満月に囚われる。

柴傘

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18:街並み

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「うわぁ、凄い…」

思わず漏れ出た感嘆の声に、隣に立つヴィンスの気配が笑ったように揺れる。

ちょっとだけ恥ずかしくて小突けば、小さく呻く声が上がった。脇腹をさするヴィンスと一緒に来たのは、ユースチス城を出て直ぐに広がる王都。

先日ヴィンスに誘われて、俺たちはお忍びで街にやってきていた。
勿論周囲には私服の騎士が数名居るし、認識阻害魔術をかけて平凡な見た目の犬獣人とその友人を装っている。俺たちはお互いに普段の姿が見えているが、街の人達には地味な2人組に見えている事だろう。

ふとヴィンスが車道側を歩いているのに気が付いてしまい、少しだけ照れる。それを誤魔化すように、一歩前へ進み出た。

「シル、待ってくれ。逸れないように、手を繋ごう」

そう言って差し出された手を、数秒間見つめる。正直とても恥ずかしいけれど、今日くらい良いかもしれない。

そっと手を重ねると、柔らかな掌で包み込まれた。
ふにりと触れる肉球や、さらりとした毛並みがなんだか擽ったい。爪は丸く削られていて、俺が怪我しないようにという配慮が垣間見える。

ヴィンスのそういう所が、本当に好きだと思った。

初めてちゃんと見るユースチスの街並みに、思わず目を輝かせる。前は花祭りの真っ最中でまた雰囲気が違った。
昼前の通りは出店が活気付いていて、あちこちから商人の声が聞こえる。

鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに、くうと小さくお腹が鳴った。ヴィンスはそれを見逃してはくれない。

「何か食べ歩きでもしよう、気になる物はあるか?」
「恥ずかしいなぁ…あ、あれは?」

指摘されてしまった羞恥に僅かに顔が赤くなる気がしたけど、誤魔化すように串焼きの店を指差した。

流石王都なだけあって、香ばしい香りを漂わせる肉串の他に海鮮系も置いてある。
獣人族の胃袋に合わせてなのか、肉も海鮮も大きめにカットされていた。俺だったら、2本くらいでお腹が膨れてしまいそうだ。

どれにしようか迷っていれば、ヴィンスは肉串と海鮮串を一本ずつ買ってくれた。

「半分ずつ分けよう。シルは少食だから、それくらいで丁度いいだろう?」
「いや、俺の食欲は普通だって…獣人族と人族の胃を一緒にしちゃだめだろ」

暗に俺は小さいと言われたみたいだったから、態と拗ねて見せた。

そうするとヴィンスは慌てたように謝ってくれたので、それも二つ返事で許してやる。
お互いの距離感が心地良い。気を使わなくて良いというか、自然体を引き出されるというか。今まで、こんな相手は居なかった。

…やっぱり俺、ヴィンスの事。

「……どうした、私の顔に何かついているか?」
「あ、いや、別に…そうだ、少し見たいとこがあるんだけど」

どうやら無意識にヴィンスの顔を見つめていたらしい。

咄嗟に視線を逸らし、笑みを作る。鼓動がやや早くなってしまって恥ずかしい。
握ったままのヴィンスの手を軽く引き、移動しようと促す。

「シル、どこに行きたいんだ?」
「指輪を失くさないように、チェーンが欲しいんだ…宝飾品店で、おすすめある?」
「なら、ちょうど良い。後で連れて行こうと思っていた…こっちだ」

今度は俺がヴィンスに手を引かれる。俺たちは、店までの道程を和やかに話しながら進んだ。
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