厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第二章 サイコパス覚醒

サイコパス

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その日の朝、子供を連れて、いつものように幼稚園のお迎えバスを待っていた。

「な、何?あの子供」
 「子供?どうみても化け物だよ?」
 「「「「キャーキャー」」」


いつものように、いつも通りの一日が始まるはずだった。
 ギギャー
 ウギャー
 グギャギャギャ


圧倒的な数の、子供くらいの大きさの怪物に襲われ子供をかばって倒される人々。

親が倒されどうしようもなくなって逃げまどう子供達。

その怪物は子供を率先して襲う。


「このーこのーこのこのこのー」
怪物に立ち向かう強い母も居る。

だが、その怪物を倒した途端に激痛に襲われ、転げまわり怪物から攻撃を受ける。

その母親を数人の母親が助ける。

自分たちの子供も助けたいのにどこに居るか分からない。

大声で子供の名を呼ぶ母親達。

阿鼻叫喚の地獄絵図を見た事だろう。



逃げまどう子供を探し、母親たちも奔走する。

数人で固まり捜索を続けるが、子供の姿を見つけられない。



幾人かの子供は、住宅街の近くのホームセンターのPROショップとディスカウントストアが連なってる商業施設に避難した。

同じ園のボスママとその側近ママ達が、母親もそこに集まるようにSNSを使い通知した。


「小夜ちゃんママ、あの化け物を倒した後に苦しんでたからもうだめなのかと思ったら、なんと若返ってデカくなって生き返ったんよ」
「亮くんママも若返っただけじゃなくて背まで高くなってたんよ」
「あの人らもみんな若返って見た目が変わっちゃったんよねー」
「見た目は変わっても、偉そうなんは一緒やけど」






 「琴南ことなみさん、お子さんは大丈夫でした?」

20歳過ぎにしか見えないボスママが一人の母親に問いかける。 
 (見ればわかるだろうに・・・)

「いえ、すぐに探しに出たいんだけど、ここに集まって何をするんですか?」

 「ここ新在家しんざいけ南地区の皆さんの安否確認でしょ」
取り巻きの女性が言う。

「それでは、私は生きてますので、これで子供の捜索に行かせて頂きます」
 「琴南ことなみさん、勝手な事言わないでね。ここでの仕切りは私たちが致します」

このボスママと、朝の混沌の時間で若返った取り巻き5人の子供達は無事ここに避難している。

そして、同じ園の違う母親たちがこいつらの子供と、母親が亡くなった子供達の世話をしている。



自分たちは不安要素が無いから悠長に構えているけど、こっちは必死なんだよ。

第一おまえに従う意味がわからない。見た目ギャルみたいだし。


そう思いつつも言葉に出して言い返しが出来ない、ヒエラルキーの下層に自分は居る。




 「まぁいいわ、行くのは良いけど必ず30分に一回はここに帰ってくるように」

「そんな短時間で探すなんて無理です」
「せめて1時間でお願いします」

 「めぐみさんがそう言ってるんだから30分で帰ってきなさい」

取り巻きの側近女がキツイ言い方で命令してくる。

逆らっても仕方ないので、渋々了承して捜索に出かける。

 「あっ個人行動はしないでね。最低でも3人以上で行動して頂戴」



  「それじゃー私たちと一緒に行きましょう」
そう声を掛けてくれたのは、常々仲良くしてくれてる二人だった。

2人とも朝と容姿がまったく変わってしまっているが、中身まで変わった訳ではないので、話せばすぐに本人たちだと分かる。




まずは隣のPROショップのホームセンターで武器の調達をする。

結構な数の人間が物色をしに来ている。

武器になる物は色々とあるが、二人が持ってきてくれた45㎝の軽量バールを選んだ。

重さはあまり感じないので選んだが、素手だとすっぽ抜けないかな?



そう思い、手袋も探して見つけて手に入れた。



2人はそれぞれ自分の使いやすい物を選んで手に持っている。

  「あー手袋は良いねー。どこにあった?」

手袋の位置を教えて、二人も手に装着する。

 「やっぱりしっくりと握れるねー」

3人で商業施設から一緒に出て、子供とはぐれた国道43号線の方向に歩き出す。


「ありがとうねー小夜ちゃんママ、亮くんママ」
「二人とも、背も高くなって若返って・・・」

 「琴南さん、いつもの呼び方で良いのよ」



その二人、丘さんと多田さんとは、普段は旦那の名字で呼び合っている。

良く3人でランチとかも行くので、一々何々ちゃんママは面倒だと言う事でそうなった。


他のママ友が居るような場所では、ママ呼びするようにしている。

ただ、さすがにこれだけ見た目が変わると今まで通りにと言うのはちょっと躊躇ためらう。


「でも、そんなに変わるなんて驚きです」

 「ふふふ、私はもう死んだと思ったわよ」
  「私ももう何が何だかわからなかった」


  「丘さんを助けようとあのゴブリンを叩きのめしたらすぐに発作が起きて・・・」

「すごく苦しんでたから、もう助からないのかと思ってた」

 「琴南さんも若返ってみない?」

「えっ?どうやれば?」

  「簡単な事よ、ゴブリン殺せば、経験値が入ってレベルが付くの」


なんと荒唐無稽な話なんだと思った。

だが、丘が見せたステータスボードを見て、それを信じずには居られない気持ちになる。


異世界ファンタジー小説や漫画は大好きだ。

この多田と言う女性がその手の趣味が強く、自分も丘も巻き込まれて好きになったくちだ。


「その前に子供を探さないと」

  「そうだね。でも子供だけでどこに行ったのか」

 「探すと言っても、どこをどう探せばいいのか」


少し歩くと住宅街の方から数体のゴブリンがこちらに向かって歩いて来る。

物陰に身を隠し、奇襲を試みる。


 (フゥフゥ)
心臓がドキドキしすぎて破裂しそうだ・・・

人と争った事も無いのにいきなり魔物とは。


  「今よっ!」
多田の指示でゴブリンに殴りかかる。
 
 ガシッ ボコッボコ
数発殴るとターゲットのゴブリンはゆっくり膝を折る。

残りは二人が危なげなく叩きのめす。



丘は先の尖ったスコップで暴れる。

多田は重いつるはしを振り回している。


 (ヒュン)
「えっ?」
「ギャァァァァァァァ」


死ぬほどの苦痛に身体全体が悲鳴を上げる。

この二人も朝、これに苦しめられていた。

こんなんなるなら教えろよー

心の中で大きく叫ぶ。




 「「おめでとう」」
どれくらい苦しんでいただろう。数分のような数時間のような。

黒く汚い肉塊のような物を吐き出し、口の中では全て抜け落ちた歯が溢れる。
 ペッペッ

それでも数十秒ほどでメキメキと音を立てて、すべての歯が生えかわった。
気持ち悪い・・・

「ハァハァハァ」
「はぁ~ 苦しかった~」

頭も身体も妙にすっきりする。

そして、子供が見つからずに焦る気持ちや不安感が何か消えたような感覚になる。


  「まずは自分のステ見てみよか」
多田に言われるがままに呪文を唱えてみた。

「ステータスオープン」



琴南華那子(42)
Lv1
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/USU
HP 15/15
MP 10/10
STR 10
DEF 10
AGI 10
DEX 10
INT 10
SP/0
基本技能一覧      
8-0/3-0



「おぉ~」
自分の名前が入ったステータスが現れた。

レベルが0の時の強さが分からないからどうとも言えないが、力は湧いて来る。


「ちょっとそれいっぺん貸してくれへん?」

多田からつるはしを借りて持ってみると、片手で持てるくらい軽く感じた。

店の中で持った時は重くてこんなので戦えないと思ってたが・・・


「なんや、軽ぅ~感じるわ」
  「そりゃレベル付いたからな」

 「よっしゃ、これでまずはスタート位置に立ったなぁ」
  「レベルも2になったし、ほないこかー」

「ねぇ、二人ともそんなに関西弁使ってたっけ?」
  「いや、さっきからあんたもやで(笑)」

「普段、夫の前だと普通に神戸弁だけど、ママ友といる時は気を付けて丁寧語で話してた」
  「み~んな猫かぶってたってこっちゃな」


3人で大笑いした。




でもそんなに面白い事でも無い様な気もする。


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