満月に囚われる。

柴傘

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04:初授業

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俺がユースチスへ来てから数日後、ヴィンスとの授業が始まった。

まず座学から始まり、魔術の祖とは何なのかを学ぶ。それから古代から近代にかけての魔術の変移を教え、数十分の実践を行う。
ヴィンスは元々勤勉家らしく、俺が教えるまでもなく座学は殆ど完璧だった。その分実技へ時間を回すが、これが中々上手くいかない。
俺達人族は日常生活に魔術が溢れている。例えば家の明かりは火魔法を込めた石に魔力を通すことで明かりにしたり、食料を保存するのにも前世でいう冷蔵庫みたいな物が魔道具という名前で販売されている。

獣人族はそもそも魔術と生活が近しくない。魔術の概念は分かっていても、想像力が追いついてないようだ。

「…中々どうも、難しいな。」
「コツを覚えてしまえば簡単だよ。ヴィンス、少し手を貸してくれるか?」

そう言って両手を差し出せば、そっと手を置いてくれた。そのままぎゅっと握り込むと、突然の事に驚いたのかヴィンスの身体が小さく跳ねる。

然しゆるく、握り返してくれた。力が弱いのはきっと、俺を怪我させない為だ。

獣人族は魔力が殆ど無い分、身体能力が異常に高い。それは人族の20倍とも言われていて、俺の骨なんて片手でバキッと折る事ができる。
逆に人族やエルフ族は魔術が得意な分、身体能力が低い。まぁそれも、獣人族と比べたら…だけど。

だから獣人族で魔術が使える人は珍しい。ヴィンスは、国にとって有力な人材の卵なんだ。

「今から、俺の魔力を少しだけヴィンスに流す。目を閉じて、感じてみて」

そう言うと、ヴィンスは素直に目を閉じた。

あれだけ恐ろしいと懸念していた狼獣人の顔なのに、凄く綺麗に感じる。
そんな思考にハッとして、俺は軽く頭を振った。いけない、今は授業に集中しないと。

俺も同じように目を閉じ、繋いでいるヴィンスの手にゆっくりと魔力を流していく。

「…なんだか、あたたかいな。全身に巡って、シルの元に帰っていく…これが、魔力か」
「そう、ヴィンスの中にもこの力が有るんだ…まず、魔力を感知するところから始めよう。魔術は感覚が大事だからな」

そう言った後手を握る力を弱めた。だけどヴィンスは、俺の手を優しく握ったまま動かない。

もう魔力も流していないと言うのに、どうしたのだろうか?目を開け繋いだままの手をじっと見つめるヴィンスは、何か考え事をしているようだ。
そう、俺の手を握ったまま…あれ?

そうだ、俺、いま、ヴィンスと両手握ってて。

「え、どうかしたか?顔が真っ赤だが…シル?」
「いや、違う。絶対違う。大丈夫、平気だから」

そう言って、今度こそ握っていた手を離す。熱が集まった頬を片手でぱたぱたと扇いだ。

彼に触れる事が出来て嬉しい、だなんて。恐れ多いにも程がある。ヴィンスはこの国の王弟殿下で、俺は隣国の侯爵子息だ。一応今は国賓として招かれているが、あまりにも立場が違いすぎる。
それに、嬉しいってなんだ?別に友人なら手を握るくらいあるだろう。というか、授業の一環だし何もおかしな事はしていない。何故俺は、こんなにも照れているんだろうか。

ふう、大きく息を吐き出す。落ち着け、俺。そろそろいい時間だし、一旦授業を切り上げよう。

「ヴィンス、今日の授業はここまでにしようか。あんまり魔力を使いすぎるのも良くないし」
「…そうだな。」

ヴィンスが何か言いたげに表情をしていたのに、俺は気づいていなかった。
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