厄災の街 神戸

Ryu-zu

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第三章 健斗と美咲と新たな出会い

空に浮かぶは何者ぞ2

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健斗は上空に飛び上がりモンスターを探す。

進化教室の為の生贄である。



確かに、市役所を中心に半径数100mくらいにはまったく魔物が居ない。
周到なバリケードもあって、魔物が入り込みにくい街を作り出している。
上空から見ると、まるで迷路のように道を塞いだり開けたりしている。

広い国道沿いには、市バスが渋滞しているように歩道に沿ってビッチリ並べられている。

さすがだ。

だが、今の状況は入って来にくいが出て行きにくい構造だ。

まぁその辺はきちんと考えているだろう。
人員も豊富なので、出来る事は無限だ。

健斗は、自分ならどこまで出来ただろうかと自問自答するが、答えなんて出るはずも無い。
だが、ここまでの事は出来なかっただろう。

200人もの人間を束ねる事も自分には絶対に無理である。
たった十数人にすら不信感を与える事しか出来なかったのだから・・・




獲物が見つからないので、少し東に戻り索敵する。

阪神高速の生田川ICの近くまで来ると、ハンバーグ専門のゴリラもびっくりするお店と青い看板のコンビニが隣接する場所に目を付けた。

ここの駐車場に魔物を追い込んで、屋根の上から石礫いしつぶてでダメージを与え進化させる。

それか普通にゴブリンを拉致して安全地帯で進化させるか。

でも安全地帯の中に魔物を入れるのは、ここのギルドや避難民に対してあまり良い印象は与えないだろうと考える。



屋根の上に手ごろな大きさの石を集めていたが、ふと目に付いたのがパチンコ屋の上階にあるゴルフの打ちっぱなしだった。
さすがに練習をしているような頭のねじが飛んだ人は居なかった。

上空に上がると、国道の浜側にも大きな打ちっぱなしがある。

弾に困ることは無いな。



かごの中に練習用のゴルフボールを詰め込みコンビニの屋上に何度か運ぶ。

3000球以上は運んだので、次は獲物を探す。



上空に昇り思案する。

東に行けば間違いなく居るだろうが、ここまで誘い込めるかどうか。

南に下ってハット神戸の方に向かった方が良い気がする。

国道を超えて少し南下するとT字路に出る。そこを東に曲がると灘浜脇浜線と名前が変わり摩耶インターまで続く。
道路の左右には高層住宅が延々続くので、ここにも沢山のゴブリンが潜んでいるのは間違いない。


少し高めに飛翔すると、狩場かりばのすぐ近く、ハーバーハイウェイの高架の手前の小野浜公園の横の空き地の辺にイノシシの姿が見えた。

(今朝倒したシルバーボアかな?)

そんな事を思いながら近づいてみた。


鑑定で見ると、ストライプボア と出るがあまり聞いたことが無いな。

容姿を見ると、背中にウリ坊のように大きな縦縞たてじまが4~5本通っている。
牙はさほど大きくは無いが、口に対して45度くらいの角度で上を向いている。

殺傷力は高そうだ。

体躯は普通の牛くらいはあるだろうから、まぁまぁ大きい方だろう。

ステを見ると、今の自分や美咲の敵では無いが、やはり慢心は危険なので気持ちをあらためる。
猪突猛進で体当たりをされれば、多少なりともダメージは受けるだろう。

そして、肉は上質との鑑定が出た。

悩む・・・

今から育てるメンバーの中に肉屋さんでも居れば良いんだけど。

いや、解体が出来る人を数人育てないと、ここのギルドの食糧事情はいつまでたっても解消されないだろう。
二足歩行は無理だけど、魔獣の食材はボア系や他にも色々あるだろう。


まぁ取り敢えず一旦青い看板のコンビニに戻って考えよう。





健斗は相変わらず自分に関係の無い事に首を突っ込み要らぬ思考を割く。
ここには大きいクランやギルドがあるのだから、健斗が色々と思案する必要性は全く無い。








美咲は兄妹二人を抱きかかえ、市役所の屋上付近まで飛び上がる。
『おぉぉぉぉ~~~』『キャァァァァァァ』

美咲が抱えてるだけの状態で、ここまで高く上がるとさすがに恐怖しか感じない。

 「あんたら二人は特別やでー」
『こ、これで飛ぶスキルを覚えるんですか?』
 『・・・・・』

妹は美咲にしがみつき、兄はブルブル震えながら気丈に振る舞う。

 「思ったより簡単にスキルを覚えたら、うちのゆぅとう事が信じられるやろ」


ほんの数分もしないうちに風纏を覚えた。

まぁ何度もやっているのであまり感動はしないが、兄が満面の笑みで礼を言ってくれるのはこっちまで嬉しくなってしまう。

妹はまだビビって美咲にしがみついている。

 「そのままやと徐々に落ちていくんやけど、上昇するイメージとかジャンプするイメージで上に上に昇って行けば、まずはOKやで」

妹に大丈夫だと言いながら市役所の屋上に持っていく。

下に足場があれば多少は恐怖も薄れるはずだ。


 「おまえなぁビビってばかりじゃなんも進まんぞ」
 「もうすぐ14歳になるんやろ?もう半分大人の仲間入りやぞ?」
 「いつまでも兄貴と母親に頼ってないで、自分の足で立てよ」

  『た、立つにも空に浮いとるし~』
 「意味がちゃうわ(笑)」

兄は恐々ながらも一人で浮いているが、妹はなかなかビビりまくって美咲から離れない。

 「せっかく覚えたスキルなのに、今すぐ使えないともったいないやん」
美咲は妹を引き離した。

 『いやぁぁぁぁぁぁぁ』

だが妹は浮いている。
涙を流しながら浮いている。

 「ほらな、別に怖くないやろ」

だが泣きながら浮いているだけだ。
キョンシーのように両手を前に出して何かを掴もうとしている。

 「周りを良く見てみ」
 「ちゃ~んと自力で浮いとるやろ」
自分の身体に纏わりつく風のドレスにやっと気づいたようで、目からは涙がこぼれなくなった。

少しの間ゆっくりと落ちていってたが、ジャンプをする格好を何度かするうちに上昇が出来るようになった。

 『おおおおお!』

 「それで、空気中になにか台があるイメージをして、そこに乗るイメージ」

空中で静止が出来るようになった。

 「おぉー凄い凄い、二人共物覚えがいいし筋がいいなぁ」

美咲自身、なかなか習得できなかった嫌な思い出がある。

 「次に上昇やなぁ」

 「鉄腕アトムって知ってる?」
 「足の裏からジョット噴射が出るようなイメージかな」
 「ジェット機のエンジン噴射やな」

『アァァァァぁぁぁぁ』『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ』
 「あっ・・・」

兄妹は凄い勢いで上空へと消えていった。
明確なイメージが出来過ぎたのだろう。

そりゃジェット噴射は駄目だろう。








「なにやっとんや」
空中で遠目を使い見ていた健斗がポツリと漏らす。


青いコンビニに戻って中に入ってみたが、やはり荒らされて大した物は無かった。
バックヤードにも入ってみたが、こっちも完全に荒らされて何も無かった。

数本転がっていた温いビールと六甲の美味しい水とかをかき集めてルームの中に入れる。
中に入って、東灘のマンションに裏技を使って入り、そこで冷蔵庫に入れる。

少し働いたので、水道で手を洗う。

(ルームの中はインフラ気にしなくても良いけど、生活魔法って簡単に覚えれるのかな?)

水道の蛇口から流れて来る水を凝視し、腕を前に伸ばし手を握って目に映る蛇口を想像する。
 (ヒュン)

しばしやっていると[水口]と言う、水を出すだけのスキルを覚えた。
これは水魔法の分類だ。

水魔法を覚えたなら、ついでに水魔法の攻撃系も覚えてみよう。

水道から流れ落ちる水を、手ですくう、投げるを繰り返すとすぐに[水弾]ウォーターバレットを覚えた。
これで風刃と水弾と中距離攻撃のスキルが出来た。

もう少しやってみる。
水弾を長く同じラインで撃ち続ける。
(ヒュン)

思惑通りに水投槍ウォータージャベリンを覚えた。

短~長距離に使える魔法を覚え、健斗は思わずスキップしながらマイムマイムを踊り出す。
(こんなに簡単に魔法を覚えるなら、もっと早くからやっておけば良かった)

少し前に弟子として教えた子が覚えてた、風を圧縮して飛ばすスキルも覚えようと思ったが、今はそんな事をしている時では無かったと思い出す。

 (今度、一人の時に色々やってみるかー)
 (美咲に見せたら、また蹴りとパンチが来るだろうな、くっくくく)
一人にやけ顔で両手を腰に当てて軽く踊りながら屋根から降りる。




健斗はストライプボアを挑発しに行った。


公園から、1体づつ3本指で軽い水弾を飛ばし誘い出す。


軽めの水弾が当たったボアはそれほどのダメージは負ってないが、攻撃された事に怒り出す。

3体とも健斗を追いかけて来る。

ドッドッドッドッド

地響きがするような大きな蹄で重い体重を支えながら懸命に追いかけて来る。

この速さだと、スキップしながらでも追いつかれないだろう。
おっと、これもまた慢心だな。気を付けよう。


青い看板のコンビニの屋根に上がり、ボアにゴルフボールをぶつける。

最初は上手く当たらなかったが、水弾とボールを30球も投げたら投擲のスキルを覚えた。

水投槍を威力を上げて1体のボアに打ち込んでみる。

ズゴンッ

ストライプボアの頭部から腹に抜けていく水の槍。


ボアはフラフラとよろめいて倒れ、そして息絶えた。
 (近距離なら威力は凄い物があるなぁ)



さて、仕込みは終わったからみんなを連れて来るかな。


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