄目で私が大丈夫ってどういう意味だろう。タチアナにとってクンラートはとても大切で少しでも危険な目には合わせられないけれと、私は多少危険な目に合わせても問題ないって感じなんだろうか?
使う時はもの凄く注意して使おうと私は密かに決意したのだ。

「あれ、アル様。またほうれん草が残っていますよ」
私が言うと、
「えっ、シルフィが食べさせてくれるんじゃないの?」
「そんな訳ないでしょう」
当たり前のようにアル様が聞いてくるんだけど、いやいやいや、これ以上虐めをひどくさせたくないんですけど。私が断るとアル様はとても悲しそうな目で私を見てくるんだけど・・・・

「自分で食べないとだめです」
私はその視線にも負けずに、言い切った。

「じゃあ食べたら、褒美にキスしてくれる?」

はああああ! 何故そうなる?

私はじろりとアル様を睨みつけた。

「シルフィは冷たい。弟には普通に食べさせているのに。食べさせが無理ならばほっぺたにキスくらいしてくれてもいいじゃないか」
アル様が言うんだけど、そんなの出来るか!

ムッとした私はスプーンに思いっきりほうれん草を山盛りにすると、アル様の口の中に突っ込んだのだった。むせるかと思いきやアル様は以外に大口できれいなお顔でむしゃむしゃと美味しそうに食べてくれた。

ええええ! また食べさせやってしまったじゃない! 詰まらせてアル様にお灸を据えるつもりだったのに!


それを山姥が歯を食いしばって見ていたのを私は知らなかった。




食べ終わった私とタチアナはアル様らと分かれて1年生の校舎にタチアナと歩いて帰っていた。

「あっ、蝶々だ」
渡り廊下が終わるところで珍しい色の蝶が飛んでいるのを見つけたのだ。羽が緑と金色に輝いている。
その蝶を追いかけて渡り廊下を外れたのだ。

「ちょっとシルフィ、時間がないわよ」
慌てたタチアナが私を追いかけようとして私の今までいたところに入ったその時だ。

バシャッとタチアナの頭の上から大量の水が落ちてきたのだ。

そこには濡れ鼠になって怒り狂っているタチアナがいた。

私を笑おうとしていた貴族令嬢たちはそれがタチアナにかかったことで蒼白になっていた。

「誰、私にこんな事したのは」
氷のような冷えた声が響いた。完全に切れている。私ですら戦慄した。それほど恐ろしい声だったのだ。

「ヒィィィ」
周りにいた貴族令嬢たちは蒼白になっていた。

「今すぐ白状しなさい。そうでないと、この世から抹消するわよ」
タチアナは本気でやりかねなかった。タチアナの公爵家を敵に回すということは、この国で生きていけないということだった。

「も、申し訳ありません」
クロメロンら10人以上の貴族令嬢がタチアナの前に出てきた。

「ウォーター」
タチアナが叫んで令嬢たちの頭の上に大量の水を降り注がせたのだ。

タチアナ以上に悲惨な状況に貴族令嬢たちはなっていた。
まあ、温かい時だからそれで済んでいるけれど、これが冬ならば凍死確実だった。

「あんた達、判っているわね。次にこんな事したら許さない。これは私の親友のシルフィに対しても同じよ。このまえみたいに教科書を隠したりしてご覧なさい。私がこの世から抹殺してあげるからそのつもりでいるのよ」

ずぶ濡れになりながら貴族令嬢たちはこくこくとただ頷くのみだった。


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